第396話
妊娠五ヶ月目で、定期健診に行ったら産婦人科に行った。
見るからに髪を染め、化粧をしているけれど、中学生かもと思えるカップルが受付に並んでいた。
(誰か家族のつき添いかしら、ご両親はいないのかしら……もしかして)
なんとなく目で、二人をちらちらと追ってしまう。
女の子はひどく青ざめていてた。
あまりじろじろ見られて、緊張しているのかもと思い、それ以上は、できるだけ見ないように意識した。
採血で血管がなかなか浮き出ずに、腕を温めて待っている時に、隣の診察室から、あの若いカップルと医師が話している声が聞こえてきた。
►►►
「ありがとう、よくがんばったわね」
オレも今回はがんばったと思う。
南雲ねーちゃんは、オレのかーちゃんの妹で、一年前から、この総合病院に勤務している。
本当にオレの彼女の
オレは生理痛がどれだけキツいのかわからないけど、がんばってるのは有里の方がオレの百万倍はがんばっている気がする。
►►►
ヨースケにも彼女ができるとは思ってたけど、中学生で私のところに診察に彼女を連れて来るとは思わなかった。
(姉さん、ヨースケはいい男に育ってますよ。姉さんそっくりの顔で女の子みたいだけど、やるときはやる子です!)
ヨースケの彼女の有里ちゃんは、ヨースケと同じ、父子家庭の女の子。
生理がひどく重くて、生理の日は学校に行けなくて休んでいた。
ヨースケと有里ちゃんは、別の学区の中学校に通っているけど、ゲーム仲間でつきあうことになったそうだ。
有里ちゃんは、パパさんに生理がひどく重くて学校に行かないのを、時々、学校をさぼっていると誤解されていた。
母親がいれば、相談できていたかもしれないけど。
「毎月、こんなにキツいもんなのか、オレ、わからねぇから、なんか病気なのかもと思って。南雲ねーちゃんなら、わかるんじゃないかと思ってさ」
彼女は話すのもしんどいらしくて、私との受け答えは、ヨースケがしている。
「有里ちゃん一人で病院に行かせるのも心配だったから、平日だけど、オレ、ついてきたんだ」
「
「うん、オヤジは学校をサボるのは、仕事をさぼるみたいなもんで癖になるからって、うるさいから。有里ちゃんのパパさんもそんな感じみたいなんだ」
「有里ちゃん、このメモをお父様に渡して。この病院か、私のところに連絡を下さいって言えばいいから」
「はい、すいません」
私はちょっと内心では緊張しながら、ヨースケと有里ちゃんに聞いておかなければならないことを質問した。
「このあと、しっかり診察するけど、その前に……もう、あなたたちは性交渉したの?」
してませんと、この質問には二人でキッパリと、手を握り合ったまま答えてくれた。
(ヨースケが彼女を妊娠させたとか、有里ちゃんが父親に虐待されて妊娠したとかってことかと思っちゃったのは、姉さん許してね。この仕事していると、そういう子と会うこともあるから)
「有里ちゃん、ヨースケを頼ってくれてありがとう。でも、本当に困った時は、大人の私に連絡してね」
►►►
「うーん、ヨースケが女の子だったら、うちもそんな感じになったかもな」
「愛美、学校の保健室の先生とか、そういう生徒の相談の対応をするんじゃないのか?」
「姉さんが教員だった頃から、あんまり生徒の家庭の事情に踏み込まない感じになってきてた気がするけど」
これが、いわゆるジェネレーションギャップってやつか。
ヨースケの母親にするつもりで、愛美と交際しているわけじゃないけど、男だけで子育ては、出勤日が少ないリモートワークの勤務でも、ちょっと難しいと感じてしまった。
有里ちゃんの父親は、毎日通勤しているそうだ。
「信助さん、でも、あんまり、有里ちゃんを家に呼んだりしちゃダメよ」
「だって、女の子が一人で留守番してるんだろう?」
「それぞれ、家庭の事情があるんだし、中学生のうちから一人暮らしみたいな生活に慣れさせようっていう考え方みたいだから」
「そっか……でも、ヨースケの誕生日とか、たまにキャンプとか……」
「ねぇ、そんなに、ヨースケがちびっ子の時みたいにかまってくれないのが、さびしいの?」
「そんなことはないぞ、それに今夜だって愛美がかまってくれてるじゃないか」
愛美の一人暮らしの部屋に通いすぎなのは、自分でもわかってるんだけどな。
►►►
ヨースケの父親の岸信助と南雲愛美が交際していることに気づいたのは、息子のヨースケよりも、三島有里のほうが先だった。
「ヨースケくん、お母さん欲しいと思うことある?」
「ん~、よくわからないけど、いたらいたらで、めんどくさそうだけどな」
ヨースケは同級生から、あれしろ、これはダメと母親がうるさいという話を聞くことが、たまにあるらしい。
(日曜日に南雲先生とヨースケくんのパパが仲良しで、一緒に手をつないで映画館から出てきたのを、たまたま見かけちゃったんだけど。あー、ヨースケくんに話したら、ヨースケくんは「南雲ねーちゃん」が大好きすぎだから、ショック受けちゃうかなぁ)
++++++++++++++
お読みくださりありがとうございます。
「面白かった」
「続きが気になる」
「更新頑張れ!」
と思っていただけましたら、★をつけて評価いただけると励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます