第432話

 ユルタの民の男たちが関心を持っている事は、すごく単純だ。


 俺はたしかに体がでかい。

 あんな小さな体のソフィアではひどく痛がらないのかと言い出したので、俺は思わず笑ってしまった。


 体がでかいのについてる棒は小さいのかと言い出したので、ちょっと立ち上がって見せてやると「おわっ!」と言ったあと、しばらく黙り込んだあとは、テンカたちは、ゲラゲラ笑って「ガルドは、でかい!」と騒いでいた。


 この感じは、王都トルネリカの貧民窟やバーデルの都の闇市も同じだ。

 下品だとソフィアは、呆れた顔をするけどな。


 宴会のあと、俺たち二人のためのユルタをテンカの仲間たちが用意してくれ、ソフィアの方でも、同じようなことを質問されていたことがわかった。


「どこでも考えてることや、やることは一緒だな」

「……そうですね」


 俺は、ユルタの民のおなごたちが、土器の水瓶や男たちがひょわわ羊たちのために掘った窪地に、水を出現させて溜めたりする不思議な祈りを捧げているのを見た。

 ソフィアは、ユルタの民のおなごたちと土をねて土器を作ろうとしてみたができなかった。


 ユルタの民のおなごたちは、男性たちから力を分けてもらって、不思議な術を使うことができると、ソフィアが宴会の時に聞き出していた。


「逆に男どもは、おなごたちから乳をもらって毎日、元気に暮らしているとか言っていたけどな」


 子供をはらんだわけじゃないのに、ひょわわ羊みたいに母乳が出ることがあるのかと、ソフィアに俺は聞いてみたら「ないと思います」と言ったあと、ハッとして顔を赤らめていた。


 家代わりの天幕であるユルタの作り方は、おなごたちが詳しい。


 ひょわわ羊の骨とひょわわ羊の毛から編んだ布で作られていて、中で土器の壺に入れたひょわわ羊の乾燥したフンを燃やすと木の枝を焚き火にくべた時よりも煙は出ないけれど、うまく布から煙が抜けていく。


 雨が降っても中に染み込まないのは、ずっと外暮らしのひょわわ羊の毛は、体を濡らさないように油ではじくらしい。


 その毛を小石を割った破片のナイフで男たちが切り取ってやり、おなごたちが男たちがひょわわ羊の散歩に連れ出している間に糸に紡いで布にして、服からユルタの布まで作って暮らしている。


 ユルタの民のだんなたちは、草原に出かけて行き、ひょわわ羊を遊ばせているうちに、食べられる草の実や葉を採取して、乾燥させたフンも集めて帰ってきたあと、自分のおなごたちと仲良くする。


 そんな暮らしをユルタの民は。昔からしている。

 やることはやっているのに、なかなか子供が生まれにくいというのが、ユルタの民の悩みらしい。

 

 獣耳があたまから生えていて、小さなしっぽのあるハルハとソフィアが水浴びをしている。

 ひょわわ羊の水飲み場に水を貯めるとおなごたちは水浴びをする。

 男たちは水瓶に貯めてもらった水に布をひたして体をぬぐい、最後に水を頭からざぶりとかぶる。

 雨の日の昼間に、裸でユルタから外に出て、だんなとおなごで布で背中をこすってみたりもたまにするらしい。


「ガルド、ここの夫婦の人たちはとても仲良しですね」

「そうだな」


 しばらく、俺たちはユルタの民と一緒に移動しながら暮らしていた。

 夫婦ごとに一つのユルタがあり、子供ができれば、一つの家族で一つのユルタで眠る。


 だんなが出かけてしまうと、一人ぼっちのユルタはさみしいと、おなごたちは思うらしい。

 ただ、だんなが出かけないでまとわりついてばかりだと、そのだんなは長生きしないと言い伝えられている。


 やりすぎで疲れきってしまってだんなは、くたばってしまうという言い伝えがある。


 俺の体がでかく、筋力だけはテンカの仲間たちよりある。

 テンカの仲間たちは、すでにそれぞれ自分のだんな、自分のおなごでくっついているからいいが、だんなのいないおなごが多いユルタの民の集まりだったら、喧嘩になる、ソフィアはうらやましいとおなごたちから言われていた。


 ユルタの民のまだ、だんなのいないおなごは自分のユルタを作って、一人で暮らして、だんなになりたいとやって来る奴を待つ。

 おなごが気に入った奴なら、自分のユルタに招き入れる。だんなになる奴は家族のユルタから出て、自分のおなごのユルタで残りの一生を共に暮らす。


「テンカ、おなごたちは、いつ親の巣から離れるんだ?」


 俺がユルタを巣と言ったのがおもしろかったらしい。

 テンカの仲間たちのあいだで、あれはテンカの巣、あっちはガルドの巣と言う感じが、あとで流行していた。


「そりゃ、乳が出るようになったら、いっぱしのおなごだからよぉ、水の出し方やユルタの作り方を親から習って、自分のユルタで暮らすんだよ」


 その話をソフィアに話すと「なら、私は、まだまだ一人前ではないということですね」とユルタの中で、俺に抱きついて笑っていた。


 ユルタの民のおなごは、全員、テンカの妻のアジュレのようなむっちりとでかい胸なわけじゃない。


「俺っちはアジュレみたいな感じが好きだけんどもよ」


 テンカはそう言っていた。好みはそれぞれらしい。


 ひょわわ羊の散歩に出ると三日から長いと五日ぐらい、おなごから離れて暮らすことがある。

 自分のひょわわ羊の群れのそばに、はぐれひょわわ羊が離れてじーっと見つめている時は、その場でしばらく滞在すると、はぐれひょわわ羊が自分の群れに入ってくれることがあるらしい。

 そんなときは、帰りが遅くなる。


 散歩にだんなが出かけて行く時は、それそれのユルタのそばで、だんなと抱きしめ合ったりキスをしている夫婦の姿をよく見かける。

 そうするのが、だんなを無事に遠出から帰らせるおまじない、というものらしい。


 それが恥ずかしいソフィアは、ハルハと手をつないで、ひょわわ羊の散歩に行くテンカと俺についてくる。


 アジュレがソフィアが散歩について行っても嫉かないのは、乳が出る前の子供のおなごは、父親について散歩について行くものだかららしい。

 

 あの性悪な牝狐のシャンリーは、呪術とか俺に言っていたので、きっとユルタの民だったら、乳が出まくりだろう。

 味は、ひどくまずいか毒が混ざってるかもしれないけどな!


 だんなが散歩に出かける時と帰ってきた時のおなごたちは、人前でも気持ちいいぐらい、爽やかに仲良しなのを見せつける。


 それを見てソフィアはハルハのところへ、ささっと逃げるか、見ないようにして、ユルタを組み立て始める。

 俺が手伝うと言って近づくと「ガルドはハルハの手伝いでもしていて下さい」と言われてしまう。


 あとから、俺にハルハの中で甘えてくるくせに。




+++++++++++++++++

ハルハの民のおなごたちは、お気づきだと思いますが、ジャクリーヌや密偵ソラナと同じか、それに近い、サキュバス族と思われます。

 ちなみにガルドは、呪術師シャンリー嫌いなのです。



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