第428話
帝都の投資ブームと冒険者ギルドの預金解約問題に、神聖教団としては、ダンジョン閉鎖と魔獣モドキが出現しない状況が、冥界へと通じる
けれど、他の地域の冒険者ギルドでも預金の解約者が増加していくことが懸念されていた。
定期的に一定の運営資金として流用もできる金額が教団に預けられなくなっても、長年、貯められてきた教団の財力ならば、少なくとも三十年以上は信者への変わらないサービスを続けられるとエリザだけでなく、マキシミリアンも考えている。
ターレン王国は建国した聖者ファウストが、神聖教団から派生した小さな新教団だったことや、蛇神信仰や山岳信仰などいくつもの宗教が混在していた事情があり、過去に神聖教団の布教がうまくいかなかった。
また大陸南方のクフサールの都は、独自の法術による治癒などが古くから行われており、また術者育成も行われているため、神聖教団の回復ポーションや避妊ポーションは需要がないので、布教がうまくいかなかった。
ゼルキス王国のハーメルン、シャーアンの都などの教会や冒険者ギルドなどがある人口が集中した都市部だけでなく、各地のダンジョン付近の冒険者ギルドはまだ、預金解約の流行は起きていない。
帝都の場合は賭博場の悪影響をエリザが考えて、遊技場へと商工ギルドと連携して運営方針を切り替えたことや、冒険者向けの商品から、日常生活で使えるフライパンなどの商品を販売して人気が出た商工ギルドに注目が集まっていた。
商工ギルドの商人会員向け投資サービスと資金貸付サービスを利用しようと、商人会員登録の希望者が急激に増加していた。
商工ギルドの商人といっても、何か特別な学院で取得する資格が必要なわけでも、冒険者ギルドのような依頼達成による格付けもない。
そこは神聖教団に聖職者として神官を目指すよりも敷居を低くしておくことで商工ギルドが人が集まりやすいようにしておいた方針が、このダンジョン閉鎖から約一年で投資して資産を増やそうと考えるだけで、何か作り出したり、サービスを提供しようとは考えない者たちに狙われることになった。
自称商人の投資目的の元冒険者が集まる組織が他の地域では、シャーアンの都の海商ギルドぐらいしかない。
海商ギルドは高額な自前の飛行帆船の所持が登録の条件となっている。
また、実際に海に出てクォーターマスターなどの経験がなければ、乗組員たちに信用されないので、登録すればすぐに商売で儲かるという安易な考えの者は、まず高額の飛行帆船の造船の投資に尻込みして集まらない。
エリザがこの投資ブームの前に、生活費の金貨三十枚の支給を開始できていれば、学院で知識や教養を身につけようとする人や、結婚して趣味とおこずかい稼ぎで、冒険者ギルドに依頼される日雇いの仕事をする人などもいて、さらに数年後には出産ブームが起きていた可能性もあった。
とにかく命がけではあったが、報酬があったダンジョン探索が突如、無くなってしまったことで、生存者は増えたけれど生活していくための今後の資金に不安を感じている人もじわじわと増え始めていて、恋愛や結婚、家族として子育てしていくことに対して消極的になる若者たちが増えて、神聖教団は寄付という建前で販売している避妊ポーションの売り上げが増えていく。
ダンジョン探索のあとの預金サービスで集めた資金の運用ほどではないにしても、少しだけ儲かっていく。
ダンジョンを閉鎖して、魔獣モドキの出現の機能を中止にしたにも関わらず、人口減少は少子化のため、緩慢に深刻な方向へ神聖教団の布教されている地域では進んでいくことになる。
賢者マキシミリアンが、ゼルキス王国へ帰還して将軍クリフトフ、情報屋リーサ、商人シャーロットからの相談を聞いた時に、少子化による人口減少が進んでいく滅亡へのシナリオが予測できた。
人口が減少した時代に、怪異による魔獣出現や人の魔族化が頻発すれば、人間は滅亡してしまう危険が今よりも高まることになる。
マキシミリアンは、ダンジョンに再び魔獣モドキを出現させるのと、緩慢に少子化で人口が減少するのでは、どちらが深刻なのか考えさせられることになる。
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エリザとシン・リーが、エルフェン帝国の中原地域やターレン王国で、貴族たちではない庶民の暮らしで何が起きているのかを感じながら旅をしてきた。
エリザが安全に快適な旅ができていることは、たしかに、治安が以前よりも良いといえるが、女性たちが恋愛に積極的に見えるぐらい男性たちの恋愛に対する消極的な気分が蔓延しつつあるのではないかというのが、シン・リーとアルテリスの旅に同行していての感想だった。
生活していくための基盤になる財力だけは確保されていたが、安全性は保証されていないダンジョン探索が行われている状況が失われ、財力に不安を感じるので、若者たちほ恋愛や結婚を避ける……とは安易に決めつけられない。
辺境地帯で冥界とつながる蛇神の門が開きかける直前に、ストラウク伯爵領では極端に男性の精力が減退するという怪異が発生した。
また、ターレン王国にはダンジョンがそもそも存在していない。
また冒険者たちではなく、中原地域の農場の村でも、親の世代の村人たちは作物の栽培や収穫をせっせと行っているが若者たちは、見た目の悪い作物は売れないので廃棄されてしまい、選別されて出荷して得られる収入が伸び悩んでいるので、恋愛や結婚を躊躇したり、たとえ結婚しても子供を産んで家族を増やしていくことに不安を感じている。
リヒター伯爵領では、働く農園の規模によって、恋愛や結婚の考え方に差ができていたりした。独身女性たちや離婚して子供を連れたシングルマザーが協力して暮らすシェアハウスの村まである。
また、ブラウエル伯爵領でも、女性たちで暮らしているシェアハウスが増えつつある。
男性たちは恋愛を避け、気心の知れた家族や同性の親友との関係で、異性との恋愛は憧れていても積極的に求めずに、アルテリスに言わせれば、待っている感じがするという。
男性と女性、どちらも幸せにして欲しいと待っていて、積極的に踏み出した人たちしか、うまく恋愛できていないとアルテリスはセレスティーヌに話した。
「エリザは占いで元気づけて、あたいは相談を聞いて応援したりしたけどね」
クフサールの都ではどうだったのかをセレスティーヌがたずねると、恋愛は平原の者たちやターレン王国の者たちよりも情熱的かもしれないけれど、女性は生活に役立つ術者を目指して異性との恋愛は避けるので、それだけ男性が恋をすると必死にアピールするけれど、大砂漠の環境は厳しく、中原の地域やターレン王国より、子供は大人になるまで育ち難いと語った。
アルテリスは、火を崇拝する神殿アモスがあった頃には、女性の同性愛の人たちが集まり、また子連れで流れてきた人たちが女性たちで協力して子育てをしていて、男性は育つと異国へ旅に出させる風習があったのを知っている。
褐色の肌の女性はいるが、褐色の肌の男性は日焼けしているだけで、他の土地で暮らすと肌の色は褐色ではなくなるのも知っている。
今もその風習が残っているのをシン・リーは説明しなかった。
しかし、アルテリスはなんとなく気づいていて、一緒に話を聞いている踊り子アルバータの褐色の肌は、きっと砂漠の民の血筋を継いでいるのだろうと思っている。
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マキシミリアンとセレスティーヌが、ゼルキス王国からクリフトフたちを連れてストラウク伯爵の屋敷へ戻ってくる少し前、まだゴーディエ男爵が王都トルネリカに帰還することを決意する前まで、過去の祟りの影響を気にして、ターレン王国や中原地域の少子化について、エリザたちに聞き込みをしていた。
ゼルキス王国に帰り、レアンドロ王にランベール王の国葬へ参列するか確認するのは口実で、マキシミリアン公爵夫妻は、ゼルキス王国にも滅びの兆候はないか気になって様子をのぞきに行ったのである。
ゼルキス王国は辺境地帯の大怪異で、ゼルキス王国との交流があった辺境地帯の人たちが犠牲になったためか、それらしい兆候を情報屋リーサや商人シャーロットにも協力してもらい、王都ハーメルンで聞き込み調査をしたが、それらしい変化は無いようだった。
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ストラウク伯爵は、パルタの都の執政官マジャールが子供の時から優秀な人になりなさいと親にかなり干渉され、競い合わされていたのだろうとエリザたちの話を聞いて察して、その競争から脱落した子供はどうなるのか心配していた。
競争に勝ち抜いた子供は、結婚もできるだろうが、そうでなければ親元から追い出されでもしない限り、どうすればいいか悩んでいただろうと。
聖騎士ミレイユと参謀官マルティナ、そして踊り子アルバータは、王都トルネリカが震災で半壊していて、数多くの貴族の血筋の若者たちも亡くなった惨状をストラウク伯爵に話して聞かせると、ストラウク伯爵は泣きそうな顔になって、席を外して一人で屋敷の外に出た。
すると、誰よりも先に、話には加わらず家事をしていたマリカが急いでストラウク伯爵を追いかけて屋敷から出たのだった。
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