第九話 花芽吹く時、咲き誇る夫婦の魂
(憐の爺さんの言葉に、ふらつきながらゆっくりと後ろを振り返って来た耀の婆さんは、ポツリと語り始めた。その言葉を聞いた俺と憐の爺さんは、言葉を失ってしまう)
≪誰ですか!?貴方は!?何故、私とあの人の事を知っているのですか?それに、その時計は、あの人が取りに帰って来ると言っていた懐中時計ではありませんか……。なぜ、あなた方が持っているのですか!?≫
(憐の爺さんの事を忘れてしまっていた。その事に爺さんは、自らの戒めの罰と自己判断した様な表情をしていた為、俺は星の爺さんを奥へ追いやり、耀の婆さんと憐の爺さんに怒鳴り散らしてやった)
おい!!婆さん!!アンタ、目は閉じていても耳まで閉じちまった訳じゃねぇんだろ!!…だったら、なんでてめぇの愛した男の声くらい、直ぐに分からねぇんだよ…
(耀の婆さんは、俺の言葉に涙を流して廊下に座り込んでしまう。そして、耀の婆さんは語り始めた)
≪…あの人の声に確かに似ていました。ですが、私は霊界で彼に似た幻影を沢山見せられて来たのです。その幻影の正体は、必ず悪霊達でした。もう嫌なのです。幻影が消えた時に襲われる虚無感に見舞われる。絶望感が貴方にお分かりになられますか?何度も愛する者が、目の前から消える場面を見せられる者の気持ちが、貴方にわかるはずがない……≫
(その言葉を聞いた俺は、軽く目を閉じて過去を思い返した。両親が亡くなった後に預けられた親戚の家で、疫病神と言われたりして来た事を。そして大人になり、旅をして各地を巡り、その土地の神と名乗る者達からも忌み嫌われて来た。信じようとする者が出来ては裏切られる事を繰り返してきた。そんな中でこの地に辿り着いた。俺は山の神々や村の者達の温かい心に触れて、凍っていた心が温まる感覚を味わっていた。その村にいた、この婆さんの言葉を聞いた俺は、自然と笑みを浮かべて、婆さんと背後にいる爺さん達に語りかけた)
ふん…、俺よりも何十年と生きて来た連中が…、なにその程度で弱音吐いてんだかな…。あんた等の友人、子孫達のおかげで、俺はこの村に来て数日しかたっていねぇが、救われて来ているんだぜ…?
(笑みを浮かべながら山の方に視線を向け始める。そして軽く頭を下げる。山の神々達にも礼儀を通したかった。俺は誠意を深く感謝という思いを込めて山の神々に贈った)
この村で育って愛する者を見つけて育んで来た。その道のりからしたら、悪霊達の企みに負けてんなよ。この自然に深く愛されている土地に生きし者達ならよ…。目を開けて、あんたの愛した男をしっかりとその目ん玉で見ろよ…婆さんよ
(俺は言葉を発した後、霊界の友人達に大勢の拍手と頭を乱暴に撫でられる感触を感じた。そして俺は、星の爺さんに身体を貸した。そして、星の爺さんは婆さんの元に歩み寄って行き、耀の婆さんの身体を優しく抱きしめた)
≪…耀、私だ、南雲星だ!!私の愛した女は…強い心を持っていた。美しい女だったよ。もしも、其方が私の愛した東雲耀なのならば悪霊等に負けるでない…。帰ってまいれ…将来を誓いし耀よ!!≫
(迫力ある、星の爺さんの言葉を内側で聞いていた。俺は耀の婆さんの魂からどす黒い煙のような物を感じた。すると、俺は咄嗟に親父の霊流を全力で引くと、俺の身体を通して親父の霊流が菫の身体、そして東雲耀に長年住み付いていた悪霊達が、断末魔の様な悲鳴のような声を上げて飛散して行った)
≪……痛いです…星さん…相変わらず力強い抱擁なんですから…貴方ときたら…≫
(明らかに声の波長が異なっていた。その声こそ、東雲耀の姿を現していた。後方で憐の爺さんは背を向けて泣き始めていた。一部始終を見ていた使用人の婆さんも、涙を流しながら二人の姿を見守っていた)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます