夢幻隠世編4
第360話
神聖教団の歴史学によれば、千年王朝の皇子ルルドが十五歳になるまでの、後見人として王妃ルォリーファが女帝として期間限定で女帝として君臨し、大陸北方の太守の二十歳の青年ヴァルハザードが宰相として任ぜられた年を紀元元年としている。
千年王朝が、太守エンユウの企てた反ヴァルハザード連合の軍勢により都を占拠され、皇子ルルドの死によって滅亡したのが、紀元十一年である。
大陸南方の大砂漠。サンドワームによって砂の侵食が進んで、大神官シン・リーが後継者として、火の神を信仰するアモス神殿の地にて、リィーレリアの転生を待つことになったのは、千年王朝成立よりもさらに五百年前の、紀元前一千四十年前後と考えられる。
砂漠化の進行の状況と、豪族たちが
それはヴァルハザードの先祖たちの豪族の時代といえる。
ヴァルハザードが王朝の宰相となった時、女帝ルォリーファは十八代目の皇帝である。紀元前五百四十年から、紀元十一年の間、大陸の中原に千年王朝は、およそ五百五十年ほど続いた。
千年続くようにと願い千年王朝と名づけられたが、内部分裂によって千年はさすがに維持されなかった。
紀元十一年から、反ヴァルハザード連合が瓦解して、それぞれの太守らが我こそが中原の覇者とならんと旗揚げして、全ての独立国の君主の子孫の血統が滅び去るまでに、三百年ほどの混乱期があった。この三百年間のどこかで、戦乱を逃れる難民を連れた英雄ゼルキス――レアンドロ王、賢者マキシミリアン、聖騎士ミレイユの先祖が、中原を離れ大陸の西域に渡っている。
混乱期のあと、大陸の中原は国として統治されずに、村人たちが小さな農場を耕作していただけの暗黒時代がさらに三百年ほど続いている。
その間に大陸の西域では、小国ゼルキス王国とターレン王国が建国されて、大陸の中原とは別に発展していた。
大河バールの東側にはシャーアンの都を王都とする大国が成立していた。
英雄ゼルキスの恋人でありライバルだった海賊の女王コーネリアの子孫たちの大国である。
また、大陸の北方の荒れ地から南下した平原地帯には、十二の王国が大樹海を囲むようにあった。
そのいくつかは戦で滅び、いくつかは合併して、エルフの王国の同盟国として大河バールの西側の中原のエルフェンという大国となった。
十ニの王国が統一され、さらに東の大国シャーアンと、シャーアンと交易していた大陸南方のクフサールの大同盟が、神聖教団の主導の元にエルフの王国を盟主とすることで成立して、エルフェン帝国が樹立したという歴史がある。
聖騎士ミレイユが誕生したり、エリザが世界樹の洞から六歳の容姿で現れたのは、エルフェン帝国樹立後から、ニ百年以上が経過してからである。
神聖教団の歴史学では、現在は紀元849年ということになっている。
大神官シン・リーは何歳なのか?
参謀官マルティナとエリザが数日間、歴史学の知識をふまえて考察してみた結果、1900歳以上ということに話が落ち着いた。
さらに参謀官マルティナとエリザは、英雄ゼルキスは、大陸の西域へ紀元何年に渡って来たのか考察してみた。
モルガン男爵の日記の記述から、ランベール王が十四代目国王であることが参謀官マルティナは知った。
ターレン王国の国王の治世が平均一代あたり三十年だとして計算すると、ターレン王国には、約420年の歴史があることがわかる。
現在が紀元849年であり、大陸の中原の暗黒時代が三百年が経過して、エルフェン帝国が樹立後、二百年以上が経過している。
ターレン王国が建国されたのは紀元429年あたりと考察できる。
紀元元年から混乱期であった三百年と
暗黒時代の三百年で約六百年のあと、さらに約ニ百年が経過している。
ターレン王国の歴史が、420年間であるなら、中原の暗黒時代の後期あたりに建国されたことになる。
しかし、英雄ゼルキスが大陸の西域へ難民を連れて渡ったのはレアンドロ王がゼルキス王国の十八代目の国王なので、ゼルキス王国の歴史は約540年前後である。
現在が紀元849年で、紀元309年前後にゼルキス王国が建国されたと考えられる。
暗黒時代とエルフェン帝国が樹立後を合わせれば約五百年。
英雄ゼルキスが西域へ来たのは、中原地帯の混乱期の終わりか、暗黒時代の始まりということだろう。
「ゼルキス王国が建国されてから、約百ニ十年後の紀元429年あたりにターレン王国が建国されたということですね」
「聖女様、ゼルキス王国の記録によるとゼルキス王国の三代目の国王ネクロス王の時代に、神聖教団の僧侶のファウストが、信者を引き連れ出奔した記録が残されています。ターレン王国を建国した初代国王の名前も、モルガン男爵の書斎にあった歴史書では、ファウストとなっていました。これが少し気になるところです」
ゼルキス王国を捨て、辺境地帯へ信者を連れて出て行ったファウストが、ターレン王国を建国するまでニ十年から三十年間ほど、どこかに潜伏していた。
「神聖教団の僧侶ファウストが、三代目国王ネクロス王の元から去ったのは何歳のころだったのかは、ゼルキス王国の歴史の記録でははっきりと記述されたものがありません」
ターレン王国を歴史書では、初代国王ファウストは、三十代半ばの若い男性だったと記載されていた。
「ターレン王国の歴史書の記述が正しいとすると、神聖教団から分派した信者たちは十代の少年のファウストと、ゼルキス王国を捨て、未開の土地へ旅立ち、やがて成長して三十代半ばになったファウストがターレン王国の初代国王となったということになります」
参謀官マルティナは、ゼルキス王国の神聖教団の信者たちから指導者と崇拝されて分派したファウストという人物と、建国したファウストという人物は別人なのではないかと想像していることを、エリザに語っている。
エリザは参謀官マルティナが、歴史上の人物をあれこれと想像して楽しんでいる、いわゆる歴女だとわかった。
彼女の想像する歴史上の人物たちは、かなり美化されているようにエリザには思える。
「もしも、ファウストという人が、ヨハンネスくんみたいに美少年だったら、マルティナさん、会ってみたいですか?」
「はい、もちろんです!」
マルティナが、にっこりと笑った。
ゲームのキャラクターである聖騎士ミレイユや参謀官マルティナは、会って話してみると、エリザの想像よりも、さらに上回る美人さんたちだった。
(リーフェンシュタールさんには、前世の記憶がありますから、ファウストという人物のことを知っているかもしれませんけど、マルティナさんには内緒にしておきましょう!)
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