第414話
ロエルが気になっているのは、魔石そのものというよりも、ドワーフ族という種族がなぜロエル一人となってしまったのかということである。
ロエルは小顔で少し吊り目だが大きな目をしている。これはドワーフ族の女性の特徴で、年齢よりもかなり幼く見える。小柄な体格で、エリザよりも若く見える。瞳の色は、くすんだ赤みと黄色みがある薄茶色である。
これは神聖騎士団の獣人族の双子クロエとシロエが、人間に変身の能力で変装した時の特徴と似ている。
ロエルがドワーフ族の聖地の大洞窟で【蛇神の錫杖】に封じられた僧侶リーナの心を残したまま、魔石【賢者の石】として錬成した時のこと。
錬成の儀式中、大洞窟の岩肌から露出していた鉱石の結晶は、それぞれ淡い光を放っていた。
ただの鉱石の結晶ではなくそれぞれが命の宿った魔石であり、思念の力でロエルに呼びかけ、協力してくれたので、ロエルは魔石【賢者の石】の錬成に成功することができた。
錬成後は、もう思念の力で呼びかけてくれることはなかった。
――魔石には命の力が宿っている!
ロエルは女神ラーナの転生者の命を宿した真紅の【賢者の石】を、マキシミリアンのダンジョンに持ち帰った。
大洞窟の鉱石の結晶には、ドワーフ族の職人たちの命が宿っていた。
この発見がなければ魔石【賢者の石】
の錬成の成功はありえなかった。
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ロエルが最後のドワーフ族の乙女になる前に、まずドワーフ族にそもそも女性が世界に存在したのかということを疑う者は一人しかいない。
ミミック娘たちのような生きる聖遺物であるモンスター娘たちと同じように、細工師ロエルをモンスター娘の異種族と賢者マキシミリアンは考えている。
賢者マキシミリアンは、エルフ族の三貴姫の一人であるセレスティーヌをエルフ族の王国から、駆け落ちして連れ出した。その時代には、もう男性のドワーフ族は姿を消していた。
青年の賢者マキシミリアン、セレスティーヌ、青年のクリフトフが三人で大陸を旅をして、ルヒャンの街を発見し、そこで細工師ロエルと出会った。
それはまだエルフェン帝国が存在する以前の時代で、エルフ族の三貴姫であるサティーヌ、セレスティーヌ、エルネスティーヌが存在していた。
賢者マキシミリアンに聖遺物から生成変化させてモンスター娘として召喚する秘術をサティーヌは授け、サティーヌの計画通りにセレスティーヌは、マキシミリアンと恋に落ちてエルフの王国から出奔した。
細工師ロエルは、ドワーフ族の最高傑作――古代のハイエルフ族の聖遺物を模倣するところまで、ドワーフ族の職人たちの技術力は到達して、ロエルを召喚したのではないかと、賢者マキシミリアンは考えている。
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マニプーラワールドオンラインの世界では、プレイヤーは人間で、いろいろな種族やモンスターが存在している。
しかし、ドワーフ族は男性の鍛冶職人で屈強な戦士系の仲間キャラクターであり、男性キャラクターしか存在しない。
人間のキャラクターに男性キャラクターと女性キャラクターが存在するから、ドワーフ族の女性キャラクターを設定しようというゲームはないわけではない。
しかし、マニプーラワールドオンラインには女性キャラクターとしてのドワーフ族の設定はない。
ドワーフ族の男性キャラクターと人間の女性キャラクターの夫婦は登場していて、どうやらドワーフ族の身体的な特徴を持って生まれてくるから、ドワーフ族と呼ばれているだけらしい。
ドワーフは、北欧に伝わる神話にも登場する由緒ある小人の妖精。
神話の中では神々によって人型を与えられた小人族ドヴェルグ(Dvergr)として語られる彼らは、顔の半分を覆っている髭が一番のチャームポイント。
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敗戦直後から復興と成長していった日本の経済の中心に製造業を据えていた。
「お前は社会の歯車だ」
「お前は会社の部品なんだよ」
こういう言い方には製造業の工業系の雰囲気が隠れている。
その経済発展を支える人材育成として学校でも、集団行動、部活動をふくめた長時間拘束、また六〇年代の学生紛争などの抑え込みの教育ブームがあって、かつて戦前の軍人の育成機関であった学校から、戦後からは製造業の人材育成の場としての学校というものに移り変わっていった。
その中で自主性を育てると方針を掲げていても、本当に子供が自主性を発揮して、組織としての集団行動を乱す子供がいたら、大人の教師から抑え込まれて、集団行動に従うように指導される。
「大人はわかってくれない」
そんなことを言いながら、学校や家庭で強制されていると感じた子供たちが校則違反の服装や髪型にして、自分たちのグループで先輩後輩という感じで、大人たちと似た上下関係を作って悪ぶってみることで、学級崩壊、家庭内暴力が社会問題になった。
とはいえ終身雇用や年功序列など、企業は人材育成をふくめて自分の会社に雇った人を組織として一生、働かせ続ける方針と、女性に対しては結婚して家庭を守り、子育てをするのが幸せと、終身雇用や年功序列では不利になる結婚したタイミングで寿退社させる風潮、再復帰ではなく専業主婦になるのが当たり前という考えがあった。
男性は伴侶の女性や子供を経済的に支えるのが責任が常識とされる一方で、家事や育児を伴侶の女性に丸投げして、会社に尽くすのが当たり前と考える男性が多かった。
こうした強制があって戦後の焼け野腹になった貧困の日本から、みんな中流階級という横並びの考え方になっていくまで経済成長していった歴史がある。
ドワーフ族は背が低くずんぐりとして鍛冶職人で、力持ちな種族で、バイキングのような兜や鱗鎧か革鎧を身につけた男性キャラクターとして設定された。
逆にエルフ族は八頭身のすらりとした美男美女として設定されてきた。
一握りの上流階級のイメージが投影されている。
どちらも成長過程の「子供」のイメージのあるプレイヤーのキャラクターを助けてくれる「大人」のイメージが投影されている。
マニュアル通りの学校教育や企業になじめない独創性のある人たちには、生きにくい社会だったといえる。
いわゆる不良と呼ばれた子供たちが地元で小さなグループを作ったように、同じ趣味を持つ子供たちが集まってグループを作りオタクとのちに呼ばれた。
どちらも学校で強制されていたり、集団性と服従を重視され、大人になれば常識としてやはり横並びと上下関係や服従を求められることになじめなかった人たちは、落伍者として不遇の偏見を受けることになった時期でもあった。
誰でも努力すれば幸せな中流階級になれて、才能あって、チャンスがあれば上流階級になれるかも?
集団行動や協調性を仕込まれると同時に、競争することを求められ、学歴がステータスとして初任給にも反映されていたが、実際は子供を進学させられる経済的余裕がある家庭に生まれるかどうか、男性か女性のどちらに生まれるかどうかは、運しだいなのである。
退職までに獲得できる収入に男性と女性で格差がある社会で、さらに出産や育児は女性がするものという習慣だけが残り、企業の成長も頭打ちになって経済的な成長期だった時のように昇給もしなくなり、専業主婦は勝ち組と呼ばれ、共稼ぎしなければ、いわゆる中流階級のイメージの生活が維持できなくなっていく。
成長するということが際限なく続くわけでなく、また企業で競争して勝ち負けがある以上、好景気が永遠に続くわけではない。社会の景気が低迷する時期や企業の規模で収益に格差ができてくる。
家庭用ゲーム機のファンタジー系RPGブームは、そんな時期に始まった。
さあ、生きにくい社会や家庭のしがらみを忘れて、心は生き残るためにゲームの世界へ旅立ちなさいというわけだ。
共稼ぎで両親がいない家で、一人で、または運良く友達ができた子供たちは一緒のゲームで遊ぶことで、学校の成績や運動が得意かなどは関係なく、ゲームを遊んで知っているというだけで、親近感を持つことができた時期は存在した。
マンガ、アニメ、ゲームは、かつて不良とオタクに分断していた子供たちが、合流した趣味となった時期があった。
マニプーラワールドオンラインのお手本になっている人気ゲームは、経済的に好景気の雰囲気がまだ強かった頃で、オンラインゲームはまだネットワークの技術が普及する前なので存在してなかったので、中流階級の冒険者が依頼を受けて解決していく。
安定した依頼と解決による報酬獲得というイベントパターンが成立していた。
オンラインシステムにゲームが移行して、ランキング形式でプレイヤーたちをイベントで競わせるようになると、課金できるかどうかまで影響してくる。
「コストパフォーマンスと時間効率」
という考え方が、プレイヤーたちから囁かれるようになっていく。
終身雇用の企業はほとんど特別な職人仕事以外は無くなり、年功序列から実力主義へ、また雇用でも新卒採用から、即戦力採用という方針へ切り替えて、不景気を乗りきろうとしている。
家庭用ゲーム機から、ネットワークシステムを活用したオンラインゲームに切り替えたように。
男女雇用の格差を減らし、さらに労働者を増やせば、企業の収益が上がり、さらに納税者が増えてさらに、国全体の景気が悪化していくのが防げるのではないかと安直に期待されていた頃のゲームをお手本にしているので、マニプーラワールドオンラインは、プレイヤーキャラクターを男性か女性か、どちらか選べる仕様になっている。
しかし、武器や防具など男性キャラクター専用装備が多いなど、マニプーラワールドオンラインには、過去の時代性の名残がちらほらと残っている。
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