第423話
冒険者ギルドには、探索で獲得した魔石は買い取り、その取り引き分の金額とダンジョンから持ち帰った硬貨を合わせて、預けておくことができるサービスがある。
預金サービスの利用者がダンジョン探索で死亡、あるいは最後の依頼を受けてから一年間、冒険者ギルドに音信不通のまま失踪した時は、保管期限切れとして一時的に神聖教団へ保管主が変わる。
三年が経過しても、預金サービスの利用者や、同じパーティメンバーからの凍結されている預金の引き出しが申請されなければ、神聖教団へ寄付されたものとして返還の要請は認められなくなる。
これが帝都周辺の中原地域で、納税の義務がないことや、神聖教団がポーションを配布するサービスを行う理由となっている。
冒険者ギルドの預金サービスを利用せずに、商人が商工ギルドからまとまった金額の貸し付けを受け、冒険者のスポンサーとして資金提供をして、冒険者は預金サービスを利用せずに商人への返済に回すことがある。
魔石を入手した場合は、冒険者ギルドから神聖教団へ転売され、その利益が預金サービスの残高に加算される。
ダンジョン封鎖により、この預け金を解約して引き出しする要請が冒険者ギルドに出され始めた。
商工ギルドに預けると、定期預金サービスなので一定期間は預金の引き出しや解約には応じられないが、利息がつくので、資産の預け先を冒険者ギルドから、商工ギルドに移し変える者たちが増え始めたのである。
冒険者ギルドは国営であり、直接は神聖教団とは関係ないギルドなので、エリザの留守を任されている執事にして側近であるトービス男爵の元へ、受付嬢アーヤと冒険者ギルド長クリトリフが王宮に対策について相談に訪れた。
冒険者ギルドそのものは、預け金を現金で保管しているわけではない。
神聖教団の運用資金として使われていて、書面上の記録の金額として冒険者ギルドにあるように見えているだけだ。
急激に多数の預金サービスを解約する冒険者が増えると、冒険者ギルドの運営費だけでは、解約返金の対応予算をオーバーしかけていた。
冒険者ギルドの預金サービスを解約して、預け先を商工ギルドに移したいと考える冒険者が増えたのは、賭博場を廃止して遊戯場にしたことの人気が評判として広まったので、商工ギルドのサービスについても噂として広まったからであった。利息がつく方が得と考える冒険者もいたからである。
クリトリフの選抜試験が厳しいので、根を上げた冒険者たちの中には引退して手持ちの資産を運用して儲けたいと考える者が現れ始めたタイミングと重なったことも原因となっている。
困ったのは、商工ギルドのシャーロットも同じで、冒険者ギルドのクリトリフと受付嬢アーヤがトービス男爵を訪ねた翌日には、商工ギルド代表シャーロットもトービス男爵を訪ねている。
一時的に商工ギルドに現金が集まっても、それは期限が来たらサービスの利用者に利息をつけて返済しなければならないからである。
商人を相手にする予算で商工ギルドは運営していて、多くの冒険者たちの乗り換えを想定していない。
また商工ギルドは預り金をうまく利用して、儲かる事業を展開しなければ利息分が赤字になりかねない。
帝都の冒険者ギルドと商工ギルドの経営危機に、留守番を任されているトービス男爵は困ってしまった。
(エリザ様なら、何か良いことを思いつかれるにちがいないでしょうが、どうしたら良いのでしょう?)
情報屋リーサとしては、親友の受付嬢アーヤと商工ギルドのシャーロットが困っているのと、月の雫の花を植えるために剥がした敷石を神聖教団に売ってエリザが王宮に貯めた予備費は、商人たちの返済期限延長に使われたので、王宮の予備費もあまり余裕がないと考えている。
(エリザ様には、そろそろ一度、帝都に戻って来てもらわないとまずいわね)
もし、貴族令嬢カレンと情報屋リーサが仲良しな状況なら、エリザたちが平原の村に立ち寄った噂を、カレンからリーサは聞くことができていたはずである。
貴族令嬢カレンは、情報屋リーサがゼルキス王国から来た中年の熊みたいな大男クリトリフに気があるらしいと直感で察して、ちょっと拗ねてしまっている。
「クリトリフ、エリザ様を探して連れ戻す必要があるわ」
「聖女様を連れ戻せれば、なんとかなるのか?」
「それはやってみなければわからないけれど、経営危機の冒険者ギルドと商工ギルドに、神聖教団から資金を引き出せるのは、エリザ様だけだと思う」
クリトリフが思いついたのは、困っている人が多いのを説明して、賢者マキシミリアンに以前のようにダンジョンで魔獣モドキ討伐ができるように戻してもらうということぐらいである。
「リーサ、レアンドロ王と謁見して、事情を説明して資金援助を持ちかけてみるか?」
「ゼルキス王国は、エルフェン帝国よりも小さな国なのでしょう?」
「レアンドロ王が、マキシミリアンを説得してくれるかもしれない」
またエリザの探索にマキシミリアン公爵夫妻のどちらかが動いてくれたら、当てずっぽうで探すよりましだろうと、クリトリフに言われ、情報屋リーサはゼルキス王国へ訪問してみることに決めた。
ギルド長クリトリフ、情報屋リーサ、商人シャーロットの三人は、トービス男爵に帝都の
トービス男爵は、優秀な執事で側近ではあるけれど術者ではないので、
神聖教団から神官たちにお金を払って帝都へ来てもらい、三人の旅をサポートしてもらうしかないかと、トービス男爵は考えていた。
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