第333話
シャーアンの都に、飛行帆船に使われている知識と技術をもたらしたマーメイドが、遠い過去の時代に、
今、君たちがいるのは、その
神聖教団では、女神ラーナの信仰を君たちの暮らしていたシャーアンの都にも布教している。
その神話の物語に人間は登場するが、君たちが子供の頃に親たちから聞いているマーメイドについては、まったく何も
このエルヴィス号が、シャーアンの都で
シャーアンの都に来て、神聖教団の二人と一緒に、帆布や船体に光や風を浴びて、空中に浮かぶ力や移動する推進力を得ることができるという説明があってね、造船所で帆船について、ちょっと教えてもらったよ。
どの帆船よりも、このエルヴィス号は、少ない光や風から推進力を補充できると。
風もない濃霧の中よりも、この海上に停泊している状況の方が推進力の補充ができるのは、君たちのほうがわかるだろう。
エルヴィス号は、濃霧の海域を航海していた時に使われた推進力をできるだけ蓄える。
これは君たちが暮らしていたシャーアンの都へ無事に帰るためには必要なことだよ。
このエルヴィス号の推進力が、もうこれ以上は蓄えられなくなるまで、しっかり満ちるまでは三日間ほどの停泊を予定している。
推進力の
エルヴィス号の食糧や飲み水の備蓄が尽きるまで停泊する必要はない。
エルヴィス提督、濃霧の海域から抜け出して、停泊中の状況で順調に充填は行われているよね?
「ああ、順調だ。三日間あれば充填が完了できる」
聞いたかね、君たち。
君たちもしっかり体力を温存して、次の航海開始の日まで、潮風と日ざしを満喫してくれたまえ。
君たちがシャーアンに帰れないということになると、神聖教団にとって大変なことになることを教えておこう。
あー、こちらにおられる二人はアゼルローゼとアデラという神聖教団の大神官と神官長という幹部であらせられる。
つまり、君たちのような普通の信者では、お目にかかる機会は一生ない立場であらせられるお二人といえる。
そのお姿を拝見し、お言葉を
この機会はとても貴重なものといえる。
このお二人と一緒に、無事にシャーアンの都まで、今ここで話を聞いている君たちの誰一人も失うことなく帰ることを望んでいる。
令嬢エステルの姿で、ナーガは自分にあれこれ船員たちが質問に来てかまっていると、考えるための時間を奪われると予想して、その対応を二人がただの視察に来た僧侶ではないことを、船員たちにこの場で暴露した。
料理長ベラミィに、ナーガはウインクして、口元に人差し指を立てた。
船員たちには、神聖教団の幹部が乗船していることは内緒というジェスチャーを「お嬢ちゃん」がしているように思えた。
料理長ベラミィは、先日のアゼルローゼが
緊急事態を知らせたガモウと、困惑していても冷静に対応しようとしているエルヴィス提督が、甲板から船長室に戻ってくるのを、ナーガと神聖教団の幹部二人が待っていた。
アゼルローゼとアデラが神聖教団の幹部だということを、船員たちに暴露するのは、船長室で打ち合わせ済みである。
陸地が消えているという事態に動揺している船員たちの気をまぎらわせるのに、料理長ベラミィだけでは荷が重い。
また自暴自棄になって、
その緊急対応の予防策として、神聖教団の幹部の実力とやらを、ナーガは見せてもらうことにしたのである。
大陸各地に魔獣の王はおっかなくてヤバい奴で、かわいそうな女神ラーナを狙う悪い奴と言いふらしまくって仕立て上げ続けておきながら、ヴァンピールとして自分たちが吸血して頑固に逆らう信者をめろめろにして、二人の足をひざまついてペロペロ舐めるぐらい手なずけていた所業は、しらばっくれて
邪神ナーガは、神聖教団の布教のおかげで、女神ノクティスが現れる前に魔獣の王から分離するのに失敗した。
女神ノクティスよりも先に創世できて、人間を増やせていれば、もしかしたら、とっくに今ごろには女神ラーナの加護する世界を統合して、唯一無二の至高の絶対神に君臨できていたかもしれないのに、とナーガは思っている。
神聖教団が布教しまくって魔獣の王を怖がらせすぎてしまった。
さらに魔獣の王が、
もふもふしていたり、可愛い鳴き声だったり、抱きしめたくなったり、撫でたくなるような人間に愛される魔獣の王だと布教してくれていたら、絶対に女神ノクティスよりも先に、新世界の創世が成功していたはずなのに……。
かわいいけどモテモテのカッコいい愛される唯一無二の絶対神ナーガになって、大いなる混沌に全てが還るその日まで、ナーガは幸せにのんびり暮らしたい。
かなり、いろいろこじらせているナーガではある。世界の全てをやり直したいだけで、ただ滅亡さたいと人間たちに思われているのは、かなり不本意なのである。
このアゼルローゼとアデラを神聖教団の幹部だと暴露して、船員たちの不満やお悩みを話を聞いて軽減させる役割にしようというのは、ナーガの仕掛けた
ナーガは気づいていない。
船長のエルヴィスとクォーターマスターのガモウからは度胸のある「お嬢ちゃん」と感心され、神聖教団の幹部とたまに対等な感じで接していて、ちょっと変わった趣味をしているが世話焼きで親切な料理長ベラミィからは「エステルちゃん」と呼ばれるお友達のちょっと生意気な美少女として、この日、食堂室で人前に立ち話した時に、船員たちの心を、がっしりわしづかみにしたことを。
エステルという名の小さな独裁者が、エルヴィス号で現れた瞬間なのだった。
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