第338話
神聖教団の幹部アゼルローゼとアデラを眠らせたのは、なかなか妙案だったと、ナーガは自分の発想力に惚れぼれとして、上機嫌である。
自分の創り上げた世界では、全知全能で絶対無敵のナーガは、うっかり人間を何度も滅亡させてしまったことがある。
ちょっと陸地を増やすのに、威力を加減した
そのせいで、海の生物やそれを捕食していた動物たちはいなくなった。
海からの水蒸気がなくなると雨雲になるほどの水蒸気量にならなくなり、雨が降らなくなる。
雨が降らなくなると、陸地が乾燥し、農作物や草木は水分が不足して枯れてしまう。 作物が育たないので食糧不足になった。もちろん水不足にもなる。
昼夜、夏冬の寒暖差が激しくなり過酷な環境になってしまった。
とりあえず大いなる混沌から、世界の創り直しをしょんぼりと一人で反省して、海は大切と何度も思いながらやったことがある。
船を与えたら、昼寝中に大陸間で戦艦を使って人間たちの戦争が始まっていた時もあった。
これで人間たちは戦争をしなくなるだろうと、水泳帽にふんどし姿のナーガは水中メガネをつけ直し、シュノーケルを
クラーケンに応援されている感じで見守られ、がんばって陸地を目指した。
たまには、適度な運動をしないと体がなまる。
途中でクラーケンがはぐれてしまい、行方不明になった。
うまくすると、この夢幻の隠世の海で生きているかもしれない。
オゾン層が破壊されて、ナーガの新世界の海では、海水の温度が上がった。紫外線も強くなった。
クラーケンには、生きにくい環境だったのかもしれない、
前みたいに人間は全滅なんてしないだろうと気楽に考えていた。
海水温が高くなると海面から大気に蒸発する水分の量が増えた。台風やハリケーンは水蒸気により発達するので、水分量が増えるとその分、威力が増していく。
台風のパワーが大きくなると、気圧が低くなった。
気圧が低いと大気の海の水を押しつける力が弱まるため、海面上昇が起きた。
台風の上陸が満月または新月になる大潮の時期にあたると、満潮時による高潮と見事に重なり、被害が拡大してしまった。
こんな調子で、うっかり人間を滅亡させてしまったり、たまに甚大な被害をもたらして失敗してきたナーガなのだった。
魔法の利用は計画的に、そして慎重に、とナーガは思っている。
眠らせた神聖教団のアゼルローゼとアデラが思い浮かべられる魔法なら、ナーガの思い浮かべる魔法ほどの被害は世界にもたらさないだろう。
ナーガは眠らせたアゼルローゼとアデラの記憶から「世界に安全で、身近に使える魔法リスト」というものを書き出して、ニヤニヤしていた。
大いなる混沌から原始の植物プランクトンを召喚。プランクトンがうまく光合成をはじめることで酸素を放出すると、まったりとオゾン層を形成する。
とはいえ、人間が進化するまでにはかなり時間がかかり、とってもめんどうなのだ。
ヴァンピールとなり長生きをしてきて、女神ラーナの加護する世界で今は人間として生きるアゼルローゼとアデラの魔法の知識は、ハイエルフたちの思い浮かべた魔法よりも、かなり安全といえる。
毎日、優しく声をかけてナーガが進化をせかしてみたところ、カエル人ができてしまい、繁殖できずに滅びたこともあった。
植物は、声かけをしたほうが進化して育ちやすい気がする。
かわいがりすぎても、放置しっぱなしでも、人間が進化してきてくれない。
女神ラーナの加護する世界に適合する人間は、70億人に一人ぐらいの割合なのである。
ナーガの力と心を宿して女神ラーナの加護する世界へ渡ることができる肉体を持つ神の器というべき人間は、一人もできていない。
女神ノクティスは、聖騎士ミレイユという神の器に近い人間が、女神ラーナの加護する世界に存在しているのをうまく保護した。
(羨ましくなんてないぞ。やっぱり神たるもの、自分の心を宿す器の人間は、拾ってくるんじゃなくて、自分で創り出すものだろう。
でもな~、女神ノクティスの夢幻の
女神ラーナと女神ノクティスのほうが生物を進化させたり、育成するのが上手だとは、ナーガは断じて認めたくない。
(ホムンクルスかぁ、これのほうがプランクトンから進化させるよりかは早いかもしれないけど。うーん、繁殖不可っていうのが、ちょっと気に入らないな)
女神ラーナには、神の器としての転生者が生まれてくる。
女神ノクティスは、迷い込んできたエルフ族と人間のハイブリッドのミレイユが、レッド・ドラコンとの戦闘でひどく負傷してしまい、くたばりかけていたのを保護した。
(どうしたら、うちの人間たちも神聖教団のアゼルローゼやアデラみたいに恋をしたり、エルヴィス号の船員たちみたいに眠って夢をみたり、料理長ベラミィみたいにあれこれ想像するようになるのかなぁ。
そうすれば、うちの世界にも、他の世界から生きた人間が来るようになるんだろうなぁ、きっと)
エルヴィス号は物思いにふける令嬢エステルの姿のナーガを乗せて、さらに深き光の届かぬ海底へと、ゆっくり潜水していくのであった。
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