第七話 真実の花咲き誇る一時

この天河村には本来、四聖の四家と呼ばれる家系が合ったのじゃよ。その中の三つは其方らも知る、北条家、東雲家、西野家…そして、この地を去りし家系こそが…其方の家名、南雲家じゃよ…




(爺さんの言葉を聞いた俺は、とても信じられなかった。つまり父さんもこの地に呼ばれたから、母さんと巡り会ったと言うのか。その巡り会わせに俺は、隣の菫の家系を否定するつもりは毛頭ないが、余りにも偶然が重なり過ぎて、信じられなかった)




それじゃ、俺も父さんもこの土地に呼ばれたみたいじゃないかよ…それに、俺とこいつの曽祖父と曾祖母は夫婦だったのか?…




(混乱して爺さんに怒鳴り付ける様に語り続けてしまった。隣の菫は悲しい表情で顔を伏せていた。その俺の疑問を全て解く様に、爺さんは語り始めて来た)




其方の父とは、あの南雲樹の事か…そして北条岬の事よの…実はの、其方の母、岬は婚約しておっての…。似ているとは思わぬか?時の因果の絆は、決して断ち切れぬと言う事よの…




(母さんが父さんと出会う前、婚約していた。それじゃまるで、菫と貴の奴の関係みたいじゃないか。そして爺さんは、核心の疑問をゆっくりと語り出す)




其方の一番の疑問はこちらであろう…其方、南雲家の曽祖父だった南雲星。そして東雲菫、其方の曾祖母だった東雲耀てるは結婚を間近に控えておった、わしの旧友だった…




(俺は爺さんの言葉を聞くと、膝から崩れ落ちて座り込んだ。その俺を心配そうに支えて来た菫の手の温もりを感じながら、爺さんの言葉を聞き続ける)




其方達にとっては古き時代の戦争、その事よ…それに徴兵されたのだよ。わしと星はの…二人は心底愛し合っておった。周りの者達が羨むほどにな…。戦争に赴く前に、星はお主の持つ懐中時計を耀に渡して行きおった。必ず帰るからと言っての…だが奴は…わしなんぞをかばって…




(爺さんの言葉を聞いていた菫は、啜り泣き、袖で涙を拭き始める。その姿に俺はハンカチを手渡して涙を拭わせた。そして爺さんは続けて耀の事を語り出した)




…そして、わしは一人この村に帰って来た。友の亡骸を戦地に置いての…。そして、耀に星の事を伝えに言った時じゃった…耀は子供が川で溺れているのを助けるのに、着物姿のまま飛び込んでの…。子供を助けた後にあやつは星の元に旅立って行きおったよ…。その時に壊れてしまっての…その懐中時計は…。手先が器用だった北条家に預けておいたのじゃよ…




(つまり、二人とも結婚と言う形はとらずとも、既に夫婦同然の様な振る舞いを見せていたと言う事なんだなと、俺は納得し始めた時だった。隣で泣いていた菫は、突然畳の上に倒れ込んでしまう)




おい!!どうしたんだ!?しっかりしろよ…




(菫の体に手を触れようとした時だった。憐の爺さんが手を止めて、先ほどの使用人の婆さんを呼び寄せた)




この真夏の日差しの中で、この着物を長時間着ていて疲れたのと、心身の疲労でしょうね。それでは、着替えさせますので男性の皆様方は表に出ていて下さいませ…




(その婆さんの言葉に従い、俺と爺さんは廊下に出る。そして縁側に腰掛けて山々を二人して見つめる。どちらからとも特になく自然と語り出す)




少しは納得出来たかの…




(爺さんの言葉を、山を見つめながら聞いていた時だった。突然知らない霊の波長を感じた。俺は警戒するも、その霊は俺の身体に自然と馴染むと俺の口を通して勝手に語り出した)




≪ありがとう……憐…わしの古き良き友よ…どうかわしの孫を頼む…≫




(俺はその言葉を聞きながら、爺さんの姿を見ようとするも、身体は言う事を聞かなかった。そして隣の爺さんはポツリと呟いて来た)




ふん!!わしなんぞを庇って死におってからに…わしがそちらに行った時は、一晩中酒に着きおうてもらうからの…この馬鹿者が…




(古き良き友との会話を邪魔せぬ様に、俺は黙って二人の会話を聞いていた。そして日の光は天辺まで昇り、暑さも増して来ていた。暑い夏の縁側の一時の出来事だった)


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