Cross road 編

第440話

 エルフェン帝国の帝都側とシャーアンの都やクフサールの都側では、居住者数や栽培による農作物の流通を考えれば、大河バールを境界線にしたかのように格差ができている。


 帝都側は、貴族階級が領主として農地と栽培するための村人たちを保護する義務があり、権利として帝都の市場にて販売して利益を財産として所有することを許可されている。

 村人たちが個人として利益を求めているわけではなく、伯爵家と同じ地域に暮らす全員で利益を分配する仕組みとなっている。


 大河バールの西側は、農地として開拓され、また居住者の衣食住は、作物の栽培の利益と神聖教団の支援などもあるため保証されている。

 その国として取り組んでいる食糧生産の仕組みが、東側には行き届いていないのは、大陸中央にある大樹海に近いほど作物の栽培には適していることの影響は大きい。


 大樹海と大河バールのほぼ中間にあたる帝都が、最も取引が盛んな市場となっていて、また帝都の住民たちの食生活を支えている。

 また、小規模ながら小さな宿場街が冒険者がダンジョン探索へ向かう途中に発展しているため、その市場でも栽培された作物は販売されている。


 ダンジョン探索後、宿場街に立ち寄って体を休めてから依頼達成の報告のために帝都へ向かったり、ダンジョン探索に行くためには便利という理由から冒険者パーティーのリーダーは、頻繁に帝都の冒険者ギルドを訪れるため帝都に滞在することが多い。

 だが、他の雇われるサポート役の冒険者パーティーメンバーは途中の宿場街に滞在していて、契約した期間をダンジョン探索に同行してリーダーから分け前を分配してもらうという働き方をしている者たちも少なくなかった。


 以前は賭博場が帝都にあり、分け前を元手に賭け事をするサポート役の冒険者は、帝都に滞在して宿場街にはパーティーの仲間と立ち寄るだけだったとはいえダンジョン探索の行き帰りに冒険者たちが宿場街に落とす収益で、宿場街の住民たちは、農耕せずに商売をして暮らしていた。


 エリザの指示で商工ギルドと協議の末に、賭博場を子供でも立ち入りできる遊戯場としてリニューアルした。

 宿場街の観光業で生計を立てていた商人たちには、ダンジョンの完全閉鎖ということを、あえて隠して知らされておらず、また、宿場街は農場の村のような住民に対する保護対策が、保留されたままになっていた。


 ダンジョン探索の依頼が、国営の冒険者ギルドから再開されると予想していた冒険者たちが宿場街へ滞在していた。

 

 エリザがダンジョンに討伐するモンスターが今後は一切、出現しなくなった情報を隠して発表を避けたので、観光業メインの街がすぐに閑散とすることは、どうにか回避できた。

 

 冒険者たちは帝都で貴族向けの宿屋に宿泊するより、宿場街に宿泊する方が安上がりとなっている。

 これはダンジョン探索が盛んで客である冒険者たちが数日の滞在で、また次の客が宿泊するという回転率が良さがあってこそ提供できていたサービスである。


 また帝都の市場まで作物を運搬するよりも近い農地の村からの作物が販売されていて、物価としては少しだけ帝都で外食するより、宿屋で食事つきで宿泊すると安いという事情があり、冒険者たちが居すわっている状況が、ダンジョン閉鎖から一年後の状況となっている。


 街も市場も宿屋もなく、昔の廃墟にスカベたちが住み着いている大河バールの東側の貧民窟の状況よりかは、かなりましな状況ではある。


 宿場街では、どの店でも少しずつ値上げをしていくか、客離れが怖いのであえて価格は据え置きとするか、とても悩んでいるのである。

 下手に値上げすれば、ダンジョン探索が再開された時に、お値段を据え置きにした宿屋や店を、冒険者たちは命がけで稼いだ金なので贔屓ひいきにするのはわかっている。


 神聖教団も冒険者たちが回復ポーションを持ってダンジョン探索に挑むために教会へ寄付する収益が悪化している。

 ただし、値上げすれば冒険者以外の村人たちなどが少額の寄付などで治療を受け難い状況になるので、寄付金の値上げに踏みきれずにいた。


 宿場街の商人たちと神聖教団の経営担当の神官たちのどちらかが値上げを始めれば、不景気だからと言い訳して便乗値上げが始まる直前の緊張感があるが、冒険者たちはダンジョン探索で稼ぐのが当たり前になっていて、不景気がどんどん深刻になりつつあることに、まだ気づいていない。


「ダンジョン探索できていた時は、しんどかったし命がけだったけど、たしかに金だけはあったよな~」


……と元冒険者たちから言われるようになる不況が始まっている。


 帝都に滞在する冒険者パーティーのリーダーたちの中には、商人への鞍替くらかえを投資だけすればいいと安易に考え、もともと利益重視でダンジョン探索に挑んでいたので、冒険者ギルドの預金を解約し始め、冒険者パーティーを契約期間中にもかかわらず解散したり、頼りになる人材だけを残してパーティーから解雇しようとする交渉が、宿場街では行われて始めたので、酒場や食堂の雰囲気は何となく重い雰囲気のテーブルもあった。


 こうして失業したサポート役の冒険者たちは、他の冒険者のパーティーのリーダーに雇われなければならないと思いながらも、ずっと仲間だと思って一緒に冒険できると信じていた者ほど気落ちしたり、裏切られたような気持ちになって機嫌が悪かった。


 冒険者を引退して、村人となって農作業をしながら衣食住を確保するぞ、という考え方にはなれなかった。

 貴族家の跡目を継げなかった者たちがいて、冒険者稼業をすることが流行した時期があった。

 リーダー格になれるわけではないにしても、商工ギルドの高価な装備品などで実家からの資金援助で購入して、未熟な実力を補うことで、サポート役のメンバーとして雇われている者たちの中には、村人として農作業をして暮らすということを恥ずかしいと思う者もいる。


 ダンジョン探索の依頼が無くなった時から、農作業の手伝いの依頼を狙って引き受けている新人冒険者の青年バトゥと、先輩冒険者としてバトゥと組んでいる褐色の肌の術者の乙女ミュールたちは、大金は稼いだりできないけれど、帝都に宿泊して、三日月と黄金の薔薇亭で、一日の仕事を終えると外食できるぐらいはうまく稼いでいる。

 

 失業した冒険者たちが、村人になって保護されるのもプライドが許さず、大河バールの東側へ渡って、スカベたちに混ざり始めるのは、他のパーティーからも再雇用されず、実家にも泣きついて頼ることも嫌で、帝都から離れて、放浪した末に流れついたからである。




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クロスロード編スタートです。




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