第274話
女神ノクティスの存在を神聖教団は隠蔽してきた。
それは、異性間で婚姻させ子孫を増やすことで、民衆を増やして国家として発展させる方針が、すでに、ヴァルハザードの千年王朝の時代からあったからである。
ところが、怪異についての調査が進むにつれて、女神ノクティスという新たな女神が存在することがわかってきた。
夢幻の領域というものが、肉体と心の関係と同じように、現実の世界と一体化して存在している。
ところが、多くの人間の強い思念や感情が、時間をかけて現実の世界と一体化している夢幻の領域の部分を変えてしまうと、その変化によって、現実の世界にも変化が発生する。
神聖教団の幹部である大神官アゼルローゼと神官長アデラは、教祖ヴァルハザードによって吸血されてヴァンピールとなった。
吸血して、いつまでもヴァンピールに覚醒した時と変わらない容姿を維持できる。
ヴァルハザードに吸血されてヴァンピールに覚醒したのは、アゼルローゼとアデラだけで、他に覚醒した者がいなかった。
また、叛乱を起こし都を占拠した太守の軍勢を、ヴァルハザードが激怒して
神聖教団は、術者である神官の修行として、禁欲することを戒律とした。
神聖教団の神官を目指すわけではなく、女神ラーナを信仰するだけの信者たちには、禁欲の戒律を強制することもなく、異性と婚姻することも祝福する。
アゼルローゼとアデラが裏では幹部として君臨し続けて、二人がいつまでも死ぬことなく、見た目も老化しない秘密を、禁欲による修行の成果だと選ばれし者だけへの口伝として言い伝えた。
実際は、二人は魔族ヴァンピールになっていて、戒律を破った者などを贄として吸血して処刑していたからなのだが……。
教祖ヴァルハザードは、なぜアゼルローゼとアデラの恋人たちだけが、魔族ヴァンピールとして覚醒したのかの謎を残したまま、魔獣化してしまった。
聖騎士ミレイユは、夢の中では美少女の姿で豪華な邸宅にいるノクティスに、いろいろな事を質問して考えてきた。
神聖教団の幹部の二人は、人ではない魔族ヴァンピールであることや、恋人たちである秘密を女神ノクティスは知っていた。
禁欲の戒律を破り、異性に対して生殖行為を行った者――とりわけ力ずくで暴行を行ったり、睡眠中の相手に夜這いをかけたり、騙して毒物で抵抗する力を奪った男性の修行者は抹殺してきた。
被害にあった修行者は、神官ではなく僧侶として神聖教団の一員のまま罰することはなかった。
「ただし、女神ノクティスに神聖教団の幹部の二人は祈りを捧げ、被害者と訴える人の過去の記憶を夢としてみる夢見の
「ミレイユ様、虚偽の訴えをしていた修行者の女性は、相手の男性を身代わりにして戒律を破った罪を逃れようとしたのですね」
「戒律を破るつもりはない。けれど、気のあるそぶりや言葉で、相手の信者の男性を期待させて、自分の言いなりになるようにして品物や金銭などを貢がせていた修行者の女性もいたらしい」
「そして見返りを要求されたので禁欲の修行を理由に、その女性は貢がせていた男性に態度を変えたというわけですか?」
「しばらくたって、その女性修行者が油断したある日、別の信者に貢がせていた。ひどく恨んだまま古都ハユウから去った信者の思念が新しく貢がせていた男性信者に女性修行者に暴行させた。
暴行した男性信者本人には、その時の記憶がない。
マルティナ、この女性信者を神聖教団の幹部二人はどのように、記憶がない男性とたぶらかしていた女性修行者を裁いたと思う?」
参謀官マルティナは、聖騎士ミレイユの質問に、少し考えてから「どちらも、処罰したのでは?」と答えた。
「ノクティスは私ならどうするか考えるように言って、神聖教団の幹部二人はどうしたのかを教えてはくれなかった」
「ミレイユ様なら、どうなさいますか?」
「ひどく恨んでいる思念で、自分と同じようにたぶらかされている別の男性信者を行動させた者を探し出す。その者が生きているかはわからないけれど。
たぶらかした女性修行者や誘惑されても我慢していたが知らぬうちに行動させられた信者を処刑したあとで、また別のたぶらかす女性や恨む男性が、新たにあらわれる可能性がある。だから、処刑したりはしない」
禁欲の戒律と修行を利用してたぶらかした女性修行者が処刑されたあと、今までだましてきた者が恨み続けている限り、蛇神ナーガの夢幻の領域へ亡霊は取り込まれて、責め苛まれ続けた。
たぶらかされて恨んだまま命を絶った者たちの亡霊は、獄卒の異形な魔獣となって、女性修行者が来るのを待っていた。
こうしたことも女神ノクティスはわかっているが、聖騎士ミレイユには教えない。
神聖教団の幹部二人には、夢見の占術で、たぶらかした女性修行者が息絶えたあとでどんな目にあうのかを、女神ノクティスは悪夢をみせて教えた。
暴行した男性信者に、処刑されて蛇神ナーガの夢幻の領域の獄卒の魔獣になるか、生きて修行を続けるのか、神聖教団の幹部二人は選ばせた。
この信者は、処刑されることを望んだ。
欲望を捨てきれない自分の心が恐ろしいと幹部二人に言った。
たぶらかした女性修行者には、贄になる前に、このあとはどうなるのかを語り聞かせてから、幹部二人は処刑した。
参謀官マルティナが予想したように処刑が行われた。
たぶらかされていたが、恨んでいる気持ちをごまかしたまま下山した男性信者は、夢の中で恨んでいる女性修行者に暴行を加える夢を見続けたまま途中の山中で暮らしていたが、アゼルローゼとアデラが見つけ出して処刑した。
執政官マジャールの邸宅で、聖騎士ミレイユは参謀官マルティナに、なかなか恨みを抱いた者が人を許すのは難しいものだと語り、それが障気として他人の心にも似た感情や思念があれば、強い影響を与えることがあると、マルティナに教えたのだった。
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