第300話

 ナーガは、遥かに遠い過去に創世した溶岩だらけの生き物もまだいなかった創世されたばかりの世界が、今では広大な海があり人々が暮らしている世界へと変化しているのを観察しながら、エルヴィス号で、ある意味、とても危険な濃霧の海域を航海中である。


 女神ラーナの世界からこぼれ落ちたように、亡霊たちが生前の願望や欲求不満を抱えて、上半身は美しい青年、下半身は大蛇おろちの魔獣に支配させている淫獄に渡ってきては、エネルギーに変換されて回収されている。

 回収されたエネルギーでナーガは、自分だけ神龍の姿に変化して昇天することだって可能だったはずである。

 雌雄一対の神龍ではなく、ただ孤高の神龍として、永遠の時を生き続けることをナーガは本当に寂しいと思ってしまった。

 天界ではない未完成の異世界が出現した。その異世界のエネルギーは、のちにラーナ、ナーガ、ノクティスとは関係ない余剰な混沌の力なのである。

 もともと雌雄一対の神龍のものではない未完成の世界のエネルギーと、ラーナの世界から渡ってきた亡霊たちが回収されて変換されたエネルギーで、ナーガは自分のための異世界を創り出した。


 夢幻の領域と同時に自我を持つ新たな女神としてノクティスが現れた。余剰なるエネルギーと、雌雄一対の神龍のエネルギーの賜物たまものといえる。

 女神たちのやり方から魔獣の王の半人半獣とは別の分身である邪神ナーガとなった。


 邪神ナーガの創り出した世界は女神ノクティスがいない異世界。

 そのかわり、邪神ナーガが全知全能の存在である。

 海の水面よりも浮かんでいる浮遊するシャーアンの都の帆船を、ナーガの異世界で生きている人たちは作り出せていない。


 ナーガが真似して創り出し、自分の異世界の人々に与えることはたやすい。

 一度は試してみたことがある。それは浮遊船ではなく、波をかき分けて進む船である。

 ナーガの異世界は、女神ノクティスの夢の力の欠落から、魔法技術が発展していない。

 しかし、魔獣の王ナーガが回収した思念エネルギーに変換の問題があったのか、略奪と侵略の兵器として船を利用して、戦を起こしてしまい、多くの死傷者を発生させてしまった。

 邪神ナーガにとって、これは不本意な結果だった。

 邪神ナーガは、なぜ女神ラーナの世界のシャーアンの都の人々のように略奪行為や他の船を沈没させたりせず、他国を侵略しない人間たちができあがるのかを知りたい。

 

 女神ラーナの世界にも戦乱の時代があり、多くの死傷者が出た時代に、多くの亡霊が魔獣の王の淫獄の異世界に渡ってきて、エネルギーをかなり回収した。

 しかし、ナーガの異世界で人間たちに船を与えたことで死傷者が増えすぎても、再びナーガの異世界に人間が生まれ落ちて増えるまでの時間や手間が増えるので、ナーガにとっては、とってもめんどくさかった。


 女神ラーナが自分の世界で幾度もいろいろな生き物、草や鳥獣、人間の女性の転生者として生き直しながら、愛について知ろうとして、世界を加護し続けている。

 ナーガは自分の世界に女神ラーナや女神ノクティスを迎えて、分かれている世界を統一して、最終的には雌雄一対の神龍という関係に戻り、消失した天界を創世して戻りたいと、人間からすれば壮大な理想を抱いている。


 雌雄一対の神龍の存在していた天界は、雌の神龍が天界から逃げ出したことで消失している。


 天界の新たなる創世。それには膨大なエネルギーが必要だけれどすぐに滅ぼし合ってしまう人間たちができあがるようなエネルギーでは、天界は創世できない。

 せっかく創世しても消失して、同じ歴史を繰り返すことになるのは、ナーガにとっては、うんざりすることなのである。


 シャーアンの都の船乗りたちが飛行帆船を撃墜し合ったりしないのは、帆船には適合した人の心が亡くなったあとに宿り、愛を誓い合った伴侶と共に過ごして、相棒マトロと一緒に転生していくまでの特別なものとして、強く憧れているからだ。

 それはどんな姿になっても死を超越して誰かを愛したり、愛されたりしたいという憧れである。


 強い愛情で結ばれた相棒マトロが、陸の呼ばれかたでは伴侶と呼ばれ、海の船乗りたちからは相棒と呼ばれている。


 料理長こっくの乙女ベラミィは、異国のターレン王国の美青年ブラウエルと美少年ヨハンネスの恋物語を「エステルちゃん」こと正体は邪神ナーガから語ってもらって、上機嫌で自室のハンモックで眠っている。

 夜更かしをしてしまうのは、船乗りたちの間ではあまり良い事ではないと思われている。

 翌日の活動に悪影響があって、同じ船に乗り合わせている他の船員たちに迷惑をかけ続ければ、やがて嫌われて、海に放り出されてしまうのを知っている。


 料理長ベラミィが寝坊したり、体調を崩すと、たまにベラミィが作るひょわわ羊の乳酒の絶品シチューに船員たちはありつけない。


 ひょわわ羊の乳酒を船員たちが煮込んでみても、表面に膜ができてしまったり、クフサールの都でフリーズドライのように乾燥して縮んだ野菜が煮えきらないおいしくないスープになって意気消沈してしまう。海水の配分もうまくいかずに味にトゲがあるような、食材の野菜の口当たりも柔らかさがない残念なスープには、絶妙な若干の甘さや奥深さがない。

 下ごしらえで食材の生煮えや焦げのミスが、料理長ベラミィにはない。

 仕込みや煮込みに朝からかかる絶品シチューは料理長ベラミィの微調整が必要不可欠。


 濃霧で甲板に出ても爽快な青空や満天の星空が見られないのは、禁酒よりも船乗りたちにはつらいこと。普段は見慣れている光景が見られないのは、違和感がすごくある。


 翌日、料理長ベラミィは、ブラウエル伯爵とヨハンネスの恋物語の続きをたっぷり聞かせてもらうかわりに、絶品シチューをエステルちゃんに作る約束を守った。


 絶品シチューは、テンションが下がり気味の船員たちにとって、とても良い気晴らしになった。


 鬱屈うっくつした気分でイライラしたり、深酒しすぎたり、食欲不振や逆にドカ食いしたり、そうしたダメージは、長い航海になればじわじわと船全体の士気を低下させていく。


 いくら魔法技術の攻撃力の高いの魔法陣の砲撃が船にあっても、船員たちの士気低下にはまったく効果なし。


 まして、海賊船の掟で少年や男装させて無断で乗船させたり、船内で恋愛禁止をしていた船では、この濃霧の海域で起きる船員たちの心の士気低下のダメージは、かなりの痛手である。


 ナーガは、ひょわわ羊の乳のシチューを食べたいと思っただけだった。

 しかし、これがエルヴィス号の危険な海域で、小さな危機を越えるためには、とても役立つことになった。


 人の心に活力と良い余裕を生む料理は、人生を長い旅と考えてみたとしても、重要なものである。

 また、愛情にあふれた恋愛もそうだろう。



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