第九話 運命の火と水が交差する日

あの…、貴方は神様の姿が見えるのですか?




(山の神が俺の肉体から離れて行った後に、背中越しに菫が語り掛けて来る。その孫娘の発言を、爺さんは黙って見守っていた。だから俺は菫と爺さんに向き直って語り掛ける)




別に信じなくてもいい。そう言う事は慣れているからな。ただ、お前達の山の神々の一神ひとはしらである、さっきの奴の言葉は信じてやれよな。それが、お前達が慕う山の神への信仰心じゃあないのか?




(屋敷の傍に持って来ていたバイクに向かおうとした時だった。俺の背中に今度は爺さんが語り掛けて来た。本当に物好きな連中だなと思いながら振り返った時に、ちょうど俺の腹の虫が鳴き始める)




今夜泊まる所はあるのか?この山深い村では宿探しも一苦労するぞ…。ほっほっほっ…。お主の身体の方が正直じゃの…。菫、案内しなさい…




(顔をそっぽに向けていると、爺さんは菫になにやら語り掛ける。すると菫は、俺の腕を掴んで屋敷に連れ戻し始める。それに抗議の言葉を投げかける)




こら、離せ!!誰がこんな屋敷で寝泊まりするか!!




(俺の言葉にも菫は微動だにせずに、返答し始める。爺さんは楽しそうに笑みを浮かべていやがった)




この辺りは夜になると、山から熊が麓に下りてきたりするんですのよ?それでもよろしければ、野宿致しますか?




(その言葉に、俺は一瞬冷や汗を流し始める。その言葉に観念して、俺は菫に引っ張られて行く。屋敷に戻って来た所で、玄関付近で揉め事を起こし始めている場面に遭遇した)




なんで!?僕が菫との婚約を解消されなくちゃいけなんだ!!…




(暴れ続ける貴を、有権者達が必死に制止していた、その場面を目撃していたこちらに気が付いた貴は、俺に向かって罵声を浴びせて来る)




お前なんかが現れなければ、僕達は別れる事もなかったんだ!!早くこの村から出て行けよ!!疫病神!!




(その発言に、俺は何も感じずに、つまらなそうに聞きながら菫の方に視線を向けた時だった。菫は悲しみのあまり、涙を流している横顔が垣間見えた。それを見た俺は、菫の手を振り解いて、坊ちゃんの元に歩み寄って暴れ続けるこの馬鹿の胸倉を掴み上げた)




いつまで甘ったれていれば気が済むんだ!!てめぇは…!!他人に言われた程度で別れる関係だった。それだけの事だろうがよ…あいつの顔をよく見るんだな…




(胸倉を思いっきり突き飛ばす様に離すと、貴は石畳の合間の上にもたれかかる様にように座り込む。すると、人目も気にせずに泣き始める。その姿をつまらなそうに見ながら、菫と爺さんの元に戻って声をかける)




飯を食わせてくれるんじゃあなかったのか?




(俺の言葉に菫は目元を拭って腕を掴んでくると、屋敷の中に連れて行かれる。その後方では、爺さんが貴と有権者達に無言のまま頭を下げて、屋敷の中に入って行く)

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