第435話
俺がソフィアと、ハルハぐらいのちびっこの親父になって、ひょわわ羊たちを飼いながら暮らしたとしたら、どんな生き方ができるかを考えた。
俺は心のどこかで、思いっきり全力で戦って、群れのボスとして生きたい気持ちがある。
そして、ソフィアや子供を守って生きていくことになる。
それは、俺を育て上げてくれたオークの親父たちと似ている気がする。
ソフィアがハルハに、母親のような優しさを見せていた。
きっと、こんな母親になるんだろうなと、今まで感じたことがなかった顔をオレの前で見せていた。
どこだってかまうものか。
ユルタの民として生きるには、俺は体がでかくて、力を持て余している。
ソフィアが、テンカたちの仲間のおなごたちと一緒に暮らしてみて、うまくやっていけると思ったのか、俺と暮らしていくのには少しちがうと感じてついてきてくれているのかは、俺にはわからないけどな。
そんなに俺は獣じみているようにテンカの仲間たちから見えたのだろうか?
北へ向かう旅の途中で、俺はソフィアに、ユルタで一緒に眠る前に、俺の子は欲しいか、子供なら男の子か女の子、どちらが欲しいか聞いてみた。
「ふふっ、ガルドは自分の子供なら、女の子が欲しいんですよね」
「ソフィア、どうしてそう思うんだ?」
「男の子だったら、どうやって育て上げたらいいか、すごく悩む気がします。けれど、女の子だったら、私に似た女の子ならいいと思っているでしょう?」
「……まあ、そうだな」
「私は子供ができても、今と同じか、もっと私のことをガルドが好きになってくれるなら、どちらでもいい。子供ができなくても、一緒にいられたらいいです」
そう言って抱きついたソフィアは、唇を重ねてきた。
「ソフィア、このユルタってやつはすごいな。雨が降ろうが、風が強くても、びくともしない」
「ガルドみたいに頑丈ですね」
ソフィアのほうが俺よりも、どんな連中と俺がいてもなじんで、自分ができることを見つけてやろうとするので、ある意味で、しぶといと思っているが、黙っておくことにした。
円形をしているユルタは、うまく風を受け流してくれているし、ユルタに使われているひょわわ羊の毛で編まれた布地は、雨が染み込んでくることがない。
俺たちは、ユルタの民のアジュレに教えてもらったように、一日がかりで草の実を探して採取した。
五日後までに、また採取すればいい。
アジュレによれば、俺たちは水を呼ぶことができないので、まっすぐ北へ進んでいくと水が無いかもしれず困るだろうからと、北西に進んで行くと大きな河があると教えてくれた。
大河バールという対岸が見えないほどの河があるらしい。
草もいろいろあって、口にふくんでよく噛むとさっぱりとした酸っぱさがあって喉の渇きを癒してくれる草もある。
ひょわわ羊はこの草はあまり好まないから、見つけやすい。
紅い小さな花が咲いている。
食べてはいけない腹を下す草花、苦いけれどほぐせば傷薬になる草花など、ソフィアはしっかり聞いて覚えている。
「あっ、ガルド、それはちがいます!」
「紅い花だぞ」
「ほら、花びらの数がちがうでしょう、五枚のお花のほうですよ」
俺はまちがえても腹を下したりしないが、ソフィアはそうもいかない。
途中で雨水を貯めたりもして、うまくしのぐことができた。
ソフィアはこの草原暮らしは、お金を気にしなくていいので気がらくだと俺に言った。
どこにいても、俺は気にしたことがないけどな。
途中で、はぐれひょわわ羊でもいないか俺たちは周囲をよく見て歩いた。
「あの酒は、果実酒と同じぐらいうまかったな」
「ひょわわ羊は、私たちになついてくれるでしょうか?」
「これだけ人がいないと、ひょわわ羊も人を怖がらないかもな」
遠くの景色や流れる雲、そして、満天の星空は、ソフィアが「きれいですね」と何度もうっとりながめていた。
「どこでも変わらないだろう?」
「そんなことありませんよ」
大河バールは、ソフィアではないが俺も驚いた。俺が思っていた河とはまるでちがっていた。かなりでかい。
河沿いに俺たちは北上していくことにした。それなら水に困ることはない。
小石を打ち合わせると火花が出て、火を点けることができるのはユルタの民のやり方で、これは便利だ。
「河のそばなら、村とかあるかもな」
「うーん、ガルド、お金はあまりないですけど、大丈夫でしょうか?」
「まあ、何とかなるなるだろう」
俺たちは半年以上かけて、大河バールまで到着したことで、飲み水には困らなくなった。
ユルタがあれば寝泊まりも問題ない。
河沿いには、草原のより食べられる野草が少ない。そのわりに大きな森があるわけじゃない。
ひょわわ羊とは出会えずに。大河バールまで来てしまった。
草原に戻るかとソフィアに俺は言ってみたが、せっかくここまで来たので、引き返すのはもったいないとソフィアは答えた。
もったいないと言うのは、俺にはよくわからない。
何かうまくいかないときは、ガラッとやり方を変えたほうがうまくいくこともある。
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