第八話 愛する者達への言葉
待って下さい!!祖父が貴方と話をしたいと申しているのです。どうかお待ちになっては頂けませんでしょうか?…
(屋敷の門を抜け出た所で雨が降り始めて来た。そこで俺は雨宿りをしていると、背後から、菫と言う女とお館様と呼ばれる爺さんが、杖を付きながら菫に支えられて、俺の元に近寄って来た)
先ほどは、お主と山の神々様に大変無礼な事を申した事を、私が代って謝罪致しまする。山の恵みを頂いている、その恩義も忘れている。私達は、その若者の申す通りに廃村に向かっているのでしょうか?
(爺さんの言葉を聞いていた山の神は、一言俺に申してから爺さんに語り掛け始める)
≪確かにこの御方の申す通りに、このままではこの村は衰退して行く一方であろうな。だがの、村の長よ、その道を辿るも繁栄の道を選ぶも、全ては人の意志次第と言う事よ。この御方に我々は先に謝罪を致しまする。少し記憶を覗いてしまった事、申し訳なき…。その後で、どの様な罰も受けましょうぞ≫
(そうか、この神は俺の記憶の一部を見たのか。その事に対して怒りは確かに沸き上がったが、見られて困る物でもない為、俺は神に対して静かに笑みだけを浮かべて返した。その後に神は語り始める)
≪この御方は各地を巡り回って来ました。その土地で嫌われ追い出される様になった地もある。そして人の女に裏切られ、愛情と言う物を信じられずにおりまする。この御方は、自らの言葉すら信じられないのですよ…≫
(神の言葉を聞きながら、何故か菫と爺さんは顔を伏せ始める。そして出るはずのない涙が、俺の身体を通して眼元から頬を伝っていた)
≪だからもしも其方らに謝罪の気持ちがあるのならば、この御方に愛情の暖かさを再び伝えてやってはくれまいか?何卒宜しくお願い申し上げまする。我々からの其方らへの最初の願いぞ…。どうか聞き届けしか?この願い…≫
(眼元をハンカチで拭った菫は、祖父の隣に寄り添う様に立ちながら、山の神に語り掛け始めた。その言葉に俺は内側で驚いていた)
実はですな。先ほど貴方様が大広間を出た後に…、こちらの菫の婚約者、西野貴との婚約解消を申して来た所です。山の神々に礼儀も通せない者を、大事な孫娘の婿になど迎え入れられませんからの…。失礼致しました。そう言えば名を申し上げていませんでしたな…。私、この村の村長も務める、東雲厳と申します。以後、お見知りおきを…
(爺さんが語った事は、あの若い婚約者との事実上の婚約解消を意味していた。そして、山の神は爺さんが自らの名をようやく口にした事に、満面の笑みで爺さん達に語りかける。その言葉に俺は、一人蚊帳かやの外の扱いを受けている様だった)
≪我々はこの地の土地神にて、この者をお守り致すこの者の父親たる守護神様に、この御方の守護神様は神ではなく、父親に徹しておりまする。そして、その守護神様たる御方に我々は、先程許可を得ました。その結果、その吾子あこを何卒よろしくお頼み申しますと、お言葉を頂きました。ですから、この南雲澪の事を愛する民の其方らの愛情で温めてやってはくれませぬか…≫
(この山の神は、俺が唯一信じている、あの親父と対話をしたのか。そう心の中で霊的な父親と慕う、あの神の名を口にしながら問いかけると、柔らかい波長で大きく包み込む、愛溢れる言葉で語り掛けて来た)
≪澪、其方そなたにとってその地は良き土地になろうよ…我も見守って居る。その土地の山の神と仲良く歩み、精進致せ、我が愛し子よ…≫
(父さんからの言葉に俺は菫たちに初めて背を向けて、雨降る空を仰ぎ見ながら、涙を流し始めていた)
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