第四話 愛情の欠片が残りし遺品

(翌朝、俺は久し振りに夢を見ていた。遠き過ぎ去りし過去の夢、母さんの呼び声で目を覚ましていた。幼少期の夢を懐かしく思いながら、俺の頬には眠りながら一筋の涙が頬を伝っていた。そして、北条恵が朝食の支度が整いましたと言いに来て、俺は目を覚ました。そして朝食の席で、時生の爺さんは渋い表情を浮かべながら、俺に語りかけて来た)




澪よ、西野家に赴くのであろう?菫と共に…なれば、これを持って行け…




(朝食の箸の手を止めて、時生の爺さんの言葉に耳を傾けていた。俺の目の前に出された物は、古い年代物の懐中時計だった。その時計を受け取り、蓋を開いて中の羅針盤を見た。俺は爺さんに一言申した)




おい、この時計止まってんじゃん…




(俺の言葉に爺さんは何も言わずに一言だけ告げる)




それを憐、西野の曽祖父に見せればわかる…




(俺はそれを、大事にハンカチに懐中時計を包み込んだ。俺は朝食を終えて私服に着替えると、北条家を後にして東雲家に赴いた。そこには綺麗な着物を着た菫が待っていた)




…その着物、どうしたんだ?…




(暑い夏の日差しの中、菫は着物姿と薄い羽織を羽織った姿で、俺の事を待っていた)




お爺様がこの着物を着て行きなさいと仰られまして…それ以上は何も聞いて居りませんの




(両家共、何かを隠している事は明白だった。そんな年寄りの思惑、因縁等、気にもせずに俺達は西野家に赴き始める。その時、ふっと山の神々達から一言伝えられた。その言葉は、菫も確かに聞き取れた様だった)




≪…古き夫婦の衣裳を着し者達よ、これから其方らが赴く地には、その着物と懐中時計の過去を知りし者が居る…その事を重々心して行きなされ……≫




(俺と菫はお互いの顔を見比べて、山の神々からの言葉を不思議に聞きながら、西野家に向かってゆっくりと歩き始めて行った)




≪…天…河…に…幸あらん事を…≫




(遠くで美しき声が一瞬聞こえた気がした)

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