第401話
人知を超越した摂理――人の一生は、かりそめの一瞬にすぎず、大いなる
さらに、親友でもあり忠誠を誓ったランベール王が、危篤の状態のまま、遠方の神聖教団の本部である古都ハユウで弔われていると、マキシミリアン公爵夫妻から聞かされていた。
一生を捧げて仕えると決めていた主君の訃報に、今後は何を生きがいにすればいいのか、指針を失ってしまった。
サキュバスのソラナによって体力は回復したが、ゴーディエの生きる気力は、悩むほど失われていく。
ヴァンピールの血の渇望によって、他人を滅ぼすことだけに生かされている奴隷なのだ――そんな鬱々とした気持ちに心が
ソラナが愛情をゴーディエに示してくれるほど、ソラナの命も我を忘れて奪い大いなる
(人間として誰かを愛することなど、今の私にできるのだろうか?)
アルテリスに背負い投げで地面に叩きつけられた瞬間、ゴーディエは魔族ヴァンピールの宿敵であった鬼人オーグレスや獣人族との戦いの記憶と闘争本能に血が沸騰するような興奮を感じた。
虐殺せよ!
それはヴァンピールの血の渇望を阻んで滅ぼしてきた宿敵が現れたことの本能からの警告であり、ぞわぞわと背骨を這い上がるような恐怖の入り混ざった興奮であった。
自分は人間という思いと、人間を獲物とする血と命の呪われた略奪者であるという思いに苦悩してきたのが嘘のように全力で戦い滅ぼされてもこの血の渇望の呪いから解放される。
大いなる
「なんだ、怒ったのか?」
みちっ。
みちっ。
みちっ。
ゴーディエが「グオオオッ!」とこんな獣のような声を上げるのかと、耳を疑うような咆哮を上げながら、腕も胸板も脚も、急激に全身の筋肉が盛り上がって
アルテリスがその咆哮と
身をわずかよじり鳩尾ではなく肋骨の上から踏まれ、そのまま肋骨が踏み砕かれなかったのは異様な筋肉の鎧が、ダメージを軽減したからであった。
それでも肋骨にひび割れが走る威力はある。しかし、ゴーディエのに苦悶の表情は浮かばない。
手を使わず、ぐわっと上半身を起こしてヴァンピールの牙を剥き出しにしたゴーディエがゆらりと立ち上がり、少し前屈みになり唸り声を洩らして宿敵を睨みつけていた。
「おい、猫、あたいに考えがある。手を出すなよ!」
「わかっておる。好きにするがいい」
シン・リーはエリザを守るつもりで、ゴーディエをアルテリスが庭に引きずり出した直後に庭に飛び出してきていた。
ストラウク伯爵が「全員、庭に出てはならん!」と言って、ソラナとアルバータから庭の様子が見えないように、障子をぴしゃりと閉めて立ちふさがった。
その隣に、腕を組んで仁王立ちのマキシミリアンが並んだ。
「庭に出たければ、我々を手にかける覚悟でかかってくることだ」
マキシミリアンは、聖騎士ミレイユを見つめて言った。
さすがにストラウク伯爵とマキシミリアンでも聖騎士ミレイユが本気で魔剣ノクティスで斬る気でかかってきたら、ひとたまりもない。
「エリザ、大丈夫です。シン・リー様とアルテリスに、ここは任せましょう」
セレスティーヌが少し緊張した表情で呆然としているエリザに話しかけた。
聖騎士ミレイユと参謀官マルティナ、神聖騎士団の戦乙女たちは、マキシミリアン公爵夫妻からそう言われ、立ち上がッていたが顔を見合せて座り直した。
踊り子アルバータに「下手に動いたらダメよ」と水神の勾玉から呪術師シャンリーが、思念で話しかけた。
ソラナは、踊り子アルバータが自分に話しかけたのかと思い、アルバータの顔をまじまじと見つめた。
ソラナは術師なので、
(ねぇ、アルバータ、あの泥棒猫も私の声が聞こえたみたいよ)
「えっ、誰が泥棒猫ですって?!」
この状況の中でもう一人、立ち上がったまま困惑しているのは、貴公子リーフェンシュタールであった。
「えっと……これは、みなさん、どうしたんですか?」
ストラウク伯爵の伴侶の山の巫女マリカが、台所から大部屋へ来て、背の高いリーフェンシュタールを見上げると、首をかしげながら、どことなくおっとりとした口調で声をかけた。
►►►
この混乱した状況に屋敷の大部屋が陥っている日、細工師ロエルと弟子の青年セストは、屋敷の裏手の山小屋に、焼き物の皿を作るために出かけていた。
錬成ではない技法で皿を作ったことがなかったので、細工師ロエルは普段、めんどくさがり屋なところがあるが、この皿作りはセストに薪を手渡して、彼女なりに積極的な意欲を見せている。
かなりの火の勢いと暑さなので、セストは汗だくになりながら、師匠のために薪をくべている。
山鳩の鳴き声にロエルが気がつき、小さな声でくすくすと笑うと「なんか、かわいい」とセストに話しかけた。
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人数が多いシーンで、これが絵で見せるマンガかアニメならわかりやすい。
しかし、シーンの雰囲気は、文章の方が迫力がある。
どつちにも利点と欠点があるなぁ。
お読みくださりありがとうございます。
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