第五話 神の雷

…お主、名を何と申す?




(俺は深いため息をつきながら、呆れた表情をお館様と呼ばれている爺さんに向けて言葉を発した)




あのよ、ここの土地の連中はなんで全員、人に向かって上から目線で語り掛けて来たり、命令口調で語り掛けて来るんだ?そこの娘はあんたの孫娘なんだろ?元はと言えば、その女が人に石を投げつけて来たり、胸倉を掴んで来たからだぞ?確かに東雲家が所有する山に無断で立ち入った事は謝罪するよ…




(両脇にいる有権者の数は、数えて約20人。そして奥に鎮座しているお館様と東雲菫に向かって、俺は深々と頭を下げた。その時だった。東雲の山の神と呼ばれる霊的存在が語り掛けて来た)




≪其方は礼儀を重んじておりますな。大変素晴らしき事と存じまする。それに引き換え、この者等は、我ら山を守護する者らは恥じておりまする。なんという恥ずべき行為とな。己よりも年若い者に名乗る事も出来ずして…なにがお館か!!≫




(初めての体験を俺はしていた。俺の為に誰かが怒ってくれている。しかも、怒っているのは目の前に居る連中が、神と慕う存在が、温かく俺を守ろうとしてくれていた。それが嬉しく、親が亡くなってから久し振りに笑みを浮かべた。その先で、俺は驚きの光景を見た。爺さんの傍にいる菫の表情が、ビックリした様な感じで俺の後方を見て来ていた。もしかして、あの女も見えるのか…?)




≪ええ。あの娘も姿は見えませぬが、声は聞こえまする。現に…我らの声が、あの娘には届いている様ですからな…≫




(なるほど、どうりでビックリした表情をしているわけだ。山の者と会話をしていると、爺さんが俺に再度名を聞いてきた。だから、俺は自らの名を名乗る事にした)




南雲澪だ…。それでアンタの名は?…人に名を聞いて来たのなら、名乗るのが礼儀だろ?違うのか?




(自らの口で爺さんに語りかけるも、有権者達が横槍を入れて来る)




貴様の様な余所者が、お館様の名を知る必要などないわ!!恥を知れ!!




(深いため息をつきながら、言い返すのも疲れる為、無視を決め込む。そして俺は、再度爺さんの名を聞こうとした時だった。有権者の中で大柄な男が立ち上がり、俺の胸倉を掴んで来て、怒鳴り付けて来た)




知る必要がない、と言っているのが分からぬのか!!




(その言葉と態度に、特に何も感じずに俺は爺さんを見つめる。すると、お館様と呼ばれる爺さんは、杖をついて大広間を出ようとした。それに俺は怒りを込めて、怒鳴りつけてやろうとした、その時だった。山の者が先に怒り、雷を轟かせた。そして、俺の身体に一時的に憑依して、爺さん達に怒鳴りつけた)




≪この大戯おおたわけ者ものどもが!!≫




(明らかに俺の口調の波長とは別の者が語り出すと、胸倉を掴んでいた大柄な男も、畳の上に尻餅を着いた。そしてお館様と呼ばれる爺さんは、冷静に語り掛けて来た。菫は明らかに怯えきった表情で、こちらを見ていた)

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