第346話
巨大な球体の魔法障壁に包まれているマニプーラ。
どのくらい巨大な球体なのかといえば、一つの惑星ほどの球体である。それも、およそ直径一万二千八百四十二キロメートルの巨大な球体である。
ナーガは
エルヴィスは、この暗闇に浮かぶマニプーラの光景に見惚れていた。エルフェン帝国の帝都にいる恋人のシャーロットがマニプーラを見たら、きっと「素敵ね」と言ってくれそうな気がした。
「あまり魔法障壁の同調前に近づきすぎると、エルヴィス号が吸い込まれるかもしれないから……それにしても、でかいな」
夢幻の隠世の海底で停泊して、エルヴィスと甲板で並んで、浮かぶマニプーラを見つめている。
エルヴィスの隣に並ぶと、令嬢エステルの姿のナーガの背丈は、エルヴィスの胸まで頭のてっぺんが届いていていない。
「マニプーラにも、海が広がってるんだろう。だから、少し、青っぽく見える」
「金色に、虹みたいな色がながれて揺らめいて包んでいる……とても美しい!」
「このエルヴィス号だって、この泡から出て外から見たら、あんな感じだと思うよ」
「そうなのか、お嬢、てっきり透明なんだと私は思っていた」
エルヴィスはマニプーラをつつんでいる
ブラウエル伯爵領のレルンブラエの街を、新月の夜に包んでいたのは、このように美しい色の夢の力ではなかった。
どこかじっとりとした湿り気があり、アルテリスには灰色の単色の少しぼやけた景色の中を、ぞろぞろと人影が揺らめきながら、ゆっくりと動いているように心がとらえていた。
肌寒さを感じるところや、逆にむわっとした息苦しくなるような蒸し暑さを感じるところも、獣人娘アルテリスが歩きまわっていてあった。
人影がどこから来てどこに向かっているのか、なんとなく裏路地を同じ方向で移動しているようだったが、目を離すと見失ってしまうのに、雑踏の足音やざわめき、人の気配は消えない。
バイコーンが黒き旋風のように駆け抜けたあと、街は色と夜の
青蛙亭の幻術師ゲールやエレンたちが、新月の夜のレルンブラエの街で発生した怪異の場に立ち会っていれば、さすらう人影は、もう少し人間らしく見えたかもしれない。
人影は赤錆び銀貨の使用者たちの生き霊だと、獣人娘アルテリスに大神官シン・リーは説明していた。
体内を循環していればいくつかの呼ばれかたとして「気」「プラーナ」「
この包んでいる光や色はオーラと呼ばれている。
自分の体内のチャクラを感じ取れている人の中には、あの人は何色っぽいとか想像できたり、近づくと周囲との温度の差とかを感じることもある。
人の姿がぶれて重なっているように一瞬だけ見えた気がしたり、まったく別の姿の人――前世の姿であったり、何か細部が奇妙な姿に見えるのは、オーラではなく、シン・リーなら「生き霊」として肉体と心の
第六チャクラや第七チャクラが他のチャクラを感じ取れていないのに刺激されて活性化してしまうと、肉体からオーラの分身が作られて、ふらふらと離れている人もいる。
このオーラの分身は、元が体内のプラーナなので、第一チャクラからのクンダリーニが、チャクラによって変換され、全身にプラーナとして補充されるまで、疲労感を感じたり急激な眠気を感じることもある。
オーラの分身をアストラル体、そして肉体を離れたアストラル体をドッペルゲンガーや「生き霊」というか、本人が自分のエネルギーであるアストラル体という肉体なき分身を感じることもある。
とはいえ、心とアストラル体が一緒につながりは保ったまま離脱して、その間のことを夢としてみていることの方が多い。
赤錆び銀貨が、第六チャクラのサードアイや第七チャクラのクラウンチャクラの活性化を
使用者が自分の願望や欲望によって、第二チャクラから第五チャクラを感じ取ることで、第一チャクラからのクンダリーニをプラーナとして変換できて循環できなければ、第六チャクラや第七チャクラのみが、オーラや分身のエネルギー体のアストラル体として体内からプラーナを放出する。
ナーガは、考えている。
マニプーラという
そしてプラーナから、巨大な
そんなナーガの隣で、エルヴィスは、ただマニプーラの美しさに感動している。
(マニプーラか……。あれだけの力が満ちているとなると、時の番神アテュトートではない別の神使が、あの中に存在しているのかもしれないな)
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