第379話

 聖騎士ミレイユたちがバーデルの都に乗り込むと言っていたので、わらわは止めるように説得した。


 ストラウク伯爵領にマキシミリアンたちが来ていると、ロンダールはエリザに話していた。


 赤錆び銀貨がターレン王国で発生しているということは、大陸各地で発生している可能性がある。


 マキシミリアンにも知らせて、対策を行う必要があるとわらわが聖騎士ミレイユと参謀官マルティナに言うと、二人で同時に「たしかに」と返事をした。


「あたいは、どっちでもいいけど。バーデルの都はちょっと苦手なんだよね。あそこに行くと、ひどい頭痛がするから」


 アルテリスが、バイコーンをバーデルの都へ連れて行って、レルンブラエの街でやったことをすれば何か起きていても祓えるはず。

 わらわからすれば、アルテリスだけバーデルの都に行けばいいとも思う。


 リーフェンシュタールを幌馬車の御者にして、エリザとわらわは、マキシミリアンに会いに行く。

 アルテリスはターレン王国に置き去りにして、エリザと二人で……とはいかないらしいようじゃ。


「おい、猫、ちょっと、何か今、たくらんでなかった?」


 アルテリスはわらわにそう言ってから「あたいはエリザについて行くけどね」とニヤリと笑って言った。


 エリザの目的は、エルフの王国に行くことで、ターレン王国の問題に巻き込まれて、解決することが目的ではない。

 ターレン王国の問題は、この国の者たちが自分たちで対処すればよい。


 エリザとわらわは部外者なのじゃ。


 水不足の問題も他の地域には水が湧いておるのだから、移り住めばいいと、何度わらわは言いそうになったことか。


(エリザは優しすぎるのじゃ。そういうところも、まあ、嫌いじゃないけども)


 マキシミリアンたちが滞在しているストラウク伯爵領に、全員で向かうことで話は落ち着いた。


 わらわはマキシミリアンたちが、マルティナに会うつもりで、ストラウク伯爵領から出ていて、すれ違いにならならないかは、少し心配している。


「わらわたちはロンダールのところで待っていて、ミレイユやリーフェンシュタールに、ここにいると伝えてもらえば、セレスティーヌあたりが迎えに来るかもしれぬ」

「マキシミリアンさんたちは、何でわざわざターレン王国に来たんでしょう?」

「ロンダールによれば、マルティナの体の調子が心配とか言っておったが」

「そうだとすると、マルティナさんとマキシミリアンさんたちが会ったら、用事が済んで、私たちは後回しにされたりされそうです」


 エリザはマキシミリアンたちとすれ違いになったら「しかたないので、ターレン王国から出るしかないかも。アルテリスさんもついて来てくれるって言ってますから」とわらわに言った。


 わらわは、エルフの王国や女神の化身の転生者にも興味はない。

 エリザが帝都を出て旅をするのが心配でついてきただけなのじゃ。

 神聖教団のアゼルローゼやアデラも、わらわたちに人間に戻されたのが不満で嫌がらせしてくる心配もあった。


 帝都にエリザを一人にして置いておくなら、わらわが守るためにクフサールに連れて帰るつもりだった。


 この旅は、わらわが思っていたよりもいろいろなことがある。退屈はしない。


 それに、無事に大神官リィーレリア様も生まれ変わって来られていることも確認できたのはうれしかった。


 エリザも王宮暮らしでは知らなかったことや、村人たちの暮らしぶりを見て、ずいぶんしっかりしてきた気がする。


 エルフェン帝国の会議のメンバー召集の知らせを、セレスティーヌが果物を献上して誘いに来た時、エリザではなく、トービスだったら、わらわは参加しなかった。


 エリザの噂を聞いて、こっそり帝都の王宮へ忍び込んでいたことは、おそらくエルネスティーヌと白い梟のホー以外には、女神ノクティス様にしかバレていないはず。


「シン・リー様、赤錆び銀貨についてどのようなお考えがあるのか、お聞かせ願えませんか?」


 エリザがアルテリスや神聖騎士団の戦乙女たちが、夕食の準備をしている間にマルティナが幌馬車に訪ねてきた。


「過去に貨幣が錆びたという話をわらわも聞いたことはない。ダンジョンにマキシミリアンが魔獣モドキが召喚されないようにした事が、何か関係あるのかもしれぬ」


 わらわはマルティナに、今まで大陸にあるダンジョンで、どれだけの人数の者たちが命を落として吸収されてきたのかを想像してみたことがあるか、と質問してみた。


「わらわが大神官の地位を継いだ時代よりもずっと昔から、ダンジョンはすでにあったのじゃよ」


 その回収されてきた命の力は、硬貨になったり、魔獣モドキになって召喚を繰り返してきた。


「マルティナの体に宿っておる魔力も、元はダンジョンの犠牲者の命であったのかもしれぬ」

「はい。以前、ミミックさんから調べてもらって、私の体には魔石が融合しているとのことでした」

「わらわが思うのは、ダンジョンに取り込まれた者の命の力のごく一部が硬貨や魔石となったり、魔獣モドキの召喚に使われていたけれど、その命の力はもっと膨大な力として蓄えられて眠っているのではないかということじゃよ。人間が一人あたり、どれだけの命の力が宿っているものかは、個人差があるとは思う」


 どこに命の力が蓄えられていて、人間が生まれてくる時に個人差はあれ、肉体にどうやって宿るものなのか?

 それは、わらわにもわからない。


 そう考えるとわかりやすいというだけで、本当はもっと命というものは複雑なものかもしれない。


「硬貨を錆させないようにしていたのはロンダールは、硬貨に魔力が宿っていたからだと話していたのだな?」

「ロンダール伯爵の見立てによれば、確証はないけれど、そう考えているとのことでした」

「わらわは宿っていたのではなく、硬貨が人やあちこちからダンジョンが障気を集めるように、力を継続的にちびちびとわからないように吸収していたから錆びなかったと考えておる。しかし、硬貨を通じて、蓄積された力を人間たちが引き出し始めたとしたら、硬貨が錆びないようにしていた力も使われて維持できなくなったから、錆びたのではないか?」




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