「あんまん」「桜」「天の川」
「片方あげるよ。」
白い息を吐きながら、確か、彼女はそう言った。
どんな顔をしていたかは覚えていない。差し出されたあんまんの半分、ぎゅっと詰まったあんこが、物凄く甘かったのは覚えている。
今まで食べた何よりも甘くて、その後食べてきた何よりも甘い。今でもそう思う。
舞い落ちる雪が桜の花びらが散るのと同じように見えて、年が明けてもこんな風に隣にいられると思っていた。きっと春は桜を見て、夏は夜空を見上げて、秋は紅葉と踊って、二回目の冬にはまた、半分こにして温まる。そうやって繰り返し繰り返し年月を過ごすと思っていた。
顔を濡らすのは雨なのか涙なのかわからない。視界がぶれて、きっと天の川も大洪水なのだろう、なんて呑気に考えた。
分かたれた星々がまた出会うことは無く、ただ一人。厚い雲に宙は隠されている。彼女も隠れて見えないままだ。
一年に一度さえ会えないなんて、可哀想だ。
だけどもう二度と会えないなんて、より一層だ。
止まない雨に全身びしょ濡れになって、折り畳み傘を忘れた事を改めて後悔する。降水確率はそんなに高くなかったはずなのに天気予報は大外れだな。
「半分こ、ってやつ。」
嬉しそうな笑い声が聞こえた気がした。
ふっと影が落ちる。遮られた雨音が変に遠くに聴こえるような感覚。
ふわり香るこっくりとした甘い匂いは、いつかの塗り替えられない一番の甘さ。
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