第357話

 ゴーディエとソラナが、ヴァンピールとサキュバスであることを、ストラウク伯爵たちに打ち明けた。

 自分たちでは、どうにもならないことだと認めたことは、大きな前進といえる。


 ストラウク伯爵は、ヴァンピールやサキュバスという話を聞いても「うむ、そういうこともあるか」とあっさり言った。


「ゴーディエ、ソラナ、マキシミリアン殿たちがゼルキス王国からわざわざ来られたのは、屋敷の湯にのんびりつかって、日ごろの疲れを癒しに来られただけじゃないのだよ」


 ストラウク伯爵は「こちらから問われる前に、心を開いて、二人の秘密を教えてくれてありがとう」と若いゴーディエとソラナに頭を下げた。


 ゴーディエが、ランベール王から吸血されたことがきっかけとなりヴァンピールとなったことを打ち明けると「なるほど」と賢者マキシミリアンはセレスティーヌと納得したようにうなずきあった。


 ランベール王の抜け殻のような眠る肉体は、ターレン王国から遠く離れた大陸北方の大山脈にある神聖教団の本部、古都ハユウに安置されてとむらわれていると、ゴーディエは聞いて呆然となった。


(なぜ、王がそのようなことになられたのか?)


 ヴァンピールであった神聖教団の幹部アゼルローゼとアデラが、人間に戻らされたのを賢者マキシミリアンとセレスティーヌは、エルフェン帝国の評議会の会議の場で目撃している。

 この場では、神聖教団の幹部の二人がヴァンピールであったことに、あえてふれずにエルフ族のセレスティーヌが質問した。


「お二人は、人間に戻りたいと思いますか?」


 ゴーディエは、自分の心をむしばむような血を求める渇望が怖いことを語った。人間に戻らなければ、他人の命を奪ってしまう、と。


「そうとも限らぬのではないか、ゴーディエ。ソラナは、そなたが吸血しても生きておるてはないか」


 ストラウク伯爵が、ソラナの顔をまっすぐ見つめて言った。


「私はゴーディエ男爵が人間に戻られるのなら、一緒に戻りたい。そうでなければ、サキュバスのままでもかまわないと思っております」


 ソラナは密偵として、自分の任務や時には色仕掛けで相手をたぶらかすことも秘密にしてきた。一つ秘密が増えたとて、何を今さらという気持ちもある。


「ゴーディエ男爵、長期間に渡って吸血が行われていたとしても、ヴァンピールとなるとは限らない。命を落とす者が多いと思う」


 賢者マキシミリアンは、神聖教団の幹部アゼルローゼとアデラが、千年王朝の時代から吸血して生き続けていても、ヴァンピールやサキュバスだらけになっていない事実をふまえて考えてみた。


「ランベール王は、私をふくめ五人をヴァンピールに変えて、同じ眷族だとおっしゃておりました」


 マキシミリアンは、ランベール王が心の無い抜け殻のようになった理由を、ストラウク伯爵領へ来る前にミミック娘に調査を依頼して来たことを、ゴーディエとソラナに話した。

 「とても難しい問題なのでしばらく眠ります」と、ミミック娘が答えたので、こうなると何年もミミック娘が宝箱から出て来ない可能性もあると、二人にマキシミリアンは肩をすくめた。


 人間以外のモンスター娘たちが存在する事実を、ゴーディエやソラナは知らなかった。


「王の性格がお変わりになられたのは、この血の渇望のせいかもしれないという気もしたのですが、それでも納得できないのです」


 ランベール王は法務官レギーネ、三人の寵妃アリアンヌ、ミリア、シュゼットから定期的に吸血していたので、血を求める渇望を我慢することはなかったはずなのである。我慢するほど渇望は強くなる。


(……踊り子アルバータとは、誰?)


 ソラナの胸の中へ、自分より前にゴーディエがヴァンピールにしたという女性に対する嫉妬の火種が落ちた。ゴーディエは、ヴァンピールの血への渇望が全ての人間を咬み殺してもかまわないとすら思う瞬間があることをストラウク伯爵たちに説明して、できればランベール王が眷族にした他の女性たちや踊り子アルバータもヴァンピールから人間に戻したいと語った。


「私たちが戻せるわけではないのですが、エルフェン帝国の聖女様と大神官シン・リー様なら、ゴーディエ男爵のお悩みに真摯に対応して下さるはずです」


 セレスティーヌはそう言って、この二人をエリザとシン・リー会わせるために、エルフの王国に向かったアルテリスをふくめた三人を探す必要があるとマキシミリアンに相談した。

 セレスティーヌは、妹のエルネスティーヌが飼っている白い梟に案内されて、エリザたちが大陸の中原あたりの旅の途中だと思っている。


 参謀官マルティナの体調の確認と、帝都から旅に出たエリザ探しをマキシミリアンとセレスティーヌで手分けして行うか、どちらかを優先するか、セレスティーヌにも迷うところなのだった。


 ゴーディエはソラナに、踊り子アルバータをヴァンピールにしたことで、痺れ薬で命を落としかけていたのを救助したことを話したことがなかった。すっかり話したことがあるものと、ゴーディエは思っている。


 エリザたちがターレン王国を訪れていて、神聖騎士団と一緒に行動していることを、ストラウク伯爵の屋敷にいる全員が予想できていない。


 しばらく、ゴーディエ男爵は王都トルネリカには戻らずに、体内のプラーナの流れを整える修行が必要だということで、ストラウク伯爵はゴーディエに、まだ滞在するように提案した。


 法務官レギーネや三人の寵妃たち、踊り子アルバータが人間に戻りたいと望むかどうか?


 人生を他人がどれだけ心配して提案や忠告しても、本人が心から望まなければ、他人の行動や習慣は変えられないものである。


 細工師ロエルは、マキシミリアンに聖騎士ミレイユたちは、王都トルネリカに大使と護衛として滞在しているのかと質問していた。


 

+++++++++++++++++


お読みくださりありがとうございます。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新頑張れ!」


と思っていただけましたら、★をつけて評価いただけると励みになります。

 

 




 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る