第377話
フェルベーク伯爵領に赤錆び銀貨が入ってきたのは、ブラウエル伯爵領の娼婦から商人ザバスが買い取り、元老院の四卿に売りつけたからである。
商人ザバスが、闘技場で
商人ザバスがバーデルの都で羽振りのいい貴族、奴隷商人、闇市の商人へ売ろうとしていたらどうなっていたか?
商人ザバスは、フェルベーク伯爵領に立ち寄らないので、養女にした少女と出会えていなかったはずだ。
バーデルの都で赤錆び銀貨を売りつけようとして、執政官ギレスの部下たちに捕らえられていたにちがいない。
フェルベーク伯爵領の四卿に、赤錆び銀貨は、彼らの理想の美少年や美青年の夢をみせた。
恋愛という思想が流行する土台は、四卿が理想の美少年や美青年について、議員を集めて語り合い始めたことから始まった。
ザルレーとヴァリアンが恋愛について語ったことや、テスティーノ伯爵と二人が交流を持ったことから、弟子たちが他の伯爵領の考え方をザルレーやヴァリアンから聞きたがるようになった。
弟子たちの中にエウリテスという青年がいて、詩人にしてターレン王国初の劇作家となった。
赤錆び銀貨でみた夢から、エウリテスは脚本を作り、役者を集めて、演劇を始めた。
ブラウエル伯爵とヨハンネスの恋物語は、フェルベーク伯爵領のルゥラの都では演劇が公演されるほどに人気が出た。
野外劇場のアイデアは、エリザが発案したもので、演劇ブームが闘技場の賭け試合ブームを衰退させた。
エリザが帝都の宮殿の庭園の一部を解放してそこで、歌や演奏を披露してもらったら楽しそうとロンダール伯爵に語っていたからである。
テスティーノ伯爵と獣人娘アルテリスの恋愛劇が上演されると、これも大人気となる。
アルテリスが本当は男性ではなく、男装の麗人であり、それでもテスティーノ伯爵をモデルにした貴族の紳士が秘密を知っても、彼女に恋を告白するという内容であった。
「ねぇ、伯爵様、あたいはそんなに男っぽい?」
鑑賞会に招待されたアルテリスが、赤毛の
フェルベーク伯爵領の女性と他の伯爵領との女性に対する落差が大きく、女性も男性と同じ人間として認めようという考えが、この演劇ブームから広まった。
ザルレー・ヴァリアン伯爵領で、
詩人エウリテスは奴婢の村から、歌声の美しい少女を見つけて、演技を指導して女優として育て上げ、のちに、ザルレー・ヴァリアン伯爵領で初めての夫婦となった。
この時はまだ女性に名前を授けるという制度が成立しておらず、歴史書には詩人エウリテス婦人と記載されているのみであった。
女性たちにも名前が与えられるようになった。
商人ザバスが養女にした少女にメリルと名前を授けたように、扶養する大人が養女にするときに名前を授けることに、ザルレーとヴァリアンは、弟子のエウリテスの娘が生まれた時に、元老院から女性にも名前を授けることを公布した。
赤錆び銀貨と魔導書の影響を最も受けたのは、この伯爵領の女性たちだろう。
赤錆び銀貨を商人ザバスが一度だけ使用した時、闘技場の殺し合いなんてもううんざりだという気持ちが強くあった。
その願望が叶えられるまでに、詩人エウリテスの娘が生まれるまでの六年間ほどかかったことになる。
ターレン王国の一つの伯爵領で、演劇という文化と一緒に、異性との恋愛という思想が生まれ、闘技場で
聖戦シャングリ・ラというゲームに、プレイヤーがキャラクターたちを闘技場で戦わせるシステムがあった。
ダンジョンを冒険者が命がけで探索するシステムが、賢者マキシミリアンとミミック娘によって撤廃されたように、また一つ、ゲームのシステムからこの世界が
演劇で女性たちが
青年エウリテスは、テスティーノ伯爵とロンダール伯爵領に一緒に行った。
さらに、パルタの都まで、商人ザバスと少女メリルと一緒に旅をした。
ロンダール伯爵の伝言を完璧に暗記して、ザルレーとヴァリアンの相談を学者モンテサンドに伝えた人物である。
歴史書では語られていない多くの人物たちの活躍と関わりによって、世界は少しずつ
エリザが「僕の可愛い妹たち」のダンスを見て、にこにこと微笑しながら、演劇について語らなければ、野外劇場が建造されたり、詩人エウリテスはこの世界に存在しなかったかもしれない。
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