第十話 南雲家と東雲家の秘密の心を込めて泣く涙

ここでお休み下さいませ、お食事の準備が出来ましたらお呼び致しますね。それでは失礼致します




(通された部屋は旅館の客間の様に綺麗に整えられていた。その部屋を呆然と見つめていると、菫は襖を閉めて何処に向かい始める。そして俺は荷物を畳の上に置きながら、ゆっくり腰掛ける。その時に俺に直接語りかけてくる声の波長を感じた)




≪澪様に対して顔向けが出来ないのですよ、あの女子は。昼間、貴方様にあの様な振る舞いをしてしまった事を自ら悔いながら、先ほどの男性の事が脳裏から離れないのでしょうな…≫




(山の神の波長と理解した俺は、一言この神に文句を言い始める)




…様付けは止めろ!!呼び捨てでいい…。様付けされる様な身分でもない




(俺の言葉にビックリした様な反応を見せると、山の神は父親と慕う守護神に、何かを問うて居た。それを理解する事が出来ずにいると、襖の外から別な女の声が聞こえてきた)




失礼致します。此度は娘が大変失礼な事をした様で、誠に申し訳ありませんでした




(少し歳めいた女性が着物姿で現れると、その女性は廊下で正座をしていて、俺に向かって頭を深々と下げて来ていた。その行為に俺は慌てて駆け寄ると、立ち上がってくれる様に頼み始める。その時、遠くから菫の声が聞こえてきた)




お母さん!!私がいけないんだから、お母さんは頭を下げたりしないで!!




(菫の言葉から、この女性が母親であると理解した俺は、なおの事立ってくれる様に切に願った。その言葉に、ようやく重い腰を上げてくれた事に俺は、この村に来てから始めて疲れて畳の上に腰掛けて、深くため息をついた)




はぁ…、本当にお前の家は苦労するな…




(俺の言葉に菫は恥ずかしそうに顔を逸らすと、母親の手を取って歩き始めると思いきや母親は、菫の手を振り払い、俺に近寄り、語りかけて来た)




山の神々様に大変な無礼を働いた西野の者との縁は、切らせました。それで何卒お許し願えませんでしょうか?々




(今度は俺にではなく、山の神々の一神に対する謝罪を申し出て来た。母親の言動に山の神々の一神は大変感服していた。だから再び俺は山の神々の一神に肉体を貸した)




≪其方のその礼儀と相手を深く思う心が、あの西野の若者にも其方のその心があれば、婚約は破談になど成らなかったであろうな…≫




(その言葉に俺は、山の神と菫の母親に一言言いたくなった為、強制的に会話に割り込んだ)




あの坊ちゃんと縁を切る事は、やり過ぎだと思うぜ?人には改心する心があるんだからよ。それによ、失敗を繰り返して人は成長するんだ。それなのに、たかだか礼儀を一度忘れた程度で縁を切るまでは、やり過ぎだと俺は思うね。人の成長を抑圧したら、あの坊ちゃんはぐれちまう。あいつはそこの女を想う余りに、感情的になっただけだろと俺は思うがね…




(誰かが遠くで拍手をしているように俺には聞こえていた。それが霊界に居る友とも知らずに、この時の俺は居た。そして山の神と母親は、共に考えた後に俺に語りかけて来た)




この歳になって教えられました。有難うございます!!




(山の神自身も、心の中で謝罪と感謝の気持ちを送って来ていた。そして母親は菫と共に、良い匂いのする方に歩き始めるも、何かを思い返した様に引き返して来た)




まだ名を名乗っていない事を思い出しました。私、あの子の母親の、東雲小百合しののめさゆりと申します。何卒よろしくお願い申し上げます。




(そして俺も母親に名乗ると、南雲家の名を聞いて驚きながら喜んでいるのか、それとも悲しみでなのか、母親は涙を流し始めていた。その光景を俺と菫は呆然と見ているしか出来なかった)

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