第355話
メリル。元奴隷商人で、現在は所持金で食いつないでいる中年男性の風来坊ザバスの養女になった少女がいる。
王都トルネリカで奴隷の少女や若い女性を呪術の生贄にして儀式を行っていた偽物の
この妖蛆の怪事件の時、バーデルの都へ、幻術師ゲールと一緒に、ロンダール伯爵が訪れていた。
バーデルの都の執政官ギレスは、この事件の直前に、ブラウエル伯爵領から貴婦人ジャクリーヌの使者として偽名を使い変装した元盗賊団の親分ロイドから、赤錆び銀貨を贈呈されていた。
バーデルの都で何が起きていたのか?
フェルベーク伯爵領で保護された身寄りのない名前のない一人の少女の運命をめぐって、この少女が偽物の治療師ヤザンの犠牲者になる展開か、自分も孤児で闘技場の奴隷闘士として育て上げる斡旋屋に拾われ生き残ったザバスと血はつながっていないけれど、親子となる展開になるかは、運命の分岐点だった。
女神ラーナの加護する世界は、人として生まれ変わったあと、一生を終えて、命が肉体から離れて残留プラーナとなったあと、どうなるのか審判されている世界と考えることもできる。
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健康で幸せに生きたいと望む人たちがいた。その中に、自分だけが幸せになりたいと考える
人間は群れで生活する習慣を、生き残るために身につけた。それは、太古の昔に単独行動をしていた人間は、
単独行動をしていた人間の焚き火のそばに、猫が寝そべり、人間や猫を補食しようとする敵が近づいて来たのを察知すると、背中を丸め
人間は猫から、協力して苦難に立ち向かう知恵を学んだ。
その知恵がなければ、人間は単独行動のまま弱肉強食の考えに従って、人間よりも獰猛な敵によって、絶滅していただろう。
群れとして生活する知恵がなければ、人間は、産まれた時に他の動物よりも脆弱すぎる生き物であった。
泣きじゃくることで、ひたすら救助を求めるしか生き残る手段がない。その成長までの脆弱すぎる期間が、他の動物よりも長期間なのである。
生き残るために、泣きじゃくることができるかということが、最初の試練としてある。
人間は、小さな利己主義者として産まれてくる運命を持っている。
加護者によって安全が補償されて成長する過程で安心することが少ないと、その不安から成長後も、泣きじゃくる以外の方法で、一時的な安心を求め続ける。
不安な状況にずっといるという意識から成長後もなかなか抜け出せない。
産まれた時には、誰でも孤独ではなく必ず、一人の人間がそばにいる。
孤独を怖いと感じるのは、単純に群れで生活する習慣からできた心の癖ではなく、幼少期の生きたいという人間が生まれつき持つ、切実な生存本能が関係している。
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獣人オークは夢幻の隠世から出現した種族で、群れで行動していたが、それは群れのリーダーのメスのオークが、次のリーダーとなるメスの子以外は空腹になると卵の中身や授乳期の子を補食してしまう肉食獣の獣人であることや、オスのオークは卵から出てきて短期間で成長して、肉食ではなく草食獣であり、その性質はとてもおとなしく、身の危険を感じない限り、その強靭な肉体で戦うことがないという、同じ猪頭の人型でもオスとメスでは別の生物のように肉体のつくりが異なる。
メスのオークが餓えないように、オスのオークは、果実をメスのオークに与え続け、発情期間は次のメスのオークのピンク色の卵を、リーダーのメスのオークが産み、成長後に群れを分けて巣分けするように必死にがんばる。
果実の採取と生殖を繰り返し、また補食されなかったオスの子を連れ歩き、鍛え上げるのは、オスのオークである。
現在は最後のメスのオークが、障気によって祟られて、英雄ゼルキスが獄炎槍で討伐され、人間の未亡人であるルーシーと隻腕の最後のオスのはぐれオークだけが、ニアキス丘陵のダンジョン近くへ通じる森と美しい湖だけがある夢幻の隠世で、ゆっくりと老いながら、とても仲良く余生を過ごしている。
人間とオークの混血児である騎士ガルドは、強靭な肉体と人間の強い生存本能を持って、卵の殻を破る試練を越えて生まれてきた。
オークの卵ではない新種の卵は、人間の赤ん坊よりも少し小さく、母親のルーシは赤ん坊を抱えるように愛しげに抱きしめて、卵が胎内にあった時、ふくらんだ腹部を撫でていたように、卵を撫で、眠る前は、卵にキスをして新たな命が育ち生まれてくるのを待っていた。
はぐれオークのプラーナとルーシという人間のプラーナが融合して、新種の赤ん坊が中で育つ卵が発生した。
たった一つのガルドの卵以外、ルーシはもう、卵を宿すことはなかった。
ルーシは、生命の危機の不安を手放して、安らいだ気持ちで生活している。
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フェルベーク伯爵領の孤児だった名もなき少女が、偽物の治療師ヤザンの犠牲になる運命の展開の世界と、メリルという名前を、彼女の家族となった元奴隷闘士で奴隷商人ザバスからもらって生きる運命の展開の世界。
この運命の分岐点は、人間の残留プラーナが無情で平等な大いなる
こうした審判は、誰も気づいていないだけで、ずっと何回も行われている。
たとえばエリザや聖騎士ミレイユのいるターレン王国のパルタの都から遠く離れた大陸の中原で暮らす農園の村人たちの若者たちが、ぎこちなく緊張しながらキスをして、そっと手をつないている気持ちや、流浪の民の末裔で、帝都で暮らして毎日、恋人バトゥと一緒に働く褐色の肌の術者の乙女ミュールの恋心も、どちらの力が強い世界になるかの審判に影響を与えている。
恋愛が、ただの孤独を怖がっている臆病な気持ちでしかないのなら、一期一会の出会いと別れを繰り返すばかりの、かりそめの安心感を求め続ける迷子のような者となるだろう。
そして、心を伝え合えると気づかなければ、虚しさや絶望から、心を廃棄するように、大いなる
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