第21話 依頼

厨房では、ジョナサンとアンナがまだ忙しそうにしていた。

俺達は帰ったことを告げ、ジョナサンに今日の結果を報告した。



「やはりそうですか、

貴方様はすぐにお力を身に付けられると、思っておりました」



彼は自分の見込んだ通りだったと、大いに喜んだ。

まるで自分のことのように、自慢げに言うものだから、アンナからは、

現世様がご努力なさった賜物でしょうに、と諫められていた。


それでも彼の喜びは収まらず、祝杯をあげようと言い出して、

今度は女性陣二人から引き止められた。

それはお店が終わった後からにでも、

と俺からも申し出たので、彼は渋々ながら従った。

そろそろ夕食の時間だったので、俺は部屋へ引き上げた。


しばらくするとレティが、二人分の食事を持って部屋に来た。

俺達は食事を取りお茶を飲み、とりとめのない話しを続けた。

そしてふと、会話が途切れた。

俺達は黙って見つめ合った。

俺が彼女の方へからだを寄せると、彼女は目をつぶった。

もう少しで彼女の唇に、というところで、ドアがノックされた。

俺たちは弾けた様に飛びのいて、互いに離れた。



「ど、ど、どうぞおう」



俺が答えると、ドアからジョナサンが笑顔で入ってきた。



「お食事はお済でしょうか、もしよろしければ少々お時間を

頂きたいと伺いました」



俺は、今までレティが座っていた椅子をすすめた。

彼女は飛びのいたと同時に立ち上がっていて、

アタフタしながら、食器の片づけを始めていた。


ジョナサンはレティを気にも留めず、椅子に座り話を始めた。


一昨日の夜俺がこの店に現れ、次の日から町をうろついたことで、

噂が一斉に広まり、昨日の夜から、店には入りきれないほどの客が

押し寄せているという。

俺も一杯やりに行ったとき、そう思ったことを覚えている。


というのは、町の世話役の一人でもあるジョナサンに、俺の様子を

聞こうということらい。

俺は何しにやって来たのかとか、力を借りる願いをしてもいいもの

なのかとか、それぞれに聞きに、きているという。


ジョナサンは俺が来た翌日、早速朝から他の世話役たちを集め、

俺は力を扱う練習中だと、伝えていたらしい。


店に来ている客たちにも、俺への対応は、町として世話役たちで、

話し合い決めていくので、個人的な願い事とか、みんなが勝手に始めたら

キリがないんで、止めるように言ってあるとのこと。


そこで今日、俺たちの成果を聞き、ぜひお願いしたいことがあるという。

それは世話役たちと、話し合っていたことで、

もし俺が、コントロールできるようになったら、まずは、傷みが進んで

いる集会所の補修に、お力をお貸しいただきたい、ということだ。


前回、黒髪の現世さんが来てからすでに70年、

なかなか修理する切っ掛けもなく、手つかずになってきていたのを、

この機会に手掛けたいのだという。


俺は、俺の力をどう使ってもらっても構わないから、都合がいいように

進めてくれていい、

そう言うと、ジョナサンは大きく何度もうなずき、今予定していることを

俺に伝えた。


明後日、俺が来て5日目の日、その日はこの町の休日だということ、

その日なら補修に関わる者を一斉に集め、作業にかかれること、

そして黒髪の現世さんは5日目に去っているので、それを目途としていること、

など。


なので俺には明日、その集会所を下見しておいていただけないか、

ということで、レティには案内を言いつけた。


食器の片づけを終わらせ、ベッドの端に座って話を聞いていた彼女はうなずいた。

俺はそれでかまわない、と返事すると、彼は段取りを進めるので、

よろしく頼むと言い残し、部屋を後にした。


俺はレティを見た、彼女も俺を見ていた。

彼女はニッコリ笑って言った



「明後日お店お休みなんで、明日は生地の仕込みがないから、お昼には

帰ってきます。

それから集会所を、ご案内しようと思うんですけど、いいですか」



もちろん、それでいいですよ。

ここで待ってれば、いいんでしょ。

では、そういうことに。


レティは食器を積んだワゴンを押して、部屋を出ながら振り返り



「現世様、お風呂に入って下さいね。お着替えご用意しますから」



と言い残し、部屋から出ていった。


そうね、今日は外で随分暴れたからね、埃まみれだよね。

すぐに彼女は、着替えを持って部屋に来た。

着替えを受け取る時、さっきは邪魔が入ったことの続き、

俺が近づく、彼女が目を閉じる、のその先、

甘~いキスを、長~く交わしたことは、言うまでもない。




翌日、俺は部屋でレティの帰りを待った。

経験を活かし、アンナに手伝いを申し出るようなことはしなかった。

言っていたように、昼過ぎにレティは帰ってきた。

彼女が持ち帰ったパンで昼食をとり、そのあと二人で出かけた。


修理をしたい集会所というのは、駅の近くにあるらしい。

レティと二人、並んで通りを歩いた。

人も馬も馬車も、やはり上手に俺をかわして行く。

ところで気になっていたことを、レティに聞いてみた。


最初に一人で駅に行ったとき、遠くからでも町の人たち、俺のことが

わかってたのはなんでかなあ、って思っていた。

今と違って、力なんてほんの数メートルしか伝わってなかったはずだし。

レティはニッコリ微笑んで教えてくれた。



「現世様はキラキラ、光って見えるんですよ、私達には。

光のオーラを、まとっているような感じで。

それは遠くでも昼間でも、見えるというより感じるんです。だから気付くんです」



そう、キラキラなんだ。

それって眩しくないの、そばにいたりしたら。



「いえ、そんなことはありませんよ。

目で見て眩しい光とかじゃなくて、ただそう感じるんです」



へえ、よくわかんないけど、

そういうことなんだね。ま、いっか。

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