第279話

 自分の生きている世界に何も不満がなく、ただ大満足で生きている人は、どれだけいるだろう?


 パルタの都で生まれ育った子供たちは、父親が不在の家庭で育っている。


 フェルベーク伯爵領では母親不在で、その日の気分で、虐待する人か過保護な人のどちらなのか、ころころ保護者の態度が変わる家庭環境で育つ。

 子供が自分の言動や態度と、保護者の態度にはまったくつながりがないことに気がつかないようにフェルベーク伯爵領の男色家の大人たちは、理由をつけて子供を言いなりになるように誘導する。


 過保護傾向が強い保護者に育てられたとしたら、他人の考えや気持ちを想像して気づかいを喜ぶよりも、自分の都合に合った与えられたものだけを喜ぶように育つだろう。

 虐待傾向が強い保護者に育てられたら、他人に対して怯えて、自分が攻撃されると思えば、先に服従させようと威圧的な態度や攻撃をするだろう。


 バーデルの都の執政官ギレスの性格や恋愛傾向には、故郷であるフェルベーク伯爵領の影響が、色濃く消えない傷痕のように残っている。


 パルタの都に生まれるのか、フェルベーク伯爵領に生まれるのかを、どちらに生まれて育つのかを選らばなければならないとすればどちらを選ぶ?


 赤錆び銀貨の噂が、バーデルの都やフェルベーク伯爵領で、少しずつ噂が広まり始めている。

 想像する理想の実現した夢をみることができる赤錆び銀貨。


 パルタの都や王都トルネリカでは、愛する人が同性の女性ということだけで周囲の人たちから迫害されたような気分にさせられる。


 同性愛が許される世界を想像して赤錆び銀貨を握って眠り、夢をみる人が多いほど、現実の世界の人たちは、ゆっくりと同性愛の恋愛傾向へ傾いていくだろう。

 少数派であるうちは、世界を変容する影響力をもたらすことはない。


 ただし、女神ラーナの加護する現実の世界の状況を完全に拒否して、赤錆び銀貨の使用者が目覚めることを拒みひたすら眠り続けてしまえば、人はたやすく衰弱して死に至る。


 かつて高度な魔法技術を使い、神の支配する世界を拒絶した古代ハイエルフ族は、ひたすら眠りに落ちて滅び去った。

 

 赤錆び銀貨は、自分が何を望んでいて、どんな世界で生きたいかを夢の中で教えてくれる。

 

 男性と女性、どちらであっても現実の生活の中で抑圧している欲望が、自分自身もどんなものなのかを把握できている人は少ない。


 錆びたのが金貨や銅貨ではなく銀貨であることでわかるのは、使い慣れていて身近に感じる通貨がこの世界では、銀貨という人が多いということである。


 同性愛や異性愛どちらの恋愛傾向でも、恋の情熱や感情の力から生まれた女神ノクティスは、赤錆び銀貨を使い夢をみる人たちが、夢の中で抑圧された欲望を叶え、目覚めた時に絶望することや、夢の力で知らないうちに女神ラーナの現実の世界を変容させていくと邪神ナーガの創世した世界に近づいていくことに気づいている。


 自分は誰に恋をしているのか、隠れた恋する情熱に気づいてくれる人が増えたり、両想いであるのを夢で伝え合うことができる可能性も、赤錆び銀貨にはある。


 しかし、ただ夢の中で欲望を発散して最後には死に至る。そうやって死んだ人はナーガの魔獣の夢幻の領域に取り込まれ、女神ラーナは力を奪われと邪神ナーガの力は増大して、世界の均衡が崩れかねない。


 蛇神の淫獄の夢幻の領域は、未練ある亡霊の欲望を自意識が失われるまで発散させ、エネルギーに変換させて回収する特殊領域となっている。

 生前に夢の中で発散しきってしまうと女神ラーナの世界へとどまり転生する力が足りずに、さらにナーガの回収にもかからずに、夢幻の領域へエネルギーが流れこみすぎる。

 すると、女神ノクティスの意図とは関係なく、夢幻の領域から女神ラーナの世界にいないものが渡ってくる。


 また、赤錆び銀貨の使用者に強い憎しみや恨みがあり、夢の中で憎んたり恨む相手に危害を加え続けていれば、その他人を憎んだり恨んだりする敵意や悪意は、相手に悪夢で不快感を与えるだけでなく、赤錆び銀貨を使用していない人の心にも影響を与えていく。


 恋の嫉妬も限度を越えれば、陰惨な事件を引き起こすこともあるだろう。


 女神ラーナの誰でも平等に慈しみ愛して許すところには、恋の情熱や嫉妬はない。

 しかし、ナーガの欲望や快楽を貪りつくした果ての自分も他人もなくなるようなところの自我の滅びにも、もう、恋の情熱や愛情も消え去ってしまう。


 女神ラーナと邪神ナーガの力の均衡が保たれている状況が、恋の女神ノクティスにとって、最も快適な状況である。


 



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