第433話
ハルハは、ソフィアのことをかなりお気に入りのようだ。
テンカとアジュレのユルタで、二人の子供みたいにハルハは暮らしている。
今夜は泊まりに来たハルハの隣で、ソフィアは添い寝をしながら、おとぎ話を聞かせて寝かしつけている。
ソフィアの母親も、ソフィアの幼い頃に、おとぎ話をたくさん聞かせて寝かしつけてくれたらしい。
後日、ハルハに聞かせているおとぎ話を、俺にも聞かせろと言うと、ソフィアは「あら、ガルドは大きな子供みたいですね」と俺のまだ汗ばんでいる胸板のあたりを優しく撫でながら、クスクスと笑って、おとぎ話を聞かせてくれるようになった。
猪頭のオークと妖精フェアリーが、珍しい不思議な果実を一緒に探しに行くおとぎ話は俺も、ハルハも大好きだ。
ソフィアは俺に、おとぎ話は作り話だと言う。
いやいや、オークはいるからな。きっと、透明な光が当たると虹色の羽でパタパタと飛ぶ妖精フェアリーも、俺が知らないだけで、どこかにきっといる。
テンカがおずおずと俺にハルハが泊まりに来て迷惑じゃないかと、ハルハがひょわわ羊たちを連れて離れている時に、草の実を摘んで袋に集めながら言った。
ハルハのおかげで、俺の眠る前の楽しみが一つ増えたと俺が言うと、そうかと言って笑った。
大きな物音や声で、同じユルタで寝ている子供を起こさないように夜中に仲良くするのはコツがいると、テンカは言った。俺が満月の夜になると、発情した親父たち四人が母親のルーシがくたくたになるまでは、俺が起きていようが関係なしで盛り上がっていたのを聞いて驚いていた。
そういうことをするもんだとちびっこのうちから見慣れていたから、発情した時にルーシを押し倒したら、親父たちに殴ってぶっ飛ばされて気絶した。
俺の巣立ちの時が来たと親父たちに言われて、しばらく母親のルーシが泣いていたけれど、親父たちが命がけで、今も俺の背負う大剣とかを集めてくれて、巣立ちの準備をしてくれた。
三人は死んで、残りの一人になった親父は左腕を失ったけど「ガルド、俺タチノ子、ダイジョウブ、ダイジョウブ」と俺の頭をがしかし撫でた話を聞かせるとテンカは涙ぐんでいた。
なるほど、ユルタの民はちびっこに、大人が盛り上がっているのを見せないものなのかと思い、帰ってから俺がソフィアたちもそうなのかと質問すると「それはそうでしょう、絶対にダメ!」と言った。そういうものだったのか。だから、ソフィアは、テンカの仲間たちが、人前で抱きついたりキスをしているのを見ると恥ずかしがるのかと俺は納得した。
じゃあ、子供がいたら家の中で夜にしないのかとソフィアに聞いてみると、一人で寝るようになったら、子供は別の部屋で寝て親の寝室には入らないようにするようになると言ったあと、悲しそうな顔になった。
モルガンの野郎は、夜中に寝ているソフィアの部屋の鍵を開けて、嫌がるソフィアに興奮して襲った奴だと聞いた。
嫌がる女を押し倒したらいけない。それを猪頭の親父たちは、ぶん殴って俺に教えた。
ソフィアは、昔に嫌なことをされたことを思い出すと、震えて泣き出すことがある。
「もうモルガンはいないだろう、ダイジョウブ、ダイジョウブ」
俺はソフィアが泣き出すと、そう言って抱きしめてやることにしている。
ソフィアが、アジュレや他のおなごたちから聞いてきた話によると、夜中にはしないで、昼間に草原でユルタから親たちだけで離れて外でするか、他のユルタに子供が泊まりに行きたがるようになったら、あずかってもらって、二人っきりの夜に盛り上がってするものらしい。
盛り上がっている時、子供にじっと見つめられてたら、気分が落ち着かないだろう?
とソフィアにおなごたちは言った。
オークとちがって、人間っていうのはあれこれ気を使って生活しているもんだと俺はたまに驚かされることかある。
「ガルド、人間のところに行ったら、人間の他の人の生活のしかたをよく真似しなければいけませんよ」
母親のルーシは、俺にそう教えた。
人間はいろいろな奴がいるから、俺はだいたいオークの親父たちのやり方になる。ルーシ、泣カセナイ。泣クトキハ、優シクスル。
だから、ソフィアが俺の前で泣いた時は、どうしたらいいか困ってしまった。 抱きしめていてほしいと言うから、そうすることにしている。
体が
――
――
ユルタの民にもおとぎ話が伝えられていて、大昔から草原には、人よりも大きな漆黒の大狼と真っ白な翼の紅い
俺が大剣を振り回しても、ソフィアはひらりと身を反らして避けると、細身の双剣で本気で斬りかかってくる。
俺が大剣で牽制しておいて、脚払いをかけるために蹴ると、転倒はしても素早く身を起こしてソフィアは、跳びかかって間合いを詰めてくる。
俺も本気で避けさせられることが、何度もある。
ソフィアはターレン王国の女騎士。
俺はオークの親父たちに体だけは頑丈に鍛えられたが、ソフィアほど工夫された剣や体の使い方は苦手だ。
この草原には剣がない。
ユルタの民は喧嘩すると殴り合うのかと俺が言うと、ハルハが「ん~、ごろんってさせる」と答えた。
まず手首をつかみ合って、頃合いを狙って引いて、脚払いか、逆に体重をかけて押し倒し、前に相手の背中や腹のあたりにまたがって押さえ込んだ奴が勝ちというのを、みんなが見ている前でやる。
どちらにも言い分があって、どちらも気持ちはわかるが、ゆずれないとまわりの連中も二人の話を聞いてみて思う時には、取っ組み合いの喧嘩をさせる。
ユルタの民はあまり身長差がない。筋力もあまり大差はない。
取っ組み合いなら、俺は有利だと言って笑うと、アジュレは「あんたらは、つかみ合いじゃなくて、その剣とかいうのでやりあうんだろ、おっかないねぇ」と言うので、ソフィアの顔を俺は見た。
「ふふっ、ガルド、私はいざとなったら負けませんよ」
「……命がいくつあっても足りねぇ」
アジュレがそれを聞いて、どこのだんなも惚れたおなごには優しいねぇ、とひょわわ羊の毛を紡ぎながら言うと笑っていた。
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