grimoire(グリモワール)編 8
第320話
「えっ、神聖騎士団がこのパルタの都に来ているのですか?」
貴公子リーフェンシュタールがエリザたちの滞在している領事館へ訪ねてきたのは、学者モンテサンドが聖騎士ミレイユに、大陸西域の今後についての提案を語った翌日のことである。
エリザは「これで、神聖騎士団の帰還について行けばゼルキス王国の王都ハーメルンか、ニアキス丘陵のダンジョンに行けるかもですよ!」とアルテリスとシン・リーに言った。
辺境地帯のニアキス丘陵にあるマキシミリアン公爵夫妻が暮らすダンジョンから、大樹海の中にあるエルフの王国へ
(そもそも駄女神ラーナ様が、再会した恋人のレナードさんと仲良くするのに夢中で、みんなを幸せにするお仕事をさぼってるからいけないんです)
この世界で生きる人たちに、毎月金貨30枚分を硬貨ではなく、ステータスの情報へ加算できる。
現金の硬貨なら奪い合うことも起きるかもしれない。
(ゲームの聖戦シャングリ・ラのエピソードには、元強盗のロイドみたいな人物もいますから!)
エリザの極端なブラウエル伯爵領に暮らす大伯爵ロイド嫌いはさておき、たしかに18禁聖戦シャングリ・ラのエピソードには、エリザの好まない暴力的な性描写のシーンなどもあった。
エリザは警戒しているが、かなり善良な人々の方が圧倒的に多数の女神ラーナの加護する世界となっており、その分だけ邪神ナーガの創り出した世界の治安や風紀がじわじわと悪化しつつある。
人物の社会的な信頼度と思われる【所持金】なら、ステータス情報を【
ブラウエル伯爵領の大伯爵ロイドは、義理人情に厚くレルンブラエの街の住民たちから慕われている人物である。
ステータス情報の【所持金】情報の共有ができるようになれば、エリザの大伯爵ロイド嫌いも、少しは緩和されるかもしれない。
プレイヤーに大人気の聖騎士ミレイユや参謀官マルティナ、神聖騎士団の戦乙女の隊長たちに会えると、エリザはうきうきと心を踊らせながら、あともう少しで駄女神ラーナ様にみんなの悩みを陳情できると思っている。
参謀官マルティナは、聖騎士ミレイユの秘密を、学者モンテサンドやリーフェンシュタール以外にぺらぺらと誰にエリザがおしゃべりしたのか、きっちり聞き出して反省させなければ、と笑顔が強ばるほとご
マルティナのエリザとの初対面前の印象は、かなり悪いものになっているとは、エリザは夢にも思っていない。
白い梟のホー、あと獣人娘アルテリスとシン・リーは、エリザには内緒で先日、神聖騎士団が滞在中の執政官マジャールの官邸に偵察に行っている。
一緒について行くと心配したアルテリスとシン・リーがエリザに申し出ると「はい、ありがとうございます!」と、普段は人みしりのエリザからは考えられない満面の笑みを浮かべて、元気に返事していた。
学者モンテサンドは、誰にも話したことがない恋の思い出をエリザから語られた時に、なぜエリザがその秘密を知ったのかという興味がわいて、怒り出したり、取り乱してごまかしてみたりという反応は性格上なかった。
神聖教団の神官でもあるマルティナは、女神ノクティスの加護を受けている聖騎士ミレイユと日々を過ごしていて、世界樹からあらわれた聖女様のエリザが女神ラーナの加護の力で、世界の出来事や秘密の一部を自分たちよりも知っていても不思議ではないと思っている。
知っているからといって、自分の秘密ならともかく、他人の秘密をぺらぺらと暴露して良いわけではないとマルティナは普段は冷静沈着で、大怪異の前には隊長の戦乙女たちから、ちょっと何を考えてるかわからない人だと誤解されてしまうほどの人物であるにも関わらず、めずらしく少し感情的になっていた。
エリザだけでなく、女神ラーナは村人たちやマルティナ、そして呪術師シャンリーの亡霊さえも同じように加護されている。
むしろ、女神ラーナは、あまり干渉しすぎないように気をつけている。
邪神ナーガの方が、自分の創り出した世界の人間たちの生活の様子を気にしていて、干渉しがちな傾向がある。
幼年期のエリザは、当時、まだエルフ族の女王であったエリネスティーヌだけでなく、王国で暮らすエルフたちから、可愛いと愛されて育てられ、また学生時代も執事のトービス男爵や側近のメイドたちや、学院の教員から上級生から下級生たちまで愛されてきた。
だからエリザは偉ぶったりしたり、他人を蔑む発言や行動をしたりすることはなかった。
何も特別な事をしなくても、自分の興味を持ったことや気になったことを一生懸命やっているだけでよかった。
愛されていることを疑うことすらなかった。
何か誰かに貢献しなければ愛されないと心のどこかで感じている義務感を抱くようになったのは、心に転生してきた別の新たな人格になった瞬間――聖女エリザがエルフェン帝国の宰相に就任する日の朝からである。
ランベールはその肉体に父親であるローマン王の亡霊に憑依されていても、そうでなくても、誰かから無条件で愛されることを信じられないことは変わらなかった。
ウイル・オー・ウイスプという鬼火のモンスター娘になったアーニャの亡霊が、ランベールをただ愛しく慕い続け、後悔して自分を責め続けていたランベールを許し恨むこともなかった。
ランベールがアーニャの心と感応力で共感した瞬間に、ランベールの心は、ただそこにあるだけでもアーニャからひたすら愛されることを実感した。
ローマン王の亡霊に憑依されて性格や言動が変わったことや、前世からの
神聖教団のアゼルローゼやアデラは、帝都の王宮で開催された評議会の会議の場で、エリザに対して激怒して抹殺しようとした。
しかし、エリザとシン・リーの協力し合った秘術の【浄化の矢】で返り討ちにされた。
ヴァンピールとなってから久しく忘れていた死への恐怖は、アゼルローゼとアデラを、ヴァンピールから人間に戻させた。
エリザは以前ほどではないにしても、その無邪気さから、怒りを買うことがあった。
それは、不特定多数の自分が思い浮かべる世界の他人から、無償の愛に包まれる瞬間が必ずあると信じきれていない者たちには、ふれられたくない秘密や嫌われると思われる基準を思い浮かべて、自分の思考や行動の制限、他人への関わりかたに心の
しかし、無償の愛を疑わない者には、何をしても許されるような気分があるので、勝手気ままだと誤解されて怒りの矛先を向けられることがある。
何をしても許されるわけではありません、と参謀官マルティナは聖騎士ミレイユに関わることだけは、自分に関することには寛大を通り越して無関心ぐらいな傾向があるが、エリザの行動に対して、ちょっと許し難い気分になっていた。アゼルローゼとアデラなら、始末すると激怒するところの純真無垢さに対する怒りを感じた。
それは、どこかに忘れてきた純真無垢さへの憧れの裏返しのような感情でもある。だが、マルティナはそこに気づいていない。
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