夢幻隠世編5
第370話
色白で、ほっぺたの柔らかそうな美肌男子のロンダール伯爵。
目元も優しげで、笑うと糸目になる。
たしか三十歳に近い設定だった気もするけれど、まるで高校生か大学生ぐらいにしか見えない。
若い雰囲気で、責任ある立場の伯爵様に見えないのは、損か得かはよくわからない。
このゲームでは賢者マキシミリアンさんもそうだけど、年齢よりかなり若く見える大人の紳士が多い気がする。
女性もアナベルさんみたいな、働く美人さんが多い気がする。
ドレチの村に、神聖騎士団のメンバーさんたちを連れて来たところです。
ロンダールさんは、前に占いをした時にはとっても悩んでいた雰囲気だったので、ちょっと心配になった。
「伯爵様は、とても元気ですよ」
アナベルさんは、ロンダール伯爵の秘書とか美人マネージャーさんみたいな雰囲気の人。
参謀官マルティナさんも、黒髪で小顔、綺麗な紫色のめずらしい瞳の色で眼鏡をかけている。
この二人が並んで話していると、まるで仕事のできる大人の美人さんが、仕事の話を楽しげにしているみたいな感じの、華やかな雰囲気がある。
(私がまざっても、私だけ研修中の新人社員っぽい雰囲気に見えそうです)
「エリザ、どうした?」
アルテリスさんは、悪戯好きの男の子みたいな笑いかたをする。
スタイルは抜群で、すらりとして、立派なお胸を持っていて、大人っぽい。
「……なんでもないです」
「ふーん、ならいーけどさ」
思わずため息が出てしまいます。
見た目が若く見られるのと、いつまでも子供扱いされるのでは、大違いなのです。
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眉目秀麗、可憐な雰囲気の美少女のエリザに、神聖騎士団のメンバーたちは、どんな距離感で接していいのか、少し困っていた。
エリザは騎士団長ミレイユと同じエルフの王国の出身で、そのあとは帝都の王宮暮らしの聖女様と参謀官マルティナから聞かされている。
年齢は十九歳と聞いても、嘘だと思わず言いたくなる。
神聖騎士団にも、双子で子供っぽい見た目に見えるシロエとクロエという獣人族の隊長がいる。
その二人より
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青年ニルスと乙女エイミは、任務がない時は、ドレチの村の村長のような役割をしている。
神聖騎士団だけで十一人、エリザ、アルテリス、見た目は黒猫だけれど、話せば、しっかり一人の大人の女性のシン・リーと十四人が滞在することになった。
「泊まる家がなければ野営するから、気づかいは無用です」
聖騎士ミレイユはあっさりと、青年ニルスと乙女エイミに言った。
「いやいやいや、野宿なんざ、お嬢様たちにさせられるかい!」
ドレチ村の職人たちは、とりわけエリザには、野宿させるわけにはいかないと思う。
ただエリザだけ特別扱いにすると、気を使わせてしまって、結局はみんなと同じがいいですと言い出すだろう。
何回もドレチの村にエリザが訪れているので、村人たちは彼女の性格を察している。
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ロンダール伯爵の伴侶のアナベルが、エリザに「伯爵様はとても元気です」と言った理由は、呪術師シャンリーの襲撃の件が、踊り子アルバータのおかげで決着がついたからだった。
神聖騎士団の団長ミレイユ――美しく艶やかな金髪と
そのミレイユの英雄の証である剣ノクティス。
以前にエリザが滞在した時に、聖騎士ミレイユが神聖教団の聖騎士の試練というものに挑み、常識外れの戦闘力を持つ女神ノクティスに加護された人間になったことを、アナベルは聞いている。
(神聖騎士団……全員、怖いぐらいすごい術者たちですね)
獣人娘アルテリスや大神官シン・リーと初対面の時もアナベルは驚かされた。
エリザから話だけは聞いていた噂の聖騎士ミレイユと、実際にアナベルは会って話してみた。
この世界には強い魔力を持つ人たちが自分たち以外にも、まだまだいるものだとアナベルは感動すら感じた。
この世界は想像するよりも広く、まだまだ可能性を秘めている、と。
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もしもエリザが小鳥なら、獣人娘アルテリスは獅子、騎士団長ミレイユは大鷹のようなものだろうか?
参謀官マルティナは、マーオ小屋を見物して、ダンジョンのモンスター娘たちのことを思い出した。
遥か遠い過去の時代には、人間の姿に似た種族以外にも、バイコーンやマーオのような種族が一緒に共存していたのではないか?
その種族のなかには、スライム娘のように人間になりたいと願う種族もいたのかもしれないと。
マルティナはニアキス丘陵のマキシミリアンの暮らすダンジョンに訪れ、自分の身体をミミック娘に調べてもらったことがある。
「ここはゲームの世界で、キャラクターという意味では、みんな同じなんです」
旅の途中でエリザが熱心に話してくれた言葉の意味は、マルティナにはよくわからないところも多い。
ただ、世界との関係からみれば「みんな同じ」という考え方に、少し気分が救われた気がしている。
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人間のなかにも、もっと力を持つ種族になりたいと願った者たちはいた。
それは自分が他人よりも劣っていると感じるのが怖い。劣っていれば受け入れられず、排斥されるという思い込みから抜け出せなくなった者たちである。
魔導書は、その願いを叶えたように見せかけることがある。
それはなぜか?
どれたけ特別な力を与えたとしても、全ての存在は、最終的には、大いなる
ドレチの村の人たちは、人間を越えた存在になりたいとは考えたりはしない。
単純な話だ。
どうやって生きていくかだけを考えていた。
そのうちに、自分が他人にも快適に生きる方法を見つけたら、道具にして伝えたくなったのである。
それは職人気質というもので、人間とドワーフ族、どちらにも同じ気持ちが生まれた。
生まれた時代や種族のちがいを越えて同じ情熱が職人たちにはある。
細工師ロエルが、ロンダール伯爵領のドレチの村に訪れた時、ドワーフ族の心の故郷のような大洞窟にいるのと同じような気分を感じることができるだろう。
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エリザは、大人っぽい見た目のカッコいい感じに見える女性たちに、ちょっと憧れがちである。
しかし、この村を訪れた誰よりも、世界中の人の生き方や考え方を幸せになるように変えられる可能性がまだまだあると強く信じているのがエリザなのだ。
(それは、英雄の証を手にしているミレイユよりも情熱的で、素敵な気持ちなのだから、もっと自信を持ってもいい)
シン・リーは、爽やかなそよ風が吹くドレチの村を、エリザの足元で優雅にしっぽを揺らして歩きながら、エリザを見上げて、そう思っている。
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金子みすゞの詩「私と小鳥とすずと」をこれを書いて思い出した。
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速く走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
お読みくださりありがとうございます。
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