第3話
ブラックギルドの総面積は、大体東京ドーム一個分強である。
正式な面積は誰も知らないので大体だ。測量もめんどくさいのでしない。
結構な面積を持つ敷地には、様々な施設が存在している。
一つづつ紹介していくと数週間かかるので、あいにく今回は割愛させてもらうことにする。
目的地はバーだ。メインハウスの横に増築されたかのようにくっついているが、元々そういう作りで、とある人が趣味で立ち上げたバーである。
隠れ家や秘密基地的なものを意識しているらしく、全体が薄暗く壁際の棚には各種様々なお酒のボトルが並ぶ。
しかしそんなことより入って最初に目につくのが、巨大だがどこか暖かみの感じる一枚板のカウンターテーブルで、一般的な成人男性が五〜六人縦に寝られるほど長く、重厚でしっかりとした作りをしている。
内装には端材を利用してツギハギ状に貼られた壁もあり、詳しく無いのであまりわからないがとにかくお洒落である。
いまだに納得していないエンネは、そんな複雑な感想を抱えながら、おっかなびっくりにお洒落すぎる通路を抜け、カウンターに並ぶ背もたれ付きのシングルチェアに座る。
顔を上げるとそんなカウンターの中で、黄金色に輝く骸骨がウィスキー用のオールドグラスを柔らかい布で磨いていた。
もう極端に驚きはしないが、それでも小市民ゆえ身体は反応する。
「飲みな」
そういって出されたのは何やら鉄製っぽいタンブラーに入った僅かに甘くさっぱりした後口のありふれた果実水の一つだ。
この世界でも当然水は貴重であり、多少不味くても美味しく水分を取れるようにしぼった果実ジュースを水で割って飲むということが定番だ。
ただ悪い水でも味がごまかせたり、果実ジュースの量が少なすぎてもはやただの水ということも多く、そういった事情もあって当然ながら品質は安定していない。
しかしこれは。
「すごくおいしいです・・・」
「良かったねぇ。彼がうちのナンバーツー的な存在で、カラスマ・レイジ君。こう見えて彼は仙人なんだよね」
「せんにん・・・?」
「あ、そうか、そういう概念が無い? なんかこう、自然エネルギーを操る感じなんだけど」
「はぁ・・・?」
「よくわかんないかー。んまー、うちではかなり常識人だから何かあったら彼に相談するか、僕かってとこだね。間違ってもさっきの猪突猛進に相談してはいけない」
バードは腕を組んで噛みしめるようにうんうんうなずいているが、同時に骨も激しくうなずいているので、組織のワン、ツーがそういう反応だとギルドの共通見解なのだろう。
それはそれとして、と、前置きしてからバードは黄色い液体が入ったグラスを受け取って一口飲んでから続けた。
「もう聞いてるとは思うけど、君は運悪く?運良く? うちのギルドメンバー育成枠として当たりましたおめでとう」
「冒険者ギルド本部で聞きました。最初は光栄に思ったんですけども、まさかこんな無茶苦茶だとは思わず」
「・・・ん? ギルドマスターからうちの評判聞いてないの?」
「あ、いえ、もちろんギルドマスターから情報は頂いています。とても優秀で過去に類を見ない能力を持つ集団だと」
「え、あ、うん。そうっすね・・・上手く言えばそうか、そうなるのか・・・」
彼はだいぶ渋い表情であごの無精髭を触りながら、あさっての方向を見た。
黄金色の骨さんもとい、カラスマは一言も発さず、ひたすらグラスを磨き続けている。
「冒険者支援制度って知ってるよね?」
「はい。未熟な冒険者の死亡率を下げるための制度で、大手もしくはギルドの一定基準値を満たしているギルドに所属し、基本、応用等を学んでから巣立ったり、そのままそのギルドに入ったりするやつですよね? 今回それに応募して配属されました。お試し期間一年の予定で、その後は自由だと」
彼女は目線を上にあげて受付嬢に説明された内容を思い出しながら答えた。
正式名称は『王国による冒険者ギルド支援機構』だ。
王国だけでしかやっていない支援制度で、他国ではそういった支援制度そのものが無い。
ある程度国庫に余裕のある王国ならではの制度である。
それゆえか、王国では優秀な冒険者が多数所属しており、冒険者を引退した者たちも居心地の良さを感じてそのまま居住するものが後を絶たない。
そのため、市井でもきちんと戦える市民が数多い。
事実、彼女が村を出て首都へ向かっていた際も王国運営の乗合馬車に移動してきたのだが、街道に偶然飛び出してきたモンスターの類は全て御者のおじさんが一人で倒していた。
話を聞いてみると元冒険者でシルバーのシングルなのだと恥ずかしそうに言っていた。
ついでに何故恥ずかしいのか理由も聞いてみたら、『冒険者ギルドのルールを知らないのか?』と問われ、『今向かってるとこなの』だと答えると、だからかとおじさんは納得しつつ首を傾げるエンネに説明してくれた。
シルバーのトリプルまで所属国への兵役義務が発生してしてしまうが、ダブル以上でなければ最前線に配置されることはないため、戦争への恐怖ゆえ意図的にランクを上げなかったのだと。
もし戦争があったとしても、人を殺すことだけはしたくなかったんだと、おじさんは頭を掻きながら語ってくれた。
とても優しいおじさんだった。
「大枠はそれで正解。でも実際は三年だったわけだけど、そこんとこについては再度言うけど申し訳ない。マジで。」
「よく確認しなかった私が悪いのでもうそれは大丈夫です」
「そっか、ありがとう」
「それで・・・強く、してくれるんですよね?」
バードの目を真っすぐ見つめながら、エンネは全身を少しこわばらせながら小さな声で言った。
彼女のその目は、射貫くようでも、探るようでも、刺すようでもない。
ただただ純粋に力を求めて、純粋に期待する真っすぐな目だ。
邪な理由で力を得たい目ではなく、何かを守りたいからと願う目だ。
それに気づいたバードは、少々驚きながらも微かに笑みを浮かべて応えた。
「それは間違いなく。三年で君を一流の冒険者にしてあげよう」
しばらく注意事項を伝えた後、明日太陽が昇ってしばらくしたら広間に集合することにした。
エンネは自分の部屋に向かうため、扉の前で会釈してバーを出た。
「それでカラスマさぁ、なんで無言だったんさー。なんか援護してくれてもええやんけー!」
「何言うとん?おっさん二人してはやしたてたらわかるもんもわからやろ↑がい↓。子供いじめて何が楽しいんやええ加減にしなさい」
「いじめてないよー誤解だよー」
「はいはい愉悦愉悦」
「そうだよー」
「やっぱ自分いじめとるやん」
「チガウヨー」
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