第427話

 マキシミリアンが、ミミック娘にランベール王が衰弱した理由を質問したら、蓋をバタンと閉じて引きこもってしまった話をエリザたちに聞かせているのを、踊り子アルバータの胸元で、水神の勾玉に宿っている亡霊ゴーストシャンリーが聞いていて、ギクッとしていた。


 シャンリーが、神聖教団の回し者レナードを使い、皇子ランベールに呪いをかけた。レナードの容姿が双子のようにランベールと瓜二つだったのを利用した。


 呪う相手に見立てた藁人形に五寸釘を打ち込んだりする丑の刻参りや、ヴードゥー教にも人形を使った呪術がある。

 生きた呪いの人形のようにレナードを衰弱させ、ランベールに呪いをかけた。


 呪術師シャンリーの亡霊ゴーストは、しらばっくれて黙っていた。


 エリザが賢者マキシミリアンに、ランベール王が衰弱して昏睡したまま目覚めなくなった理由――亡霊アーニャがウィル・オ・ウィスプとなり、ランベール王に憑依していたローマン王を祓ったことや、ランベールとアーニャが転生するために融合して旅立ったとゲームを内容を語った。


 そのため、ランベール王の肉体は命の力が枯渇しきった抜け殻のようになっているけれど、魔族のヴァンパイアロードなので、意識がないまま死ねずにいる状態になっています……とゲームで説明されていたことをそのまま深く考えず、エリザは語った。


 エリザからすると、なぜミミックさんが悩んで宝箱に引きこもってしまったのか、理由がよくわからない。


 呪術師シャンリーの亡霊は、ランベールがローマン王の亡霊と融合して魔族化していたのは、レナードが呪縛から解放されてランベール自身の命が活力を取り戻したからだと納得した。


――ランベールの肉体、まだ使い物になるかしら?


 思わずシャンリーの亡霊が思考の声でつぶやきをこぼす。


(あら、シャンリー。貴女は、男性のランベール王の肉体に、飾り石から移る気なの?)


――そこなのよね。私は憑依するなら、男のランベールの肉体よりも、法務官レギーネの肉体のほうがいいわ。


 踊り子アルバータと亡霊シャンリーが小声で、密偵ソラナを警戒しながらひそひそ話を思念で交わしている。


「ミミックにも相談して、エリザがエルフの王国へ渡る方法を探したいところだが、残念ながら、まだ宝箱に閉じこもっているようだ」


 賢者マキシミリアンか、そうエリザに言ったので「あの、どうして、まだ引きこもっているかわかるのですか?」と聞き返した。


「マキシミリアンが、ニアキス丘陵のダンジョンのマスターだからですよ」


 セレスティーヌがエリザにダンジョンの知られていない秘密を教えた。


 マキシミリアンが少年だった頃に、ダンジョンの隠された制御室――今のミミックの宝箱が安置されている大部屋を発見して、ミミック娘と契約してダンジョンマスターというものになった。

 その契約方法をセレスティーヌはミミック娘から聞いて知っているが、エリザには教えなかった。

 祝福のキス。

 ミミック娘から抱きつかれ、少年マキシミリアンは、生まれて初めての濃厚なキスを受けた。

 セレスティーヌは、自分の出会う前のマキシミリアンの女性遍歴については、嫉妬しないでおこうと思っている。


「エリザはシン・リー様と契約なさったのではないのですか?」


 それまでダンジョンマスターというダンジョンの管理者だったミミック娘から新たにダンジョンマスターとなったマキシミリアンに、どれだけ離れていても、思念で簡単な内容であれば伝えることができる。

 ダンジョンの制御しているエリザも一度、ステイタスオープンの能力を得た時に手をふれたことがある大人が抱えるほどの大きさがありながら、室内中央で浮かんでいる宝玉からマスターのマキシミリアンに情報が送られてくる。

 ダンジョンからマキシミリアンへ、一方通行の情報伝達なので、留守中にダンジョンで何か問題が発生していないかを知るぐらいのセキュリティ監視システムのようなものである。


 だから、まだミミック娘が宝箱に引きこもり眠り込んで調査中だと、マキシミリアンにはわかる。


 エリザと大神官シン・リーとの間で、マキシミリアンとダンジョンのような情報伝達はないことを、セレスティーヌは知った。


 ランベール王が昏睡したまま目覚めない理由を、ゴーディエ男爵は理解した。


 ローマン王毒殺の容疑で火炙りの刑に処されたメイドのアーニャが、死後に亡霊ゴーストとなり、ローマン王の亡霊ゴーストから、ランベールの心を救ったという話を、以前の自分が聞いたとしても信じなかっただろうと、ゴーディエ男爵は思った。


 クンダリーニの力を感じられるようになった今、クンダリーニは強大な力なので亡霊ゴーストとして死後も力が残留することもあるだろうとゴーディエには思える。


 クンダリーニの力や亡霊ゴーストは見えず、感知できない者からすれば無いように感じるだろう。

 しかし、感知できないだけで確実に存在している。

 

 マキシミリアンに、ミミック娘がダンジョンから情報伝達できているのは、ミミック娘がマキシリアンを、自分にとって特別な人――マキシリアンが子供のうちは母親のように、青年になれば姉か妹のように、大人になった今は対等なパートナーとして、ずっと愛し続けているからである。

 種族を越えた愛情。ミミック娘は、マキシミリアンに、ずっと片思いの恋をし続けているようなものなのである。


 ゲームであれば、そういう魔法があるのかと深く考えないことには、こうした恋愛の不思議な作用がひっそりと影響している。


 ナーガの創り出した世界の人間たちは魔法が使えず、夢もみない。

 そして、時には私利私欲のために戦を起こしたりして、その総人口を減らしている。

 恋愛の力の不思議な作用について、ナーガは気づいていない。

 ナーガの世界と女神たちの加護する世界の異なるところは、この恋愛の力がもたらす不思議な作用が、強く世界に影響を与えているかのちがいである。




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