第17話 木陰

食事は、町外れの林まで行って取ることにした。

静かだし、人目もなくて落ち着く。

二人で歩いているときは、すれ違う人たち、立ち止まらないんだよなあ。

なにが違うんだろう。


おしゃべりしながら歩くと、すぐに町外れに着いた。

適当な木を見つけ、その下でバスケットから出したチーズやハムと一緒に、

店から持ってきたパンを食べた。


レティが俺に食べ物を渡してくれる時、指先に目が行ったらしく、

どうしたのか聞いてきた。

俺が、チャイニーズスープ100杯分の話しを聞かせると、

腹をよじらせて笑った。

レティは目じりの涙を指で拭いながら俺の手を取り、ナプキンで指先を

拭いてくれた。

けど、そんなもんじゃ取れやしないよ。

石鹸で洗ってそれだから。


食事も終わってお茶もして、ほんとここはのんびりできていい。

周りに木がいっぱいあると、空気もおいしいような気になってしまう。

俺が、ついあくびをすると、バスケットに物を片付けていたレティが、

それを見て、そばの木に寄りかかり、両足を伸ばし、

太ももを、両手でポンポンとした。


俺は、ポンポンした両手とレティの顔を交互に見た。

そしたらレティがニッコリして、もう一度ポンポンした。

それってあれですか、30分とか60分でお金を支払ってお願いする、

膝枕ってやつですか。


いいんですか、知っているとおもうけど、

俺、お金持っていませんからね。

俺が黙ってじいっと見ていると、レティはぽっぺをぷうっとして、

また、さっきよりチョッと強めに、ポンポンした。


俺は、即行でハイハイしてレティのそばへ行った。

彼女は太ももに置いていた両手を、からだの脇にずらし、そのスペースを

空けてくれた。

俺は心の中で手を合わせ、とりあえず、仰向けに頭を彼女の太ももにあずけた。

おおっ、後頭部に感じるのが、彼女のキラキラしたあの太ももか。


見上げると目の前には青空、木の枝、木の葉、そして、

圧倒的な彼女の、オッパイ。


レティ、君の顔、そのオッパイに隠れて、見えてないから。

ほら、もうチョッと前かがみになって、そのカワイイ顔を、見せておくれ。


まあ、俺に見えてないってことは、彼女にも見えてないってことで、

彼女は俺の顔を見ようと、必然的に前かがみになるわけでして。

そこには、巨大なオッパイの谷間に、彼女の顔がという、奇跡的なショットが。


これは夢の中の、コトなわけでして、一富士二鷹三茄子、

そんなものアッサリと蹴散らすほどの、有難い光景であります。


彼女は片手を、胸の上で組んだ俺の両手にそっと添えた。

もう片手は、俺の頭へ、髪に指をからめ、なでなでしてくれている。

俺は目をつぶった。

レティの体温が、頭に伝わる。

この世界でこうして過ごしていると、どっちが現実だか、

どんどん曖昧になってきている。


もちろん、ちゃんと記憶はあるんだけど、ちょっとずつ薄くなっているかんじ。

忘れるんじゃないけど、遠い過去の記憶みたいに、なっているのかな。


俺はすぐに眠りに入ってしまった。

もっと彼女の顔を見て、太ももの柔らかさを感じて、チョコッとオッパイ見て、

って思っていたのに。




どれぐらい眠っていたのか分からない。

俺は、彼女の下腹部に顔をうずめた状態で目が覚めた。

無意識で寝がえりを打ったんだろう、その俺の頭には彼女の片手が添えてあり、

もう片方の手は背中に回っていた。


彼女も眠っているんだろうか。

それはこの状態では、確認のしようがない。

俺は彼女の、あそこ、いやいや、太ももの付け根に顔を押し付けたのか、

押し付けられているのか、そういう状態で眼覚めてしまっているからね。



さて、

その1、このままじっとしている。

その2、ここぞとばかりに、あそこに顔をグイグイ押し付ける。

その3、大きく大きく息を吸いこみ、彼女の匂いを堪能する。


さあ、どうする?


俺は、仰向けの状態にゆっくりじっくりそっとポジションチェンジして、

彼女に呼びかけた。



「レティ」



おーい



「レティ」



彼女は、目を覚ました。

彼女は、背中も頭も、後ろの木に持たれかかっていた。


現世様、私、眠ってしまいました。

でも、先に眠ったのは現世様ですからね。

現世様が私に頭を預けて、今にも眠りそうなお顔して、私を見て。

私は、ああ、愛おしいなあ、って現世様のお顔を見ていたんですよ。

そしたら現世様が、すうすうって。

眼をつぶって、すうすうしてるから、それを見ていて私も、すうすうって。


いけない、どれぐらいこうしていたのかしら。

ごめんなさい、つい、のんびりしちゃって。


目を覚ました彼女は、俺をのぞき込んできた。

どうしましょ、このあとは?ってことだろうな。

俺は彼女の太ももから頭を離し、上半身を起こした。

レティが俺の背中に着いた、草や木の葉を払ってくれた。



「帰ろっか」


「はい」



俺たちは居心地のいい木陰を離れ、町に帰り、パン屋に寄ってパンを受け取り、

宿に戻った。




厨房ではジョナサンとアンナが、忙しそうに準備に追われていた。

奥の方からは水の音がしていたので、エディは、水浴び場のほうにいるんだろう。


レティがただいまと声をかけると、二人はコチラを振り向いた。



「あらお帰りなさい、お食事は済ませたの?」



アンナがそう聞くと、レティは空になったバスケットを振って答えた。

俺たちはそれほど長いこと、居眠りはしていないようだ。



「何か、手伝うことある?」



レティがそう聞いた。


レティさあ、今さあ、俺の方を向いてさあ、ニヤッ、てしたよねえ、

ニコッ、じゃなかったよねえ。

キミ、なにか企んでいるわけでは、あるまいね。



「いや、お前は現世様のお手伝いをしなさい。おそばにいて、お役に立つように」



ジョナサンが、レティに言った。

彼女もそれに同意して頷いた。

もちろん、俺は大歓迎。


彼女からすぐ準備を済ませるから、それまで部屋で待つように言われた。

それで俺が厨房を出て行こうとしたとき、エディが厨房に入ってきた。


俺は彼を見た。彼も俺を見た。彼の顔色は分からない。

でもその分かりずらい表情からも、たぶん、真っ赤になっていたんだと思う。

彼の頭上には、ありえないものが浮かんでいる。


それはなにかっていうと、水?、水なの?

なんだかプヨンプヨンしたものが、彼の頭の上、よく見ると、彼が両手で

それを持ち上げている状態なのか、大きな塊がそこにあった。


俺以外の3人は、それを別に何とも思っていないようで、ただレティは



「おお、今日は一段と大きいねえ」



そう、エディに声をかけていた。


エディは、彼女に目も合わせず、そして一言の声も発せず、

俺の前を通り過ぎ厨房の奥へ行き、その大きな水の塊のようなものを、

そっと桶の中に入れた。

そして彼は、入ってきたとおりに出て行った。

俺だけ、間抜けな顔して、その場にポカンと立っている。


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