第359話
邪神ナーガは、目の前の球形に見える惑星ほどの巨大な美しい
シャーアンの都や大陸がある世界に帰るには、目の前の巨大なプラーナのバリアの中に侵入する必要があると、ナーガはエルヴィスに言った。
「浮上しても、海の上で幽霊船になるだけ。それも、シャーアンの都の商人ギルドの掟のせいで、決まった海路でしか航海しないから、探索されてもせいぜい南の海への交易用の海路ぐらいだよね。いつまでも発見されない」
「……何を交渉すればいいんだ?」
愛と豊穣の女神ラーナの転生者は、生きたまま亡霊にならずに、魔獣の王の冥界へ引きずり込まれてやって来る。
邪神ナーガは、もともとランベールの心の脱け殻のような肉体に宿り、令嬢エステルの容姿に変身して、生きた肉体を手に入れている。
女神ノクティスの夢幻の隠世の深層らしき「マニプーラ」に、神の眷族であるから、ナーガも生きたまま侵入できると思われる。
この飛行帆船エルヴィス号には、海賊コーネリアの心が宿った勾玉を
「この体は海賊コーネリアの心に宿ってもらって、飛行帆船の勾玉にこの心が宿れば、マニプーラに侵入できるはずなんだけど、ちょっと協力してもらえないか、交渉してみてくれないか?」
(いいでしょう。条件として、今、乗船している者の全員を置き去りにしたり、自分だけ生還しようとしたら、交換した肉体を、私の心ごと殺します。船長は、エルヴィスから私が交代します)
エルヴィスが意味がわからないまま、コーネリアが条件つきで了承したようなので、神聖教団のお嬢に、そのまま伝えた。
(この体がコーネリアに殺されたら、きっと勾玉から引き出されて新世界に強制送還されるんだろうな)
「このまま、みんなで閉じ込められてここにいるわけにはいかない。交渉成立だ」
エルヴィスには閉じ込められている自覚がなかったけれど、ナーガには魔獣の王の肉体は獄炎槍で焼き尽くされて、残留プラーナだけにされ、ハイエルフの英雄に冥界へ閉じ込められた記憶がある。
肉体や命はあるけれど、エルヴィスたちは夢幻の隠世に閉じ込められている。
おそらく、ナーガが飛行帆船を守らなければ、ナーガ以外の全員は強力な「マニプーラ」の
肉体から、心がアストラル体として離れてしまうのか?
肉体だけ大いなる
女神ラーナの加護する世界で発生したことは、ナーガの新世界ではないので、起こりうるだろう。
(みんなの肉体が無くなったら、必ず新世界に召喚して生き返らせてやるからな!)
ナーガは自分で創り上げた世界でなら、全知全能の実力が発揮できる。
ナーガは、冥界もまた夢幻の隠世であると理解している。新世界で気に食わない人間を、触手のうにょうにょした魔獣を召喚して、アストラル体だけを冥界に引きずりこんでやることがある。
残った肉体は分解して新世界の素材に変換する。
塩やコショウにして売り捌いてやったこともある。
たとえば、ナーガの財布の革袋を盗んだ悪党の手首から先を粗塩にしてやった時は、傷口に塩がものすごくしみるらしく、大泣きしながら逃げて行った。
悪党が泣きながら、塩まみれの財布の小袋を反対側の手で拾って逃げた根性にはナーガも呆れて、一文無しになったけれど、追いかけて制裁する気が失せた。
(あのマニプーラの中は、ここからは海らしきものも見えるけど、どうなっているんだろう?)
海賊の女王コーネリアの心が、元ランベールの脱け殻の肉体に宿ったら、コーネリアの記憶している美女の姿に変身するのだろうか?
それとも、令嬢エステルの容姿のままなのか?
そこにナーガは興味を持っている。
大砂漠のクフサールの都の女王のように君臨する大神官シン・リーが、黒猫の姿やエリザと協力すれば美しいヴァルキリーの戦乙女の姿に
新世界でなら、ナーガも変身が可能で性別や顔立ちまで気分に合わせて変えることはできるし、他の人間の肉体も、それこそ塩にしたり、体型や身長も注文に合わせて整形することもやってみたことがある。
(見た目が変わっても、結局、心や考え方が変わらないと、生活習慣が変わらないし、あんまり人生の結果は変わらないんだよな)
ナーガは吟遊詩人ローマンと名乗って、自分の記憶を操作して、新世界の創造神であることを忘れて生活してみたこともあった。
これは、女神ラーナが転生して人間として生活してみていることをまねしてみた。
この試みは一年ほどで飽きてしまい、全知全能の実力を持ったまま、のんびり吟遊詩人のまま平凡な容姿で、旅暮らしをするところで、なんとなく落ち着いている。
(飛行帆船になってみるとか、自分の新世界じゃ思いつかなかった。やっぱり、たまに自分の新世界じゃないところに来るのも、いい退屈しのぎになる)
「お嬢、船長の椅子に腰を下ろして目をつぶって、静かに呼吸を整えたら、心が交換できるそうだ」
「うん、わかった!」
エルヴィスはまだ意味がわからないまま、困惑している。しかし、他に方法がなさそうなことは、なんとなく察しているのだった。
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