第303話
ヴァンピールのゴーディエ男爵やサキュバスのソラナが、フェルベーク伯爵領から、この地へ逃亡して来たのも、ここが双子の山とスヤブ湖のある浄化の地だからだろうと、ストラウク伯爵は伴侶のマリカに語っている。
魔獣の王ナーガの追放後に、ハイエルフ族から離れて、それぞれ各地へ散らばって魔獣との激しい戦いから生き残った種族の中で、現在、人間という種族がとても繁栄している。
他の種族は長い歴史の中で、数を減らして滅びかけているのが現在の状況となっている。
騎士ガルドは、獣人オークと人間の女性が夢幻の領域へ渡り、卵から生まれてきた人物である。
ガルドは、オークのような猪頭の獣人ではなく、見た目は逞しい巨漢の人間に見える。
さらに、ホムンクルスのような
この聖戦シャングリ・ラの世界には、バイコーンのクロやマーオのように、女神ノクティスの夢幻の領域のものが渡ってくることもある。
邪神ナーガの創り出した異世界の人間も、ナーガが判断してわずかだが女神ラーナの世界へ渡らせている。
エルフェン帝国の帝都の教会で引き取られて暮らしている少女サランは、ナーガの創り出した世界から渡ってきた子供たちの一人である。
ロンダール伯爵の邸宅で保護されている予知夢をみる三人の少女たちは孤児だと思われている。
ナーガの異世界から女神ラーナの世界を渡ってきた子供たちは、ナーガの異世界での記憶は喪失していることが多い。また体に負担がかかってしまい、長生きできないこともある。
心は人間のまま、聖騎士ミレイユは、女神ノクティスとの婚姻の加護により人間離れした回復力や魔力を持つ不老の肉体を持つ。代償としてミレイユは、子供を妊娠できない肉体となっている。
幻術師ゲールと恋人で助手のエレンは、魔族グールとグーラーとなっている。
この恋人たちには蛇神祭祀書の呪術が施されている。
神聖教団の星占術では生者は必ずそれぞれ宿命の星があるとされるが、その宿星を持たない存在となっている。
人間と見た目は変わらないとしても、人間ではない異種族は存在する。
種族のちがいは肉体の差異。
しかし、長い歴史の中で人と交わり血を薄めてきて、見た目の特徴がわかる人数を減らし、見た目では人間と見分けがつかなくなった種族もいる。
エルフェン帝国の平原地帯の村人たちには、獣人族の男性と人間の女性の間に生まれた子供たちの子孫もかなりいる。
感応力と想像力によって気持ちが通じ合い、種族の差異を越えて恋や愛情が育まれることがある。
女神ノクティスは、多くの種族の心とふれあう夢の領域を司る女神である。
また魔獣の王ナーガの封じられている亡霊たちの集められた領域では、捕らえられた亡霊たちの最もおぞましく恐怖を感じるものが獄卒の魔獣として生成される。
赤錆び銀貨のもたらす夢で、本人が日常生活で気づいていなかった隠された好き嫌いについて気がつく人もいる。
他人を騙し偽ることができる者や、自分の気持ちを我慢したり、妥協したりしてやり過ごしている者たちは、女神ノクティスの司る夢の領域では、自分の心や感情に愚直なほど真っ直ぐに向き合うことになるだろう。
性別のちがい、種族のちがい、肉体の特徴のちがい……そうした差異を越えた命というものが、それぞれ異なる心を持ちながら、同じ混沌なる始源の海から現れて、やがて
亡霊たちや獄卒の魔獣どもが満足しきって神々の霊薬アムリタに変換され、さらに世界を生成する大いなる混沌の始源の海の漂う無色なるエネルギーとなる。
愛する者とは差異が感じられなくなる一瞬、心が重なり合って一つになりたいと望みながら、全ての命と残酷なまでに平等で、同じであることには、自我を喪失する恐怖を感じる。
夢を司る女神ノクティスが、恋愛の女神でもあるのは、愛するということが、心の軛から解放されたいという願望を秘めていることを知っている女神だからである。
女神ノクティスは、ミレイユという乙女の心を愛してしまった。
だから、あらゆる種族の者たちが、愛する者とは心の軛から解放されて同じ命になりたいという秘められた願望を抱いているのを実感している。
ストラウク伯爵は、感応力が強い獣人娘のアルテリスに、瞑想による心のコントロールを教えた。
感情を鎮め、自分の心は自分の命と同じなのだと意識すること。
心の軛としての自我が、感応力が強すぎれば保てなくなる。
自分の自我や気分が、他の命の自我に取り込まれることも、感応力が強すぎる者にはある。
細工師ロエルと弟子のセストもストラウク伯爵の屋敷に滞在しながら、瞑想の修行をストラウク伯爵の伴侶のマリカと一緒に行っていた。
修行後に昼食を食べて、夕方か夜までストラウク伯爵と一緒に陶芸をしてみたり、ストラウク伯爵領の伯爵たちが残した書庫の巻物から、言い伝えの物語をストラウク伯爵から聞かせてもらう。
ソラナは、マキシミリアン公爵夫妻と、格闘や魔法の修行をしていた。
賢者マキシミリアンは、ゼルキス王国の熊のような大男の将軍クリフトフが自分と同じぐらい強いと認めるほどの格闘技術を身につけている。
またエルフ族の姫君セレスティーヌの弓の腕前と魔法の知識は、ソラナが憧れるほどであった。
ゴーディエ男爵は、格闘の修行をするには体の筋力が不足していて、負傷するとセレスティーヌから
ゴーディエ男爵はヴァンピールなので、吸血すれば傷の治癒は勝手に回復するのでいらない。
しかし、吸血に頼る癖がついては、生きずらくなると考えた。
また血を求める渇望も瞑想の修行の効果なのか、それとも、この地の浄化の力なのかはわからないが、ひどく気持ちが乱れることがなかった。
賢者マキシミリアンは、参謀官マルティナのことが気になっている。だが、一人娘の聖騎士ミレイユと魔剣ノクティス、さらに戦乙女たちが彼女についているという安心感もある。
魔族化した二人がどうすれば生きやすくなるのか、マキシミリアン公爵夫妻やストラウク伯爵は、三人とも困っている人を放っておけない性格なので、あれこれと考えていた。
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