盗難事件と大事な物
エレナに抱きしめられて数分、ようやく彼女の気が済んでその柔らかさと暖かさが離れていった。
ハッと我に返ったかのようにエレナが髪をいじりながら目を逸らした。
「ごっ、ごめんなさい。ヴィル様が頼りになる人だなあってつい……」
「別に気にしていない。あと同じ屋根の下で暮らすから堅苦しい呼び方はやめてほしいかな」
「じゃ……ヴィ…ヴィル」
「う、うん」
言っておいてなんだが、エレナにそう呼ばれるとなぜか心がくすぐられたような気持になる。別に女に慣れていない訳じゃないしそう呼んでくれる女性もそこそこいるけれど……。
「エレナの部屋はマスタールームの隣で大丈夫?何かあったら時は大声で呼べばすぐ駆けつけるから」
「はい。ヴィルの隣の部屋がいい……です」
「エレナの荷物は?さすがに全部売って路銀に変えたわけじゃないよね」
財布なら持っているだろうけどリュックとか背負っていないから置いてきたのか。
「宿に置いてきました。いろいろ積み込んでいて重たいですから」
「んじゃエレナは宿に戻って荷物をまとめてきてくれ。中央商業区においしい店があるからそこで待ち合せよう」
これからは長い付き合いだからまずは美味しい食べ物でエレナを元気づけたい。
ということで店と宿の場所を共有した。俺がエレナの部屋を掃除する間彼女は一旦宿に戻って正午に集合することになった。
◆
中央商業区にある店は俺が王都に来てからお世話になっている。美味しい食事が心を癒すことを身をもって思い知った場所だ。その喜びをエレナと共有したい。
待ち合わせ時間より早く店に到着したが、エレナもすぐに現れた。しかも緊迫した様子で走っている。
「はぁ……はぁ……ヴィル!ないの……どうしよう……どうしよう……」
息が荒くて走ってきたエレナを俺はまず宥める。
「大丈夫。まずは水を飲んで息を整えてから話そう」
経験上パニック状態で情報を伝えようとするのは落ち着いてから話すより時間がかかる。
屋敷から出た時と同じく何も持っていないのを見て大抵予想がついたが……。
「ぷはー ヴィル!宿屋に戻ってみたら部屋が荒らされていて私のリュックはどこにもないんです!どうしよう……」
今にも泣きだしそうな顔をするエレナ。
エレナが取ったのは西区にある安い宿だ。西区は往来が激しい分、外からやってきた犯罪者も活動しやすい。さすがに白昼で強盗する輩はいないが、スリや侵入盗はなくはない。
「エレナは目を付けられる理由分かる?」
身なりがいいしお金持ちだと勘違いされる可能性もあるが、安い宿を取っているのにもかかわらずターゲットになる何かがあるはず。
「とくには……あっ!これかもしれません」
彼女が見せたのは襟につけてあるブローチ。
「それは?」
「錬金術師ギルドが発行したシルバーランク資格証明です。たぶんこれで錬金術師だって分かったと思います」
俺は分からなかったが……。
錬金術師なら換金できそうなものをたくさん持っているだろうと踏んで彼女のリュックを盗んだ。となると犯人は目標を定めるためにそれなりに知識を持っているはず。集団犯罪者の可能性が高い。
これは厄介だ。集団犯罪だと品を手際よく王都の外まで持ち出して処分するだろう。
「リュックに貴重なもの入っている?必要なものがあれば俺が買ってあげるが」
「錬金術用道具一式入っています。でもそれ、普通の家の家賃一年分くらいかかるんです……」
「それなら別に問題ない。新しいもの買えばいいさ」
しかしエレナは何を言いたげそうな顔になっては俯いてしまう。
そして涙が一粒、また一粒と落ち始めた。
そんなエレナを見て俺は慌ててハンカチを渡した。
「ま、まだ他に何かある?大丈夫遠慮しないで、言ってくれれば用意するから」
「で……でも」
元気をつけようと思ったがこんな予想外のことが起きてしまって俺まで動揺してしまいそうじゃないか。とりあえず冷静を保たないと。
「本当に遠慮しなくていいから」
「……アクセサリーボックスがあります。お母さんが買ってくれた装飾品と形見のペンダントが入っています。ここに来るまで少しずつを売っていましたがなんとか残したものです……」
涙が収まらずボロ泣きするエレナが小声で言う。
「私が調子に乗っちゃいましたから罰が当たりました……」
そんなエレナを見ていると、俺は我慢できず立ち上がってエレナの頭にポンと撫でた。
「大丈夫、俺が何とかする」
「ヴィル?」
涙を流しながら俺を見上げるエレナ。
彼女にとってかけがえのない物だ。新しく買えばいいなんて野暮なことは絶対言わない。まずは諦めずできることからやろう。
「ちょっと探してみる。エレナはここで昼ごはんを食べて、夕食の材料、服や日用品を買ったら先に屋敷に戻ってくれ」
にっと笑って見せてエレナに俺の財布と鍵を握らせた。
「店長さん、この子のことをよろしく頼む」
「あいよ。でもデート中可愛い子を泣かせてどっか行っちゃうのは感心しないね」
「違う!俺のせいじゃないって。それに彼女の無くしたものを探しに行くだけだ」
「冗談だよ冗談。分かっているって、頑張りな」
店長をやっているおばさんは耳が利くから一部始終聞こえたはずだ。からかわれた自覚はあるがろくに反論する余裕がなくて店から飛び出た。
最初の目的地は騎士団だ。
◆
騎士団詰所に到着したすぐ俺がいた隊の隊長マルクに見つかった。騎士達を指導しているようだ。
「ヴィルじゃん、どうした?騎士団が恋しくなって見に来たのか」
「いや、今日はちょっと別の用事があって」
「つれないね」
「実は——」
マルクにエレナの事情を説明した。手持ちの財産や大事な母親の形見を盗まれて俺が何とかしたいことを。
「正直言うとこちらも困っている。魔王討伐遠征が終わってから一か月経ったが、治安はまだ完全に回復していないのだ」
遠征中各地の警備が手薄になって犯罪組織がそれを機に勢力を固めたらしい。
「そういえばノースクレイリアも南から侵略しかけてきたようだね。【弓聖】に撃退されたと聞いたが……」
弱っていると殺しに来るものが現れる。この国でよく言うことわざだ。要は強くなれ健康になれということ。
「その通りだ、ヴィル。それでノースクレイリアとの談判、サウスクレイリアへの打診、この二件のために騎士団は準備に駆られていてな。だからごめん!騎士団は他の作戦を立てる余裕がないんだ」
特使の護衛任務が待ち構えているため計画や編成で忙しいらしい。でも俺は最初から迷惑をかけるつもりはなかった。
「いや、大丈夫だ。情報だけでも助かる。俺一人でも何とかしてみせる」
騎士団の情報があればしっぽを掴めるかもしれない。それに相手は待ってくれない。こうしている間に盗品が売り捌かれるかもしれない。
「何をヴィルにそこまでさせているんだ?エレナって言う女の子は今日会ったばっかだろ?」
「美味しい店でエレナを元気づけたいと思ったが、彼女がトラブルに遭って泣いてしまって、それを見かねてどうしても助けてやりたいんだ」
昔からお世話になってよく相談に乗っていくれていたマルクに、つい昔のように馬鹿正直に答えた。
「パトロンになってあげたことで随分大きな助けになったのに?」
「エレナに悲しい顔なってほしくないんだ。あの子には輝かしい笑顔が似合う。騎士たる者、笑顔を守る剣と盾にならなければならないからな」
今朝見たあのとびっきりの笑顔、とても癒されたなあ。笑顔を見て幸せ気分になるから騎士の仕事はとてもやりがいがあった。
「ハハっ……はぁ……今はそれでいいか。ヴィルはそのうち自ら答えにたどり着くだろう」
笑いを堪えてマルクが意味深な発言をした。
「ん?何の話?」
「いや、どうでもいいことだ。今はそれよりも西区の情報だな。西門から入ってすぐ南にある工房区画に廃倉庫が何個かあるが使用されていないはずなのに出入りや運搬の痕跡があるため目をつけている」
西門に近いしアジトには適切な場所だ。情報に従って虱潰しに当たってみるか。
「分かった。それを調べよう」
「こっちは後処理の小隊を派遣するから気にせず暴れてこい」
「大丈夫なのか」
「ああ、騎士が下手に動くとやつらが逃げて無駄足になるから綿密な計画が必要だ。私の見立てでは2週間くらいかかる。でもヴィルなら不意を突くことができるし後処理だけならすぐにでも数人は派遣できる」
犯罪組織掃討を許可されたら、2週間くらい計画を組んでようやく出動できる。しかし騎士団は山賊退治や道路の安全確保で忙しい。危険度の低い泥棒組織の対策はかなり先送りになっている。
「なるほど、これはウィンウィンだな」
「エレナって女の子には悪いが、おかげでヴィルが来てくれて助かった」
マルクが一旦執務室に戻って、西区のマップを持ってきた。それにいくつの目印が描いてある。俺はありがたく受け取った
「ありがとう。マルク」
「こっちこそ」
一礼して俺は西区に向けて走り出した。事は一刻を争うのだ。
◆
「最後はここか」
マップに記された最後の場所に到着した。
人生はそうそう上手く行かないというかお約束というか。潰してきたアジトからそれらしき情報を得られなかった。犯罪者どもは拘束してあり、後は騎士に任せる。
「まだ異変を気づいていないようだ」
外に見張りもいない。他からまだ知らせ来ていないかそもそも違う組織か。それはどうでもいい。俺は門を蹴って何に突入した。
「なっ!うが」
反応する時間を与えず、男の一人の首を掴んで地面に叩きつけた。
「動くな」
周りには男二人いるが、驚いて手に持っていた物を落としてじっと動かない。その様子を見るに戦闘経験がなく反抗する意志がない。
「ここここの人は灰色の騎士様だ!」
「引退したはずじゃ!?」
「大人しくするから許してくれ!!!」
二人は膝をついて手を後頭部に置いて投降した。居空きやスリをするような者だ。度胸があったら山賊とかやっているだろう。
「俺はもう騎士じゃないから欲しい情報聞ければお前らを見逃してもいい」
「情報……?」
「ああ、今朝錬金術師を狙った泥棒。あるいはその品の行方だ」
さすがにここもダメなら情報がなさすぎて諦めるしかないが。
「関係あるかどうか分からないが今朝大当たりと言って大きなリュックを持ち帰ってきたやつがいた」
「ほう?どんなものが入っていた?」
「……わけがわからん棒が12本、珍しい素材や模様だから金になるに違いないとやつが言った。それと開かない小箱があった。なにやら術士が丁重に保管するものだからきっと貴重品だとか。今思えば錬金術師と言ってたかもしれねえ」
珍しい素材で作られた棒は錬成品のことか。それと開かない小箱……アクセサリーボックスと考えていいだろう。
物の内容と盗まれた時間帯を考えるとエレナのリュックで間違いない。
「その人はどこに?」
「ブツを処分するために親分のところに向かった」
「もちろん場所を教えてくれるよね?」
「ひぇっ!教えます!教えますから!」
ちょっと圧をかけてみたらあっさり情報を吐いた。親玉は西門を出てから数時間歩いたところの洞窟にアジトを構えていると。
「約束通り、今回は見逃してやる。だからもう悪事を働かないことだ」
「でも、俺らに職などあればそもそもこんなことは……」
犯罪者の大半は追い込まれた人たち。完璧な国ではない以上、どうしても落ちこぼれる人間が現れてしまう。犯罪者を排除しても根本的な原因を取り除くことはかなわない。
それでも国はできるだけ民に機会を与えているのだ。
「そうだな。最近聞いた話だが、北の魔境を開発するための開拓者を募集しているらしい。国から補助金が出るし、無償で各種の技術を教えてもらえる。危険がないと言いきれないが今より真っ当な生活を送るチャンスだろう」
魔王を討伐してからゲート一帯は抑えたが、魔界を警戒する前線基地の構築や魔境の資源開発など計画がされた。
だがわざわざ穏やかな生活を投げ捨てて見知らぬ土地に行く人は少ないからなかなか人が集まらない。
「それは初耳だ」
「こそこそ生きるよりはマシかもしれん……」
三人は考え込む。それを聞いて真剣に考えているのは好きで泥棒稼業やっているわけじゃない証拠だ。
「それじゃ俺はここで失礼するよ。お前たちも騎士が来る前にさっさとここから離れた方がいい。それじゃ元気でな」
廃倉庫を後にして俺は一旦騎士団に報告しに戻った。
詳細を聞いてくれたマルクは赤いボールを渡してくれた。
「信号弾か」
「今すぐ出発できないけど俺は数人を率いて加勢しにいく。ヴィルは洞窟に入る前にこれで知らせてくれ」
「分かった。本当にありがとう」
「いいって。早く行け。時間がないだろ?」
マルクに感謝し、身を翻し西門に向かって走っていった。門をくぐって数時間歩くところだが、走っていけばそんなに時間がかからないはずだ。
◆
超高速で走っていると数十分で目的地の洞窟からちょっと離れたところに着いて様子を探る。
洞窟の入り口で二人がキャンプしているが、雰囲気や目線からしてアジトの見張りだ。
「なんか今朝いい拾いもんしたらしいっすよ」
「あー、用途が分からない棒はすぐ大金で売ったな。なんか魔力伝導性能がいいらしい」
「あとあの開かない箱。錬金術師のものだからきっとすげえ金になりそうなものが……!」
どこの宿から『拾った』だろうな。
周りにちょうどいいサイズの石を拾って狙いを定める。気絶させるくらいの威力に調整して投げる。
「ぐわ——」
「なっ、がぁあ」
石二つが二人の頭に激突して、気絶させた。
キャンプの中にある縄を使って二人を拘束し、マルクに渡された信号弾を地面に叩きつける。すると赤い煙が発生して空に立ち上っていく。
「慎重に行こうか」
洞窟はそんなに大きくなかった。道中にいくつ騒音を作るトラップがあったが難なく避けて最深部にたどり着いた。
「ボス、あの箱はどうっすか」
「この素材は簡単に破壊できないだろ。錬金術師のもんだしロック機構が魔法式だと特殊溶剤が要る。もうちょっと調べた方がいい」
洞窟に響いた声の数、そして気配。三人しかいない。
入口のキャンプ以外生活痕跡見当たらないからこの洞窟は盗品を隠す臨時倉庫かもしれない。
まだこちらに気づいていない。
俺は弓矢を召喚して構えた。箱を持っている親玉の小胸筋を狙って無力化を図る。
狙いを定めて放つ。
暗闇を切り裂く矢は狙い通り目標に一直線飛ぶ……が、鏃は目標を貫く前に止まっていた。
「何者だ!?」
親玉らしき人物は掴んでいる矢を投げ捨てて地面に刺さっている二本の剣を抜いた。すると剣が魔力を纏われて微かに光っている。
「名乗る義理はない。錬金術師から盗んだものを返してもらおう」
「ふん、出来るもんならやってみろ。おい、こいつは弓使いだ。さっさと片付けろ」
控えていた二人が同時に襲い掛かってきた。
弓を手放すとそれが虚空に消え、今度は角棒の打撃武器が出現する。
それを二振りして襲ってきた敵を剣ごと体を吹き飛ばした。
間髪入れずに双剣使いの親玉が疾風迅雷のごとく斬りかかってくる。彼は驚きながらも咄嗟にそんな判断したおかげで俺は角棒を捨てなければならない。
そしてまた矢を放ち、牽制しながら後退した。
「双剣マスター、で合っているかな?元軍人だろ」
「よくわかったな。おめぇ、騎士なのか」
「引退した騎士だ」
素早さや反応速度からして手練れなのが明白。その上適切な判断で部下をフォローしようとした。軍では隊長クラスくらいだっただろう。
でも他の二人は元軍人じゃなさそうだ。
「ま、そんなことよりおめぇ、近接武器を捨てていいのか。こんな洞窟の中、弓で双剣に勝てるわけないだろ?」
しばらく再起不能な二人を放っておいて目の前の男に集中する。
「それはどうかな?」
マスター級なら遠慮はいらないか。
距離を取られた双剣使いは二振りの剣気を放ち、再び突進した。距離を詰めて畳みかけるつもりだ。
だが退役から久しいか。マスター級にしては所々不足を感じる。素早さの強化も段々落ちていく。おかげで容易く避けられた。
「これを避けてみろ!!!」
攻撃が届かないことに焦ったか。双剣使いはより多く魔力を剣に込めて特大な剣気を放った。だがそれは身体強化魔法を犠牲にする隙でもあった。
俺はそんな魔力の塊を超高速強化で避け、彼の視界から消える。再び位置を捉えられた瞬間俺はすでに弓を構えていた。
弓矢に魔力を込めて放つ。放たれた矢は鏃以外魔力に耐えられず途中で分解したが、魔力を纏った鏃は一直線飛ぶ。
「この程度——、……っ!?」
放たれた3本の矢は同じタイミングで着弾するように魔力で調整した。男は双剣で2本を落としたが3本目を対応できず受けてしまった。
普通なら体を貫通する威力だが鏃が彼の肩に突き刺さっている。強化魔法による防御力だ。さすがマスター級と言ったところか。
「え!?」
狼狽える時間すら与えず、次の瞬間俺の長剣は彼の肩と胸の間を貫いた。最初奇襲で狙っていたところだ。双剣使いの右手は力が入らず剣を落とした。
「俺自身が4本目の矢だ」
「武器召喚……それと戦い方。おめぇ、あのウェポンマスターだったのかよ……道理であっさり武器を捨てた」
諦めたようにもう一本の剣を手放す男。殺気も抵抗の意思も呆気なく霧散した。
「意外とあっさり諦めてくれたな?」
「この実力差で勝てるわけがねぇ。それに、殺すつもりがない内に降伏した方が命が助かるぜ。致命傷与えようとしなかっただろ?」
もっと粘れる人いるが彼はマスター級で下位の方だろう。さすがに上位のマスター級相手だと殺すつもりで戦わないといけない。
「さすが元軍人、いい判断だ」
決着つけて10分ほど後、マルクと騎士数人が洞窟に入ってきた。
「ヴィル、大丈夫か」
「問題なく制圧した」
俺はあの三人をマルク達に任せてエレナのリュックと小箱を回収した。他の盗品は騎士団に任せよう。
「マルク、これ騎士団に預けないでそのままエレナに返しても大丈夫?」
「ヴィルなら信頼できるから構わない。むしろ手続き減らしてくれて助かる」
捕縛された三人は立たされて連行される。それを眺めているとちょうど双剣使いと目が合った。彼はなぜか笑っていた。
「何が可笑しい?」
「いやぁ、一瞬で負けたけど10年ぶりに戦場の高揚感を味わえて楽しかったぜ!ハハハッ……!」
「……」
高揚感か……。
俺は魔王討伐のことを思い出す。一人目の魔王を牽制する時の高揚感はすごかった。人を守る騎士じゃなくて武者として生き甲斐を感じる瞬間だった。
ならば二人目の魔王と対峙する時はどんな感じだった?無我夢中で戦っていたからはっきり記憶に残らなかった。もし高揚感があったらどんなものだったのだろうか。
……と、気になっても仕方がないし俺はマルクに礼を言って洞窟を後にした。今は優先すべきことがあるのだ。
王都が見える距離まで来て歩を緩めた。そして今気づいたけど道端はきれいな花がたくさん咲いている。春なので植物たちは元気である。
花を眺めているとふと少女の顔が浮かんだ。
「エレナの大事な物を取り戻せたし。これで笑顔になってくれるといいな」
そんなことを考えながら俺は王都へ続く道を進んでいくのだった。
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