第八話 羅針盤の示す運命の巡り会わせ

(縁側で憐の爺さんと一時的に俺の身体に降りて来た、曽祖父の南雲星の二人の会話を聞いている時だった。後方の襖が開くと使用人の婆さんの制止を振り切って出て来る、菫の姿がそこにはあった。だが、いつの菫の様子とは明らかに様子が違っていた)




…憐様、申し訳ございませぬ。突然こちらのお嬢様が起き上がられまして…




(婆さんも突然の事に慌てている様だった。菫の瞳は空を見つめている様だった。その焦点は遠目から見てもわかるほどだった。それほどに今の菫の状態は異常なものだった。その時、山の神々と霊界の守護神の親父から連絡が同時に来て驚く)




≪澪よ、その娘、現在意識は肉体から離れておる。そして別な魂が肉体を維持する為か、何かを伝えたいが為に、東雲菫の肉体に入って居る。その状態が長く続くようだと、肉体と魂の繋がりが断たれてしまう!!≫




(つまり親父からの連絡の内容は菫の魂が肉体から離れかけていて、代わりに別な魂が肉体に入っているという事だった。その魂の正体が分からなければ、対処のしようがなかった)




≪…天河村の山を守護せし者に御座います。お話の途中に申し訳ございませぬ。その娘の肉体に入りし者、我らならわかりまする。そして今、南雲澪の肉体に降りて来ている南雲星、久しいの…≫




(俺と親父の会話に助け船を出してくれたのは、山の神々だった。かの者達は俺の肉体に降りて来ている南雲星、曽祖父に語りかけた)




≪お懐かしゅう…山の神々様よ…。事態は急を要する様ですな…お任せあれ…。澪、憐、世話をかけて本当にすまぬの…≫




(俺と隣にいる憐の爺さんに語りかけて来た星の爺さんは、ゆっくりと俺の身体を立ち上がらせて、菫の正面に立って語り掛けた)




≪……耀であろう……私だ…星だ…わからぬか…≫


(星の爺さんの言葉に、一同驚きを隠せずにいた。菫の身体に降りて来ているのが、憐の爺さんから聞いた菫の曾祖母の東雲耀だと言う事に、憐の爺さんは立ち上がって同様に語り掛けた)




…耀だと?…本当なのか!?…




(憐の爺さんからの問い掛けに、星の爺さんは無言のまま頷いて返した。そして山の神々と守護神の親父は、耀の魂ということが分かっている様だった)




≪…私の愛しい人……どこにいますの…≫




(菫の目は確かに開いていた。それなのに、耀の婆さんは、目の前に居る星の爺さんの事がわからない様だった。これはどういう事か親父に聞くと、答えは直ぐに帰って来た)




≪東雲耀は、霊界に入りして南雲星を探し続けていたのであろうな。その長い年月が、その者の心を閉ざしてしまったのであろうよ。だから見えぬのだよ。例え愛しき者が目の前に居ようともな…。自らが心を開かねば、心眼は開かぬよ≫




(その言葉を聞いていた星の爺さんも、涙を流し始めてしまう。そして菫の身体を使っている耀の婆さんは、廊下を歩き始めてしまう。その時だった。壊れていた懐中時計が、確かにカチカチッと時を刻み始めた音を聞いた俺は、咄嗟に懐から懐中時計を取り出して蓋を開けて見ると、確かに時計の針は動き始めていた。それを見た、憐の爺さんは俺達に告げて来た)






耀が亡くなった時のままだった時刻が動き始めた…。はっははは!!…お前達が帰って来たから、時計も息を吹き返したんだ…この馬鹿夫婦が!!…目を覚ませ!!耀!!お前の男はここにちゃんといるぞ!!




(憐の爺さんは、廊下をふらふらと歩き続ける耀の背中に、憐の爺さんは俺の肩をガッチリ掴みながら、耀の婆さんに怒鳴り散らした。でも、その声は幸せに満ちていた。現に憐の爺さんの眼元からは、涙がこぼれ落ちていた)

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