第407話
聖戦シャングリ・ラの世界は、まだまだ物語の途中の状況で配信を打ち切られてしまった。
打ち切られると、そこで世界は滅亡して大いなる
これは消費社会という神話で、娯楽を求める消費者が必ずいて、そのために新しい商品を購入し続け、商品を提供する企業はその収益を得て、消費者に飽きられたら、新たな商品を提供するという市場があり、他の商品との競争と提供、消費者から選ばれた商品購入という金銭の循環が円滑に行われているというのが大前提となっている。
ゲームはもう聖戦シャングリ・ラでやりきったと考えている元課金プレイヤーのある中年男性は、月額の定額課金制であるマニプーラワールドオンラインを無料お試し期間のみプレイしたところで「これは、何がちがうんだよな~」と感じて新たなゲームに課金しなくなった。
広告収入による収益で運営された無料動画配信サイトからVTuberが配信するゲーム実況動画を、職場から妻の待つ自宅へ帰宅する途中の電車の中や、自宅のパソコンから休日にながめ、また、フリーマーケットアプリから趣味の商品を購入、転売などをして、妻から渡されているおこずかいを元手にして、貯蓄を増やせないかと画策している。
消費者が減少していて、無料サービスと貯蓄に興味や関心が集まるなか、市場の縮小と提供される商品の均質化の流行だけでなく、その考え方は新たな思想のように、自分と他人の均質化という方向で善悪の基準を考えるようになった。
動画配信者でも、過激なパフォーマンスを売りにして視聴者数を稼いでいた人たちがいた。それを真似して企業のイメージを損ねたとして多額の賠償責任を求められる配信者まであらわれたことで、その傾向は、視聴者たちの均質化の考えから下火となりつつある。
また、最近は短時間で視聴できるショート動画が人気で、動画配信者たちは、許可なしで自分のロング動画を切り抜き配信されたりしていたり、ロング動画を配信していても視聴者数が以前よりも伸び悩み気味で「無料動画配信は、もう稼げないのか?」という噂も囁かれ始めている。
どの市場もネットワークシステムの普及とビジネスの拡大の影響から、世界中の市場と消費者についても、以前より広く視野に入れて活動することが、スポンサーとなる企業からは求められるようになりつつある。
原案者のマンガ家メイプルシロップこと緒川翠が配信終了直前に、打ち切りの予感から、念のために聖戦シャングリ・ラの世界を舞台にした物語を他の作家に提供して新人ラノベ作家の森山猫によるノベライズ、マンガ化は自分が執筆する企画を出版社に持ちかけることで、大いなる
(景気が良かったら、映画化とか、実写ドラマ化とか……うーん、ないな。がんばってアニメ化の企画ぐらいかな)
メイプルシロップこと緒川翠は、百合純愛マンガが描きたいだけで活動してきたけれど、注文されてエロマンガ家になり、さらに聖戦シャングリ・ラの仕事の結果、さらにイラストレーターの仕事まで受注することになった。
さらに、岡田昴が聖戦シャングリ・ラの仕事のあと、親友のVTuberアイドル事務所のサポートを行っている関係から、メイプルシロップ先生というVTuberという活動まで始めることになってしまったのである。
メイプルシロップ先生のアバターは、岡田昴がサポートしているVTuberアイドル事務所では「さやママ」と呼ばれているアニメーターとイラストレーターの肩書きを持つ「スタジオまかろん」の水原紗夜が描いた。
エリザたちのいる聖戦シャングリ・ラの世界に、もう一つ隠された神話があるとすれば、こうした消費社会という神話が、人の考え方に影響して、それが生活習慣や恋愛観にも関わってきていることだろう。
エリザたちを創作した世界の人たちが感じている問題は、大いなる
エリザは世界樹からあらわれた聖女というイメージを神聖教団が広めて信者たちからの絶大な人気から、エルフェン帝国の宰相という地位に就任している。
そんな彼女の心には聖戦シャングリ・ラの熱烈なファンで、二十歳の無職のニートの女性が宿っている。
神聖教団をスポンサーとしたVTuberアイドルのようなところがある。
生前は令嬢エステルの肉体に心を宿らせ、令嬢エステルには処刑される自分の女伯爵の肉体を与えて、アカウントやアバターを乗っ取り交換したかのような呪術で過激な行動を行ったシャンリーは、今は
水神の勾玉というアバターだと考えれば、わかりやすいかもしれない。
また、シャンリーが
女神ラーナの化身である転生者の僧侶リーナの心が、蛇神の
魔剣、あるいは神剣ノクティスは、女神ノクティスの心が宿っているインテリジェンスソードだけれど、アバターと考えればわかりやすいかもしれない。
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メイプルシロップこと緒川翠と「さやママ」こと水原紗夜をゲストに呼んだ動画で「最近のアニメ業界はどうなんですか?」と、双子のVTuberの
リメイクアニメが最近増えてきた。
水原紗夜はリメイクしないで、当時の作品の画風や雰囲気を楽しむために再放送してくれたら、それを知らなかった若い人たちには斬新なんじゃないかと話した。版権や内容の倫理規制があって、難しいのはわかっているけれど、と前置きした上で、そのままのインパクトは大きいはずと言った。
「メイプルシロップ先生のデビュー作のマンガも、私には衝撃でしたよ」
「ありがとうございます。でも、あれは今、絶版なんですよね」
アニメのヒットするかわからない新作を制作するより、視聴率が取れる過去のヒット作で確実に勝負したいというのは駄作でもいいからやってみなよっていう余裕が業界にないのと、視聴者の年齢層が中高年になっていて、新作に興味をあまり持たないという傾向もある。
なので、演出で微調整を加えたリメイクアニメってことになってしまった。
「でもね、さやママがキャラクターデザインをして私の作品のキャラクターを登場させても、別の監督と脚本家と組んでリメイクしたら、私の型にはまったところと、監督と脚本家のやりたいことがぶつかって、私にはできなかった今の作品が見られるかもって、ちょっと期待できる気もするんですよ」
「また、そんな身も蓋もないことを」
「原作のイメージとちがうと賛否両論になって話題になれば、原作のマンガの本が再版されたりしない?」
人気作品をリメイクする現場のプレッシャーは、半端なくしんどい。失敗が許されない空気があるはずと、アニメーターでもある水原紗夜は語った。
「その作品を当時に夢中になったファンの人たちが、何に夢中になったのかっていうところを、現場の制作をする人たちはよく討論して、あと当時のファンからも話をよく聞いて、どこに惚れたのかを考える時間が必要だと思うなぁ。コンプライアンスの問題に合わせて微調整するための会議ばっかりしてないで」
緒川翠はたぶん聖戦シャングリ・ラのアニメ化をどこかでやりたいって言ってもらえるのを狙っていて、あきらめてきれていないらしいみたいだと、水原紗夜は思った。
「ふふっ、メイプル先生、作品の魅力がなんだったのかちゃんとわかったら、リメイクじゃなくて、オリジナルの新作で勝負したくなるかもしれないですね」
「そうそう、見た人たちは、なんかどっかでみたやつに似てるな~、でも、いいかも、とか言ったりしてね」
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