第22話 下見

そうこうするうち、駅の近くまで来ていた。

通りを左に曲がり少し進むと、広場なのかサッカーコート半分ぐらいの

空き地に出た。

その空き地の向こうの端に、集会所は立てられていた。


建物のそばまで来ると、なるほど木造築70年、かなり傷みがひどいようだ。

中にも入ってみた。

明り取りの窓がたくさんあるんで、思ったほど暗さは感じない。


入ってすぐに、教室半分ぐらいのフロアがあり、

その先には教会で見かけるような、長椅子と長机が通路の左右に並び、

その向こうには、教壇らしきものが置いてある。


教壇のわきには、ステージらしきスペースもあるので、

全体の広さは、教室3つ分ぐらいはありそうだ。

天井がなく直接屋根の内側までなので、高さは2階建ての、吹き抜け以上にある。


ここは教会なのかと、レティに尋ねた。



「教会?ここは集会所ですよ。

結婚とか葬儀とか話し合いとか、お祭りのときなんかにも使いますよ。

現世様の世界では、教会っていうんですか」



用途は同じようなことなんだけど、基本は神様の家というか、

祀ってあるところというか、そんな場所だねえ。



「神様?ですか」



神様、知らない?



「ハイ」



そうか、この世界には、神様いないのか。

確かに夢の中で神頼みってのも、ピンとこないかな。


それはいいとして、この広さと高さをすっぽりカバーできればいいってことね。

広さは問題ないとして、高さのほうをどうやって確かめたもんかなあ。


レティに、このあたりで登ることができる一番高い建物はどこか聞いてみた。


ほとんどの家には、2階の屋根裏部屋に明り取りの窓があって、

そこに梯子をかければ、屋根に上れるという。

もちろんレティの宿もそうだという。

じゃあ帰ってから、それを調べますか、

俺が屋根、レティが裏庭、それで届けばオッケーってことでしょう。




そして検証は問題なく終えた。

そのときはジョナサンも立ち会っていたので、成功を皆に知らせ、

明日の準備に掛からねば、と勇んで急いで出て行った。


なのでレティはアンナの手伝いをしなくてはならず、

俺は一人、部屋で夕食をとった。

レティと二人なら、美味しい食事と楽しい会話と、甘いキスとオッパイと。


この世界には、神様いないんだもんねぇ、

オッパイオッパイオッパイオッパイ、

ここに、宣言いたします、

俺はレティと彼女のオッパイが、大好きだあああぁぁぁッ。




ジョナサンは店の開店からほどなく、他の役員らと帰ってきた。

そこからは明日に備え、手配していた材料や人が集まりだし、店はごった返した。

結局、そんな時客の相手なんかできず、店は臨時休業となった。


レティはご機嫌斜めだった。

だったら、最初からそうしてればよかったのに。

そしたら現世様と、美味しい食事と楽しい会話と、キス、イヤん恥ずかし。

現世様、食事終わったかな、

こっちがひと段落したら、お片付けに行かなくちゃ。




食事も済ませ、これといってすることもなく、

風呂行って汗でも流してこようかな、とか考えているとき、ノックの音が。

ジョナサンが、明日の打合せにでもきたのかな、と思いドアを開けると

レティがいた。

あの、心もとろけそうになる笑顔が目の前に。


食事は終わったかと聞かれ答えると、食器の片づけに来たという。

彼女が部屋に入り片づけを始めた。

その時もちろん、窓際の特等ポジションに、つきたい気持ちをなんとか抑え、

俺はベッドに腰掛けた。

神様がいないのは分かっているけど、吾輩はジェントルメンだからして。


ジョナサンかと思ったと、言ったらレティは片付けながら、

今下がごった返していることを教えてくれた。

やることないから、風呂にでも行こうかと思ってた、と言うと、

今現世様が、下の人たちの目に触れたら大変なことになる。

やめたほうがいいと言われた。

そこは素直にレティの意見に従った。


この時代、いやこの世界の人達は夜のこの時間、普段は何をやっているんだろう。

TVもPCもスマホもゲームもなし、何もすることがないんだけど。

レティに聞くと、いろいろとやることはあるという。

服とか布類のほころびの修理とか、靴の手入れとか、道具類なんかも、

出来るだけは自分たちで補修しているという。


そうか、そうだよな、日本だって何十年か前までは、そうしてたんだよな。

昼間の生活や仕事のために、夜のうちにやっておくこと、

そういうことがあったんだ。

現代はそういうことを、自分でやる必要がほとんど無くなったから、

時間が出来たんだな。


レティは食器の片づけを終え、新たに持ってきたカップにお茶を入れてくれた。

俺はテーブルに移り、椅子に座った。

レティも、向かいの椅子に座った。


ランプの暖かい光と、外からの月明かり。

それらに照らされたレティは、ほんとに美しかった。

俺はこの世界、いやこの場所にこれたことを、心から感謝した。


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