第276話
執政官マジャールは、パルタの都の昼間の倉庫で、学者モンテサンドまで協力して、自分の花嫁候補の選抜オーデションが行われているとは、まったく想像していない。
パルタの都育ちの若い女性にはありがちの恋愛傾向がある。
父親が子供に忘れられるほど不在なので、基本的には母と娘で暮らしている。
他に兄や弟がいる場合では、多少は異なる傾向になるけれど、ざっくりと二つの傾向に分かれる。
選抜に残った二人の令嬢と、選抜に参加を拒否して「ブラウエル伯爵領へ駆け落ちしましょう」と話し合っているセレナとリアンの恋人たちの二人のタイプに分けられる。
選抜に残った令嬢のハンナとアナは、素敵なお相手に憧れているタイプの乙女たちである。
まったく理想を抱かずに、期待するだけ無駄と考えて、一人のほうが気楽でいいわと考えていたセレナとリアンのような、極端に自立傾向の考え方で意気投合して、女神ノクティスの影響もあって、親友から恋人へ最近、目覚めてしまった。この二人は、熱愛中だけど、周囲からは以前と変わらず幼なじみの二人にしか見えない。
父親の存在感が希薄すぎて、いないのと大差ない家庭で育った女性たちの恋愛傾向は、依存と自立の振りはばが、ちょっと大きい傾向がある。
自立の振りはばが大きい女性たちは、子供の頃に父親の愛情や頼りたい人が欲しいと思った時、一番欲しいものがどうしても手に入らない状況を我慢していて、他の家庭で、パパが帰ってきたとはしゃいでいる子をみると「もう小さい子どもじゃないんだから、あんなにはしゃぐなんてカッコ悪い」と思わず母親に言うと「我慢できるのは、いい子」と、母親からほめられて育っている。
一番欲しいものを拒絶する強がりに慣れて大人になっていく。
パートナーとして交際を始めると、相手に頼ったり甘えたりしているときや、負担になっているかもと思うと不安が強くなり、また逆に相手から少しでも負担をかけられると拒絶して逃げたくなる。
もう欲しくてたまらなかったのに手に入らなくてつらいのは、子供のころだけでもう充分だ。つらい思いなんてしないですむためには、欲しがらなければいい。
すると、始めから何も期待できない相手を選びがちになる。
何か嫌なことがあると、やっぱり期待したらダメなのよと、勝手に納得して、恋愛から離れる。
期待しなければいい。欲しがらなければいい。そんな諦めの思いに強くとらわれがちな行動を選びがちな自立への振り幅が大きい女性たちは、何も期待できないベルマー男爵につけこまれた時期があった。
今はそんな考え方を共感してくれて、強がる必要がないパートナーだと信じられる相手を見つけられたセレナとリアンのような恋人たちは恋愛をしている。
また不倫をして、相手には会っている時のかりそめの恋人ごっこだけしか求めていない、という人もいる。
最終選抜に残った二人の令嬢ハンナとアナの恋愛傾向は、依存に振り幅が大きいタイプ。
子供の時に「パパが帰ってきたら甘えるんだから」とああしてこうしてと想像して楽しむ癖かついていて、また母親もそういう想像をしがちで、子供に自分の想像を話して気持ちをまぎらわせがちだった家庭で育っている。
パルタの都のような、母親だけが子育てをがんばらないといけないと気負いがちだと、子供に干渉して、つい自分の意見や感情を押しつけがちになる家庭もある。
子供はただ言われたとおりに従わないと、母親から見放されたら怖いので、我慢しながら理想のパパを空想して気持ちをまぎらわせて育つ。
大人になって、恋愛に憧れるようになると、バートナーにあんなことこんなふうにと、想像をふくらませがちなのが癖なので、つい期待しすぎてしまう傾向がある。
そして、我慢していないと、この人に見放されて離ればなれになっちゃうかもと、自分の気持ちを隠し我慢しながらがんばりすぎてしまったりする。
すると、パートナーに誤解されて、わがままいっぱいにされてしまい、さらにつらくなることもしばしばある。
子育てに気負いすぎた母親たちと同じように、我慢の限界に達すると、激怒して別れを切り出してしまったり、自分が想像した理想とのギャップを埋め合わせるために、相手にあれこれ強要し始めてしまったりする。
依存傾向の振り幅が大きいタイプのハンナとアナは、とても努力家に見える。
今は、理想のパートナーに思える執政官マジャールに夢中で、自分の引っ込み思案な性格を変えたいと理想のために人前で話をしたり、勇気を出して歌を披露してみたりして、観客の前へ緊張して出てきて、なりたい自分を思い浮かべてなりきってみせている。
他人を自分の理想の人に仕立て上げて満足するのではなく、自分がなりない人になってやるとがんばってるこの二人は、観客たちの結婚したて時期の絶対幸せになってやると思っていたころの気持ちを思い出させてくれたのだった。
他の花嫁候補の令嬢たちは、恋愛に憧れているタイプではなく、執政官の妻の座についた自分を思い浮かべていた。
マジャールに恋をしているのはハンナとアナだけだった。
獣人娘アルテリスは、感応力で恋をしているハンナとアナの気持ちを感じ取り、野生味のある笑顔をこの二人には見せて、マジャールとどんなことをしたいか質問していた。
ハンナは一緒にお料理したいと答え、アナは一緒に歌いたいと答えていた。
他の令嬢たちにはアルテリスはちょっと不機嫌そうな表情で、パルタの都の当番の休日を増やしたいとか、働く人の年齢に合わせて当番の割り振りを変えたいといった話を聞き流していた。
明らかにこの二人だけはちがうのが、恋愛には鈍感な学者モンテサンドにもよくわかった。
ハンナはマジャールより少し背が高く、ポニーテールの髪型で笑顔が爽やかな感じの乙女。
アナはマジャールと同じかちょっぴり背が低い。三つ編みで少しそばかすがあるが、目が大きく、はにかんだ笑顔は、とても可愛いらしい印象がある。
エリザに淡い恋をしている執政官マジャールから、どちらの乙女が心を射止めるのか?
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