第398話

 マニプーラワールドオンラインのプレイヤーたちが、生活している世界。


 その世界の記憶は、時の番神アティユトート――漆黒の梟神に残されている。


 チャクラとは、プラーナにエネルギーを変換する。また、エネルギーの循環を促すことも制御することもある。


 亡霊ゴースト――人格的や記憶を保持している残留プラーナ。

 その亡霊ゴーストたちが、漆黒の梟の姿の神使をひどく怖がる。


 瞬間移動の魔法陣を使用する時に、時の番神アティユトートの領域に取り込まれ、召喚されることで移動を完了する。


 もしも、亡霊ゴーストが憑依という中途半端に融合しかけている状態になったまま、憑依している空間転移者と一緒に、瞬間移動の魔法陣を使用したらどうなるか?


 空間転移者の情報と亡霊ゴーストの情報がただ重複している状態は、まだ空間転移者の人格と亡霊ゴーストの生前からの性格や記憶の結合されていないので、空間転移者の情報と亡霊ゴーストの情報で分けられる。

 空間転移者は強いプラーナの元となるクンダリーニを秘めているために、力の弱い残留プラーナの亡霊ゴーストが代償として大いなる混沌カオスとして回収されてしまう。

 

 人間の吐き出す息は、拡散され大気に混ざり合ってしまうけれど、呼吸をしている人間の肉体は拡散されて霧消したりしない。

 憑依している状態でも軽度の状態であれば、瞬間移動の魔法陣を使用することで、時の番神アティユトートによって、亡霊ゴーストを祓うことが結果的には可能ということになる。


 ところが憑依が進行した重度の状態であれば、人間と亡霊ゴーストの情報が一つの情報として統合されていて、時の番神アティユトートの検閲に感知されずに、空間転移者の肉体にあるチャクラから、わずかにプラーナをちょっぴり回収されるだけで祓われることはない。


 ゲームをプレイする時、操作されているゲームキャラクターとプレイヤーは、同じ時間を共有して、統合されて一つになっている。

 プレイヤーの人間には心や意識が強くある。ゲームキャラクターとして操作されているアバターには、アバターとして心や意識は存在せず、ゲームのセーブデータに元にして、ゲームの世界へ召喚され、ゲームのプレイが終了すると、その世界と一緒に消失する。


 生きている人間と、残留プラーナの亡霊ゴーストには、ゲームプレイヤーと、ゲームプレイ用キャラクターのアバターのような関係性がある。


 憑依というのは、ゲームプレイヤーのほうが、ゲームの世界を想像してそのゲームキャラクターの特徴に感化されてしまい、コスプレしたりしてなりきっているような軽度のものから、現実の世界は偽物で、ゲームの世界のほうがリアルだと感じて、生きている自分はゲームキャラクターだと思い込んでいる重度の妄想にとらわれている重度なものまである。


 マニプーラワールドオンラインには、魅力はあっても、それはゲームの定番の世界観やキャラクターの魅力である。

 その原型ともいえる聖戦シャングリ・ラには、どこかリアルなところをプレイすれば想像させる魅力があった。


 不完全なホムンクルスとして生成中の魔導人形ソーサリー・ドールは、ノンプレイヤーキャラクター(N P C )として、アバターとしてはゲーム世界に登場しているが、操作されるプレイヤーの心やプログラムされた役割をまだ与えられていない。

 まだ人格が形成されておらず、まるで生まれてくる前の胎児のごとく眠り続けている。


 マルティナは、まだ不完全の生成中の魔導人形ソーサリー・ドールなどではない。


 まだ名前がなかった幼児の姿で、古都ハユウの研究区画から脱走して、少年ゲールの前に裸足であらわれた時、前世の因果の関係性に従って導かれるように、生きるための運命を選択している。


 完全に前世の記憶があって、自らの強い信念で行動していたわけではない。

 本能というほど単純ではないけれど、路地裏でしゃがみこんで、もう歩けないほど疲れ果てた状態で、前世では聖人ファウストであった少年ゲールの呼びかけに顔を上げた時、微笑みを浮かべた。


 声をかけたのが少年ゲールではなく、逃亡した実験体を探している研究区画の神官たちであれば、顔を上げても、虚ろな目でぼんやりとながめるだけで、微笑みを浮かべたりはしなかっただろう。


 前世からの人との関係性を宿業カルマといって、まるで今世に不幸になっている原因のように怖がる人もいる。

 

 ホムンクルスの実験体の幼女は、未完成の自分の存在を一人の人間としてくれる運命の相手を見つけて、心に感動が走り、なつかしさすら感じ、さびしさの心の痛みが安心感に変わったからこそ、微笑みを浮かべた。


 幻術師ゲールの初恋は、この純真な微笑みを見てしまった瞬間だった。


 マニプーラワールドオンラインのプレイヤーたちが、自分の大切な人と出会うことができて恋に落ちた時、そして気持ちが通じあったと感じる瞬間に、ホムンクルスの実験体の幼女が浮かべたのと同じような表情を浮かべるだろう。


 前世から引き継いでいる性格や行動パターンを今世でも再現したかのように、人生を生きるしかない者たちは、プログラム=宿業カルマに忠実に従うノンプレイヤーキャラクター(N P C)のようなものといえる。


 ただし、ホムンクルスの実験体の目覚めた幼女のように裸足のままで、自らの運命を悩むことなく、苦しくても、悲しくても、ふらふらになるほど疲れ果てたとしても、一緒に宿業カルマを脱却することができる運命の人と出会う瞬間まで、ひたすら歩き続けている時には、すでに、前世ではない新たな人生の変化が始まっている。


 人は人生を、いつだって、何度でも変化させ続けていくことができる。

 人生が変わっていくことは、とても怖いと思う人もいるかもしれない。


 しかし、運命の恋というものは、人の人生に深く関わる心の変化をもたらすものである。




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