第415話
まだ弟子のセストが、ロエルの家に修行に来た時よりの、もっと前のロエルが修行中だった頃の話である。
ロエルの師匠、ヴォイノフ。
ずんぐりとした体格、赤い鼻の髭づらで大酒飲みのドワーフ族だけれど、ルヒャンの街で評判の腕前の修理屋である。
セレスティーヌの弓を修理して弦を張り直したのは、ロエルの師匠のヴォイノフであった。
ドワーフ族は素材となる鉱石が入手できる山ならどこにでもいたもんだ……賢者マキシミリアンはヴォイノフの酒杯が空っぽになると、また一杯注いでやり、ドワーフ族の昔話を聞いたことがある。
ヴォイノフとロエルは父娘のように暮らしていたが、血のつながりはない。
ヴォイノフがロエルを家に連れ帰った時のことをよく覚えていない。へべれけになっていたので、何処で拾ったのかは覚えていないということらしい。
ロエルはユニコーンに案内されて霧深い森を抜け出したあと、ルヒャンの街の家の明かりを目指して夜の荒れ地を歩いて、街でへべれけに酔っていたヴォイノフに拾われた。
ロエルはユニコーンと会った夢でもみてたんだろう、まだちびっこかったからな……ヴォイノフはそういって自分の髭を撫でながら笑った。
ルヒャンの街でセレスティーヌの弓は強化され、今でも使われている。
金属製の弓でありながら軽く、よくしなる。もともとは大樹海の木製の弓だったが、ひび割れてしまった。
ヴォイノフはその弓を加工して、金属製の弓にしてくれたのだった。
ひび割れていたが、いい弓だったから修理したいと思っただけだ……ヴォイノフは、青年だったクリフトフと酒を飲みくらべをしながらそう言っていた。
賢者マキシミリアンとセレスティーヌとクリフトフ、そして少女のロエルとドワーフ族の修理屋ヴォイノフの五人が、少し薄暗い酒場で一つのテーブルを囲んでいる姿をエリザは思い浮かべていた。
マキシミリアン公爵夫妻も、ヴォイノフとロエル以外のドワーフ族を見ていないという。
人間か獣人族と混血して、ドワーフ族の特徴を色濃く受け継いで生まれてくる子供が少なくなっていったのでは?
……というのが、賢者マキシミリアンの見立てなのである。
しかし、ドワーフ族の子供は、男子しかめったに生まれないという理由については、マキシミリアンもわからず、古代ハイエルフ族の叡智を参照できるミミック娘にたずねてみたが、ドワーフ族の子供は男の子という情報しか残されていないらしい。
ロエルは、ドワーフ族の職人たちの命は、死んだあと
「スト様、双子の山にセストと行く」
ロエルは、マルティナの体に異常がないのを診察したあと、ストラウク伯爵とマリカに言った。
【賢者の石】を錬成した大洞窟が、双子の山にあるかもしれないとロエルは期待しているのである。
ストラウク伯爵とテスティーノ伯爵の師匠――元王都トルネリカ騎士団の武芸師範オーシェも、ふもとの村ではなく双子の山で暮らしておったと、ストラウク伯爵は、オーシェを埋葬した双子の山の間にある渓谷のあたりまでの地図をセストに手渡しながら言った。
双子の山は女神の乳房と呼ばれ、遠目にはのどかな美しい山にしか見えないが踏み入れば、かなり険しい山だと二人に教えた。
「えっ、アルバータさんの首飾りの勾玉には呪術師シャンリーの怨霊が憑いてるんですよね。ロエルさんたちがいない時に、出てきちゃったらどうすればいいんですか?」
エリザは聖戦シャングリ・ラのゲーム内容で、呪術師シャンリーに関係する残虐な暴力シーンや性的なシーンがかなりあったので、とても怖がっている。
「エリザ、
「ええっ、たぶんって、絶対に大丈夫じゃないんですか?!」
踊り子アルバータは、細工師ロエルと弟子の青年セストに、首飾りを渡したりしなかった。
山に持っていってゆっくり調べるとロエルに言われたけれど、踊り子アルバータは首飾りの勾玉――呪術師シャンリーの
「リーフェンシュタール、ヘレーネは
「ストラウク伯爵、
「そうではない、生まれてくる前にどんな者であったのかということだ」
「うーん、聞いたことはありません」
ストラウク伯爵も、ロンダール伯爵と同じように、エリザから「ここは、聖戦シャングリ・ラというゲームの世界なんですよ」と聞かされ、かなり困惑しているのである。
幽霊やら
転生する前の大いなる
聖騎士ミレイユを預言者ヘレーネが前世を視れば、エルフ族の三貴姫の一人サティーヌの意識が残っているのを見つけ出せるかもしれない。
細工師ロエルが、大洞窟を探しているのは、弟子で恋人のセストを、師匠のヴォイノフの命もきっと魔石の結晶になって大洞窟には眠っているだろうから、ヴォイノフにこれが私の大好きな人だと紹介して自慢してみたいからであった。
魔石の勾玉に
ということは、師匠ヴォイノフの命も大洞窟の魔石の結晶に眠っている可能性があるとロエルは思ったのである。
もし聖地の大洞窟にもう一度行くことができれば、踊り子アルバータが、
(我が師匠オーシェ殿も、どこかで生まれ変わっておられるのかもしれぬ)
ストラウク伯爵はそう考えると、死んだあと生まれ変わって師匠がオーシェやテスティーノ伯爵と再会できるなら、生まれ変わるのも悪くないと思った。
ランベール王の国葬で、ストラウク伯爵はルーク男爵――のちの評議会メンバーとしてルーク伯爵となる人物の声を聞いて思わずハッと驚いた。
「テスティーノ、ルーク男爵の声は、我らの師匠オーシェ殿にそっくりだと思わぬか?」
「兄者もそう思われましたか?」
「ルーク男爵として、我らの師匠は生まれ変わったのかもしれぬ」
そう言ってストラウク伯爵とテスティーノ伯爵は、ニヤリと笑ってうなずき合ったのだった。
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