第十八話 母の愛が残る着物との出会い

(北条家の大広間で行われた北条家と東雲家と俺の話し合いは、無事に終わった。そして帰ろうとした時だった。北条家の娘、凛が慌てて俺達の元に駆け寄って来た)




もう帰ってしまうんですか?今、台所でお料理をしていますので、召し上がっていってください…。このままでは、岬様にも顔向けできません。お願いします!!




(凛の言葉に俺は菫や小百合、そして祖父の厳に視線を向けると、三人は暖かい笑みを俺に向けて来た。そして、俺と菫を残して厳の爺さんは時生の爺さんと囲碁の勝負を始めに行ってしまう。そして、小百合は台所に向かう時に、俺に語りかけて来た)




澪君、岬の部屋は其処を左に曲がった奥の部屋よ。時生のお爺様は岬が村を去った時のまま、手入れを一日も怠らずに維持しているのを見に行ってあげなさい…。そして、岬にも見せてあげなさいな…。それじゃあ、私も腕を振るいますか…




(遠くで母さんが小百合の姿を笑みを浮かべて見送っている様だった。そして俺と菫は特に何も語る事無く母さんの部屋に向かい始めた。そして部屋の前に辿り着いた。菫が俺に語り掛けて来た)




…あの…昨日は本当にごめんなさい。ちゃんと、貴方と二人の時に謝ろうと思って…、ごめんなさい…




(菫の言葉に背を向けながら、俺は菫に語り掛けた)




過ぎた事をいつまでも引きずるな…。同じ事を繰り返さない様に、努力をすればいいんだからな…




(俺は菫にぶっきらぼうに語った後に、菫の頭に手を乗せて撫でてやった。そして母さんの部屋の襖を開けて中に入ると、そこには綺麗な織物の花柄と海の模様が入った着物が、部屋の中央に綺麗に、腐食を防ぐ様に掛けられていた。その着物を見た菫は、自然と着物に歩み始めて行く)




綺麗…吉兆文様と海の文様をこんなに上手く着物に縫い付けられるなんて…。なんてすごい技術なの…




(母さんの着物を、菫は一目見ただけで惚れ込んだ様に見つめ続けていた。そして自然と俺の口を通して、母さんが語り始めた。この波長と雰囲気は間違いなく、母さんのものと断定できた)




≪東雲菫さん、小百合ちゃんの娘さんですね…。その着物はまだ未完成なの…。だからどうか貴女の手で、その着物を日の光の元にどうか…お願い致します…≫




(さっきの対話で精神的な疲労がまだ残っていた為、二人の対話を途中までしか繋げておく事が出来なかった)




え?え!?…まさか岬様なのですか?待って下さい!!私一人では、こんな素敵な着物を完成させられません!?そんな事出来ません!!




(菫は必死な表情で、俺の身体に乗り移っている母さんに問い掛けた。その際俺の体を気遣って、母さんは一言だけ菫に残して帰って行った)




≪…貴女のお母さん、小百合ちゃん、そして私の姪っ子に当たるのかしらね…北条凛ちゃんと三人で、力を合わせてみてね…。それじゃあ、これ以上は澪の身体が持ちそうにないから…またね≫




(母さんが俺の身体から抜けると、荒い息を吐きながら膝を着いた。そして菫は混乱した様に、俺の事を見つめていた。それは決して俺を気味悪く見た表情ではない事だけは、読み取れた)

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