第二十話 幸せの記録

(その後、俺と菫と日和の婆さんは、母さんの部屋で昔話を聞いていた。それによると、母さんには父さんが現れるまで婚約者がいたと言う事を聞いた。俺と菫はお互い、目を点のようにして婆さんの話を聞いた。すると、婆さんは楽しそうに笑い始める)




ほっほっほっ…歴史は繰り返されるのかも知れませんね。でもその際は、過去の様な悲しい終わり方ではなく、未来に希望を託せる紡ぎ方をなさって下さいね…




(その言葉に少し反論しようとした時だった。襖が勢い良く開いた。そこに居たのは、俺にとって従姉妹に当たる凛が、お昼の支度が出来た事を伝えに現れた。そして菫は勢い良く立ち上がると、凛と共に昼食の場に走り去って行ってしまう。菫の行動に、凛は何事と菫に問い掛けるも、菫は返答する事なく去って行ってしまった)




…私達も行こうか、澪君…。あの子はこの村一の美女だからね…




(婆さんを支えて母さんの部屋を出て、廊下をゆっくりとした足取りで広間に向かっていると、時生の爺さんと厳の爺さんが、囲碁を終えて部屋から出て来る姿が見えた。二人の表情で、どちらが勝ったかは明らかだった)




…日和、澪にあれを見せたのか!?…




(時生の爺さんは、声を荒げながら日和の婆さんに語りかけて来た。それだけで時生の爺さんが負けて、厳の爺さんが勝ったのだと理解出来た。そして支えていた日和の婆さんは、俺の傍から離れて時生の爺さんの元に歩み寄って、三人で昼食の場に向かい始めた。俺はその三人の背中を見守りながら、廊下の縁側にゆっくりと腰掛けて座った。すると、山の神々から声をかけられた。その声を聞いた俺は、すっと目を閉じて山の神々の声に耳を傾けた)




≪…申し訳なき…岬…其方の母君の事を知っておきながら、語られなかった事…本当にすまなんだ…≫




(山の神々の謝罪を、俺は親身に受け止めた後に俺は、かの者達に問うた。それは自然と口を開いて神々に語った言葉だった)




…母さんは父さんとこの村を去る時、どんな表情をしていた?そして母さんは自然との対話が出来たと聞きました…つまりあなた方とも対話をしたと言う事ですよね…




(俺の問いに、山の神々は沈黙の後、ゆっくりと語り始めてくれた。その言葉を聞いた俺は、自然と北条家の廊下から山に向かって目を閉じながら、笑みを浮かべていた。その俺の姿を廊下の端から見ていた者がいた事に、俺はその時気が付かなかった)

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