第十二話 北条家の夜空の真実

(屋敷を飛び出した俺は、近くのバス停の椅子に腰かけていた。そこで俺は雨にうたれながら、山と夜空を見上げていた。すると、俺の頭の上に傘が掛けられて視線をそちらに向けると、東雲菫がもう一つの傘を手に持ちながら立っていた)




何か用か?用がないなら、さっさと屋敷に帰れよ…




(俺の問い掛けに、菫はスカートが濡れるのも気にせずに俺の隣に腰掛けて来た。そして静かに語り始めて来た)




貴方が屋敷を飛び出した後に、お爺様からお聞きしました。貴方のお母様、南雲岬様と私の母、小百合の事を…お聞きになられますか?




(語って来た声に俺は無言で頷きながら、菫の言葉を黙って聞き始める)




貴方のお母様、南雲岬様は昔、この地で生まれ育った方だったそうです。そして貴方のお父様、南雲樹様が今の貴方の様に、旅人としてこの地を訪れて、お二人は自然と惹かれ合ったそうです。南雲岬様の旧姓は、北条岬様だそうです…。この地に古くから住まう、私達東雲家と同様に住まう家系の者です




(母方の事は聞いていなかった為、今、俺は菫から初めて聞いて驚いていた。葬式の際も父方の南雲家が主体で行った為、母方の北条家の事は全然知らなかった。それに、この地が母の故郷と言うのも今、初めて知った。ただ、いつも母は故郷の話をする時、悲しみがこもった表情をしていた事を思い出していた)




そして、貴方のご両親が事故で亡くなられた時に、北条家と東雲家はお忍びでお葬式に出席していたそうです。その時に、貴方の姿もお爺様はご覧になっていたそうです…




(幼いと言っても、成人する前の時の事だ。あの時に、父方の親戚の伯父達が面倒を見ながら、葬式に訪れた方々の対応をしてくれていた。その裏で、この村の者達が来ていた事を初めて知った。俺は驚きながら、菫に問い掛けた)




母さんの実家はどこにあるんだ!!教えてくれ…




(菫の両肩を掴んだ俺は、真剣な表情で菫を見つめた。その表情に菫も驚いた様子で、俺を落ち着かせる様に語り掛けながら、ゆっくり口を開き始める)




この近くに北条家の屋敷は御座います…。ですが。もう今宵は夜も更けております。明日に致しましょう…。それに、こんなに濡れた格好では北条家の皆様にも失礼ですよ?風邪を引いてしまう前に、お屋敷に帰りましょう




(間近で見た菫の頬には、微かに涙が流れた跡が残っていた。俺はその涙の跡を見ると、何も言い返さずに大人しく菫の屋敷に帰って行った)


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