第361話

 エリザと参謀官マルティナが、歴史についての知識が同じぐらいあることに、聖騎士ミレイユや獣人娘アルテリスは驚いていた。


 マルティナは神聖教団の古都ハユウで学んでいるのだが、エリザの知識はゲームのエピソードの内容であって、正確には歴史の知識ではない。


 シン・リーは、この世界はゲームの世界で……という話をエリザから旅の途中で、部屋代わりの幌馬車の荷台で何度も聞かされている。

 エリザは神話の時代から、リィーレリア様と獣人娘アルテリスが旅していた時代、ヴァルハザードが生きていて神聖教団の幹部たちがヴァンピールとなった千年王朝の時代、その後の混乱期や暗黒時代があったことや、十二の王国が中原で囲んでいた時代、このターレン王国の歴史まで、長く生きてきたシン・リーよりも、かなり幅広い知識がある。

 それは、まるで、エリザがその時代に生きていた者としてその時代のその場所に行って、他人に生まれ変わって見てきたかのように、シン・リーに語ることがあった。


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 神聖騎士団の戦乙女たちや、参謀官マルティナの前世について。


 エリザは、エルフェン帝国の元となったエルフェン王国として統一された十二の王国の重要人物たちが、現在は生まれ変わってきて、神聖騎士団のメンバーとなり、それぞれの運命に導かれて集まっていることを理解している。


 エルフ族の女王の一族は、現在はセレスティーヌとエルネスティーヌの姉妹の二人になってしまっているが、セレスティーヌがマキシミリアンとクリトリフという青年たちと一緒に、エルフの王国と大樹海を出て大陸の各地を旅をした時代には、サティーヌというセレスティーヌやエルネスティーヌの母親のような女王が存在していた。

 サティーヌ、セレスティーヌ、エルネスティーヌ。この三人のエルフの美しい姫たちのうち、年長者になっている者が、エルフ族の女王となっていた。

 

 サティーヌは、現在のエルフの女王なのか?

 彼女はエルフ族の女王ではなくなったといえる。

 サティーヌという人物はもう存在していない。


 聖騎士ミレイユの前世を、預言者ヘレーネが透視することがあれば、ミレイユの前世が、エルフ族の三貴姫さんきひのサティーヌであることを知ることになるだろう。


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 シン・リーは、預言者ヘレーネのように、他人の前世を感応力で透視する力は持っていない。


 預言者ヘレーネでも、聖女エリザの前世については透視することができなかった、


 エリザは、エルフ族の女王だったサティーヌ、乙女だったセレスティーヌ、少女だったエルネスティーヌがまだエルフの王国に存在していて、獣人族の少女ポメラが青年マキシミリアンと解毒薬を作り、エルネスティーヌの命を助けたエピソードを知っている。

 そのエピソードのあとで、セレスティーヌが青年マキシミリアンとクリトリフと一緒にエルフの王国を離れたことや、獣人族のポメラがエルフの王国で保護されて成長し、大陸の北方へ旅立ったことを、エリザは帝都の王宮で二人のお茶会の時間に、エルネスティーヌから聞き出している。



(エリザはまるで、夢を守護する女神ノクティス様のようじゃ。しかし、女神ノクティス様は、ミレイユの神剣となられてミレイユを守護しておられる)


 火を崇拝するバモス神殿で語り継がれていた恋愛の女神ノクティス。

 この女神ノクティスの神話によれば、人の夢から情報収集できる女神として、浮気を迅速に察知する高い直感力を、恋する女性たちに授けるという。

 女神ノクティスが、嫉妬の女神とも呼ばれるのはそのためである。


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 聖騎士ミレイユが、女神ノクティスの夢幻の隠世にある館で治療を受けて、女神ノクティスの伴侶として選ばれた。女神ノクティスから魔力の供給を受ける英雄の運命を授かり、その証の剣を携えて神聖教団の本部である古都ハユウに生還した。


 前世では、エルフの三貴姫の一人サティーヌであったミレイユが、女神ノクティスから供給されるプラーナを授かることで、人間の男性と交わることがあっても、プラーナの力の差がありすぎて子を宿すことができず、しかし、老化が止まってしまったようにいつまでも若々しい美貌や身体能力を維持できるという魔族以上の肉体の変化を英雄として授かっている。


 人間の女性として男性と交わり子を身に宿すことができなくなったのを、とても怖い呪いと受け取ることはミレイユにはなかった。

 この世界では、エルフ族の男性はすでに滅びてしまって、エルフ族は女性しか存在せず、エルフの王国のエルフたちの恋愛とは、同性のエルフ同士のものとなっている。


 三貴姫の一人であるセレスティーヌが、人間の男性である賢者マキシミリアンとの間に、ミレイユという一人娘を授かり出産できたのは、賢者マキシミリアンが人間離れした強いプラーナを秘めた肉体の持ち主だったことによる。


▶▶▶


 密偵ソラナは、ゴーディエ男爵がプラーナとチャクラを整える修行をストラウク伯爵について行っている間、その修行を妨げないように気づかい、賢者マキシミリアンやセレスティーヌと語り合ったり、ストラウク伯爵の伴侶のおさな妻で山の巫女の修行中の村娘マリカと一緒に、料理や家事をして暮らしていた。


 ゴーディエ男爵との子を授かる可能性は、ソラナが人間に戻っても、戻らなかったとしても、ゴーディエ男爵が血の渇望に我を失いかけるほどプラーナやチャクラが荒れている状態では、バランスの悪さから不可能だとセレスティーヌから教えられた。


 たとえヴァンピールの踊り子アルバータや、他にゴーディエ男爵が人間の女性と交わることがあっても、子を授かることはない。

 それはソラナも同じことだった。

 ソラナは、ゴーディエ男爵との間に子を授かって育てたいと望んでいる。

 自分が本当に血を分けた両親の顔や声すら思い出せない。任務の遂行の生きた道具になれなければ 生きる価値はないと言われて、修行の日々を過ごしてきた分だけ、自分の子にはそうした苦労はさせずに育てたいと思っている。


 ソラナとは別のブラウエル伯爵で、魔族サキュバスとなっている貴婦人ジャクリーヌがいる。

 彼女は、伴侶のロイドとそっくりな男の子を授かりたいとたまに思い浮かべているし、ロイドにどんな子供だったのか思い出はないかと聞き出すこともある。

 ジャクリーヌはロンダール伯爵から、呪物のオスのリングとメスの指輪で気がうまく混ざり融合すれば、二人の愛しあった証である子を授かる可能性があると聞いていた。

 

 踊り子アルバータは、ゴーディエ男爵と二人っきりて仲良くなって、子を授かるかはわからないけれど夢中で名前を呼んで抱きしめたい、抱きしめられたいという思いが、ふと心を切なくさせるのを感じながら、一人旅を続けている。




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