第323話
神聖騎士団の聖騎士ミレイユと参謀官マルティナに、獣人娘アルテリスは、レルンブラエの街の赤錆び銀貨の怪異と、それを一夜で大暴れして解決したバイコーンのクロの大活躍を、ちょっと自慢するような顔をして、誇らしげに語った。
アルテリスについて、ミレイユとマルティナは、何度もその名を聞いている。
大怪変の前に僧侶リーナが、ゼルキス王国の神聖騎士団本部にふらふらに疲労困憊しながらも訪れて、ミレイユに協力を要請した時に、辺境で助けられた恩人だと僧侶リーナは語った。
またセレスティーヌから、アルテリスによって冒険者レナードが救助されていたおかげで、女神ラーナの化身のリーナとレナードを婚姻させて、魔獣の王ナーガの花嫁にされる運命を阻止できたと二人は聞かされていた。
アルテリスのことは初対面な気がしない。同じ世界の危機に協力し合った仲間意識がある。
エルフェン帝国の評議会による会議にマキシミリアン公爵夫妻が参列している時には、すでに神聖騎士団は王都トルネリカを目指して、ゼルキス王国からゴーレム馬に騎乗して出発していた。
エリザが、ゼルキス王国の王都ハーメルンに訪問している時に、ゼルキス王国近辺の辺境地帯の再調査を、神聖騎士団は実施していた。その後、ニアキス丘陵側のルートから、ターレン王国へ入国している。
辺境の森側のルートで、蛇の道と呼ばれる街道沿いを通過していれば、幻術師ゲールと冒険者の乙女エレンが暮らす青蛙亭を、神聖騎士団は発見できていたかもしれない。
シン・リーは、ユニコーンやバイコーンが大陸南方に大昔には現れていたことを、聖騎士ミレイユや参謀官マルティナに語った。
アルテリスは、バイコーンのクロと出会って勝負したリヒター伯爵領の誓いの丘のあたりを、地図を指さしてマルティナに教えた。
マルティナはセレスティーヌから、ターレン王国にはダンジョンはないけれど、浄化のための聖地のような土地があり、それがストラウク伯爵領であることも、ターレン王国の事前情報として聞いていた。
辺境地帯のニアキス丘陵にダンジョンがあっても、大怪異は発生したので、浄化のための聖地のような土地があっても油断できないと、マルティナは考えていた。
「ミレイユよ、浄化のために人間が怪異を祓うことは、本当は必要ないことなのかもしれぬ」
シン・リーは障気が満ちて魔獣が出現する前に、
「
エリザは聞き慣れない言葉なので、シン・リーに質問した。
風や障気に含まれているもの。
人間の肉体にも含まれているけれど、濃さや含有量には個体差があること。
物質というよりも、目に見えない気配のようなもの。
「エリザ、たとえば、ミレイユやマルティナ、エルフ族のセレスティーヌやエルネスティーヌ、わらわにも、濃く血のように肉体を巡っておる。アルテリスのような獣人族は、魔素が人間よりも濃い種族なのじゃ」
(うーん、食べ物の栄養素みたいなものなんでしょうか?)
本来の環境では、どこからか勝手に出現してくるものが、魔獣出現を抑制してくれる。
それは魔獣を討伐する神聖騎士団は、環境が整っていればいらない組織ということになる。
(……父上が神聖騎士団を創立する前や神聖教団ができる前に、世界が魔獣だらけにならなかったのは、そういうことであったのか)
聖騎士ミレイユは、エリザにシン・リーが語ったことを一緒に聞いていて、妙にすっきりと納得した気持ちになっていた。
シン・リーは魔族サキュバスとなっているジャクリーヌに、神聖教団の幹部アゼルローゼとアデラにしたように【浄化の矢】を放ったりしなかった。
それは、呪術師シャンリーが装着した呪物がロイドに引き起こさせる惨事を、魔族サキュバスのジャクリーヌが、ロイドから魔素を愛情たっぷりに吸収することによって、回避していると感じたからである。
人間の魔族化と、浄化による人化があることをシン・リーは聖騎士ミレイユに教えた。
聖騎士ミレイユの場合は、魔族化というよりも、神化というべきかもしれない。
過去に神聖教団の本部ハユウで怨霊祓いに、聖騎士ミレイユとマルティナは挑んだことがある。
亡霊が魔素の回収のために生者を死に陥れていく亡霊の集合体である怨霊と成り果てれば、一匹の魔獣よりも多くの惨劇を引き起こす。
この女神ラーナの加護する世界で、人間を滅亡させる危険があるものと聖騎士ミレイユや女神ノクティスから判断されたものは、容赦なく一刀両断され、女神ラーナの加護する世界から消失するだろう。
神聖騎士団だけでなく、世界から人間が滅亡する力の出現を抑制しているものがいる。しかし、それが人間であるとは限らない。
「銀貨が錆びたということは聞いたことがありません。銀貨は魔素を含んだ金属ですから、普通の銀ではないのです」
この世界で流通している硬貨が経年劣化しない理由は、魔素が普通の同じ金属でも硬貨には濃く含まれているからです、とマルティナはエリザに説明した。
奇妙な夢を眠る人に与え、使用者が多ければ、世界に一夜にして変化をもたらす赤錆び銀貨――この呪物について知った時、聖騎士ミレイユとマルティナは顔を見合せて、同時に二人は魔剣ノクティスをチラッと見た。
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