第266話
パルタの都の恋愛事情。
小貴族の未亡人と年頃の娘に、逃亡兵の青年アッシュが二人の女性から惚れられてしまった。
(俺はなんてことを、でも、マリアーナさんも、シェリアちゃんも選べない、どっちも好きだ!)
アッシュは、衛兵隊の屯所暮らしをしているが未亡人のマリアーナから「夕食を一緒にいかが?」とお呼ばれされて三人て食事をしている。
「アッシュ、朝からママと一緒にじっくり煮込んだスープだよ~、美味しい?」
「うん、おいしいよ」
「おかわりもありますからね」
「はい、ありがとうございます」
アッシュは、内心では心臓が口から飛び出るほど緊張していた。
パルタの都では住人たちに大井戸から水を汲み上げて配ったり、倉庫区画のそばで早朝、野菜を配布してみたり、暮らしに密着した役目を持ち回りの当番で行っている。他にも都の通りの清掃など、住人の当番の人と、衛兵隊の屯所暮らしの若者たちであれこれ協力して行っている。
アッシュより二歳ほど年下のシェリアは、移住してきた若者たちに「ちょっと、しっかりしなさいよ!」と厳しい口調で腰に手をあて指さしながら、ビシビシ教えていた。
「顔は可愛いのに、ちょっと性格きついよな~」
そんなシェリアが、大袋にじゃがいもをがっつり詰め込んで運んでいて、何度も途中で足を止めているのを、アッシュが見かねて運んでみた。
「がんばりすぎだよ。半分にして運んだほうが早く終わる」
うるさいわね、と言い返されるかとアッシュは思った。
「……うん、ありがとう」
大袋を抱えたアッシュに、すでに汗だくのシェリアが、恥ずかしそうに言ったのは、ちょっと意外だった。
「アッシュは芋の皮むき早いね」
「俺はベルツ伯爵領の村育ちだからね」
持ち回りの役割以外に、酒場で提供される料理の仕込みなど、雑用の手伝いを屯所の若者たちは頼まれている。
訓練の日は動けなくなるまで走らされたり、木刀で腕が上がらなくなるほど素振りをさせられていて、それに比べたら、雑用は楽な仕事である。
雑用仕事が終わって「ちょっと休憩していかない?」と居住区のシェリアの家に誘われて、その時は本当に休憩のつもりでアッシュはシェリアについて行った。
「屯所の部屋より広いな」
「ママと私の二人暮らしだしね」
「えっ、そうだったのか、知らなかったよ」
「だから、なんかお仕事をがんばらないといけない感じがして。でも、アッシュは私に、がんばりすぎって優しく言ってくれてうれしかったんだよ」
そのあと、シェリアが沈黙してしまった時間に耐えかねて、アッシュは「あれ、そういえば、マリアーナさんは?」と聞いてみた。
「ママは役所の当番だから夜まで戻らないよ。アッシュ、私の気持ちに気づいてるんでしょ?」
椅子に腰を下ろしているアッシュに、背後から抱きついてきたシェリアが囁く。
そんなシェリアの恋の勢いで交際を始めたけれど、小貴族からの降格は良くないという雰囲気があるので、二人は周囲の人たちに交際していることは黙っていた。
アッシュがシェリアと、キスはしたけれど、その先はなんとなく進展がないまま、もやもやしているタイミングで、お金を払えば人に聞けないことを手取り足取り教えてくれる美人がいる噂を屯所で聞いた。
遠征軍の後発隊をモルガン男爵は解散させようと、除隊金を女騎士ソフィアに配らせた。そのお金を使うチャンスがなく、所持している若者が多かった。
(そういう人に、一度、教えてもらうのもありかもしれないな)
「マリアーナさん?」
「アッシュくん、ここじゃ名前で呼んじゃダメよ」
居住区には、空き家がちらほらできている。
パルタ事変のあと、地方の伯爵領へ家族で移住する人たちが住んでいた家が空き家になっている。
酒場で女店主イザベラに相談すると、空き家を紹介され、翌日の昼間にその空き家へ行くとお相手してくれる人が来るという噂は本当だった。
これには悲しい裏事情がある。
ベルマー男爵の破廉恥な行動から、堕胎した女性は妊娠できなくなってしまった。
その堕胎薬の副作用の不眠や頭痛などを抑えるには、治療として男性の精液を飲むのが効果的なのだった。
ずっとではなく、三回ほどて副作用は鎮まる。
モンテサンドが対応していたが体力の限界と、恋人のイザベラはモンテサンドを独占したいという気持ちから、こうした行為がひっそりと行われていた。
夫がいる人なら、妊娠できない体になったことを隠している後ろめたさ以外は、副作用の問題は解決できる。
しかし、未亡人の場合は深刻な問題なのだった。
恋人がいてどうすればよろこばせられるか悩んでいると、アッシュの相談をマリアーナは聞いた。
これまで二人の秘密のお相手には、全裸を見せたり、キスを求められ、胸のふくらみを揉まれるまでは許した。
お相手に興奮してもらい、自分で処理してもらって、出たものを指でふれてちょっと舐めるだけでも、副作用は抑えられた。
アッシュは、気まずくなって逃げて帰ろうとした。
「待って、アッシュくん、話を聞いてくれる?」
パルタ事変の前に何があったのかと、守ろうとした夫は王都トルネリカの震災で亡くなったことを涙ぐみながら、三十路の未亡人マリアーナは、青年アッシュに秘密の事情を話して聞かせた。
この時、マリアーナは一つだけアッシュに嘘をついた。
あと一回、今、アッシュと秘密の行為をすれば副作用は鎮静化することを、マリアーナは黙っていた。
手取り足取り教えられたアッシュは、マリアーナに同情しただけではなく、歳上の女性の包容力に胸がときめいてしまった。
その後、お金の取引はないけれど、空き家でのマリアーナとの密会が続いている。これは治療なんだと、頭ではアッシュは考えている。他の男性たちと関係を持ったら、マリアーナさんの秘密が噂になりかねない。
だから、自分だけと関係を持って治療してほしいと、アッシュはマリアーナに言った。
でも、シェリアとマリアーナ、どちらも好きという気持ちに悩んでしまった。
シェリアが母親に好きな人ができて貴族から平民になるかも、と相談して、マリアーナはアッシュの恋人が娘のシェリアだと気づいてしまった。
アッシュは、未亡人マリアーナにシェリアと交際中だと、バレていないと思っている。
「婚姻を気にしないで。好きな娘ができたら、私は大丈夫だから」
妊娠はしないけれど、すっかり副作用は鎮静化している。素直で優しいアッシュに惚れていて、秘密の関係をアッシュがもうしないと言い出す日が来たら別かれるのか、その時に考えようと、未亡人マリアーナは考えている。
シェリアは最近、親切なアッシュが、他の女性からも何気に慕われていることに気づいた。
最近、おとなしかったアッシュが、積極的なのも少しあやしい。
どうしたらアッシュが自分だけに夢中になってくれるか、料理も母親に教えてもらってがんばっている。
+++++++++++++++++
うーん、表現が露骨すぎるかな?
他の人はどんなふうにきわどいところを表現しているんだろう?
お読みくださりありがとうございます。
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