第十六話 明かされた真実の愛

(廊下を歩いた先で辿り着いた大広間の襖を開けると、中には一人の老人が正座をし、目を瞑った状態で俺達の事を待っていた。その老人に最初に語りかけたのは、菫の祖父、厳だった)




時生よ、連れて参ったぞ…。お主の孫をな…




(この人が母さんの父親、そして俺の祖父か。初めて会う人に俺は珍しく緊張しながら大広間の中に入って行くと、室内で俺と厳の爺さんが並んだ状態で座り、俺の後方で菫と小百合が正座していた。凛は大広間の中には入らずに、別の部屋に移った。そして時生の爺さんが、最初に語り始めた)




よく来たの、澪よ。お主は覚えておらぬであろうが…葬儀の際にわしはお主の事を見ておる…。だがの、南雲家に顔向けできない為…あの時は参列だけして帰った…。許したもう…




(厳の爺さんが言っていた事と同じ事を言って来た。それで東雲家と北条家が両親の葬儀に来ていた事は確認出来た。だが俺が一番聞きたかった事は、別にある)




俺が聞きたいのは、そんな事よりも、なんで母さんはこの地を離れたかだよ!!その事を、母さんは悔いている様だった…。現に俺は、母さん達から天河村の事なんか一度も聞かされてこなかった。この村に来たのは、本当に偶然なんだ。一体父さんと母さんに何があったんだよ!!




(ストレートに時生の爺さんに聞き始める。すると、爺さん達は目配せをした後に、ゆっくりと語り始める)




あれは今の様に暑い夏の日だった。とある一人の男が、ある日突然現れたのだ。それがお主の父、南雲樹だった。お主の父は絵描きでの、この村の自然をこよなく愛していた。そんな時に巡り合ったのが、岬だ…。自然との対話が出来た岬を、樹は不思議とも思わず接して行った。その樹の優しさに惹かれていったのであろうな…。二人はわしらの反対を押し切って村から消えおった。そして数年後、この手紙が我が家に届いた…。一枚の写真を送付しての…




(時生の爺さんは古い手紙を取り出すと、それを俺に見せてくれた。そしてその中には、一枚の写真が挟まれていた。そこには、母さんの腕の中にいる赤ん坊の俺の姿が写っていた。それを見た俺は、自然と涙が写真に落ちて、写真を濡らし始めていた。後ろでは、菫と小百合がすすり泣く声が聞こえていた。爺さん達は、ただ黙って俺の事を見守っていた)


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